第170話・違いがわかるダンジョン
樹海から戻って一週間ほどは、学校の手伝いや畑、森でのスライム狩りなんかをやって過ごしていた。
その間にDELSONでやっていた解析結果が次々と出て、それをまとめたり、ちょっとした魔導具を開発したりとかなり忙しかった。
んで、本日は恒例のダンジョンお茶会の日である。
俺はここで樹海の探索でわかった事を発表するつもりでいたんだが……。
「ぬふ…ぬふふふふ」
なんか、ラムちゃんがニヤニヤしてんのよ……。
「どったの?ラムちゃん、なんか気持ち悪いぞ?」
「ぬふふふふ。ワタシはダンジョンとして更なる高みに登った!!」
どうしたんでしょうか?なんか悪いモノでも食べたんでしょうか?
なんて心配してるんだけど、クララ様は微笑みを浮かべてこちらを暖かく見守っている。
「ワタシはついに『おいしい』という感覚を理解した!!」
ビクトリーー!!って感じで両手を上げ勝利宣言するラムちゃん。
いやぁ~これはビックリだよ。ダンジョンが人間の感覚とか感情を理解するなんて前代未聞の出来事だ。
「これもクララのおかげ。いつも、ありがとう」
そう言って、ラムちゃんがクララ様に礼を言う。
「いえ、私もラムちゃんには助けていただいておりますから…」
クララ様が言うには、公務によるストレス解消の為に三日と空けずラムちゃんとお茶会をやっているのだそうだ。
そりゃそうだよね。貴族とは言えクララ様はまだ15歳だ。元の世界だったら中学生だよ。それなのに、この『実験都市』計画で激務を熟している。ストレスも溜まっちゃうよね。
そして、ランクアップしたラムちゃん曰く、一人で食べるよりみんなで一緒に食べる方が美味しさも増す!!と嬉しい事を言ってくれいる。
なんか、オジサン泣けてきちゃうよ。
「そういう事なら、ラムちゃんにお土産をあげましょうかね」
と言って、俺は樹海で手に入れたレーションを渡した。
「これはナニ?」
「樹海で手に入れた超魔法文明の遺物だよ。レーションって言って軍事用の携帯食料だよ」
ラムちゃんは、何とも怪しげな箱をシゲシゲと眺めている。
大丈夫だよ。ちゃんとDELSONで解析してるから食べられるよ。
箱を開けると中身はスティック状の携帯食と粉末飲料が入っている。
粉末飲料は水やお湯で溶かして飲むようだ。
ラムちゃんは恐る恐るスティックを取り出し口に入れた。
「……む~~…。これ、もういらない…」
ものすごく渋い表情でレーションを返してきた。
「あれ?そんなにマズかった?」
「お土産と言って人に渡すなら、最初に味見をした方がイイと思う」
ふむ、やっぱり軍事用の携帯食なんてモノは味は二の次なんだな。
しかし、ついこの間まで「美味しい」感覚が無かった美味しさ初心者のラムちゃんがテンションを下げるほどのマズさとは、どんなものなんだろうか?
俺は好奇心に駆られてレーションをかじってみた。
「ムホ……、これはヒドいなぁ……」
口の中の水分を一気に持っていかれた。味は仄かに塩味がする程度、ざらりとした喉越しの後に口に残る苦味…。ハッキリ言って激マズだ。
では、粉末飲料の方はどうなんだろうか?
コップに粉末を入れ、水で溶かしていく。
「うわ~。ナニこの毒々しいピンク色は…?」
隣でコップを覗き込んでいたルキアさんが唸っている。
正直、ショッキングピンクの飲物なんて飲む気がしない。
超文明人の食に対する感覚を疑いたくなる。
そして、勇気を出して一口飲んでみた。
……リアクションが執れない。テンションだだ下がりの味だ。
やたらと甘いし、変な柑橘系の匂いが合ってない。
それにこれも後味が苦いんだよねぇ~。
「よくこんなモノを食って戦争が出来たな…。ある意味感心しちゃうよ…」
これなら、まだ冒険者用の携帯食の方がイケると思うぞ。
しかし、これトン単位でDELSONに入ってるんだよなぁ。どう処分しよう?
「……!なぁ、ラムちゃん。ここにスライムを呼べる?」
「ん?呼べるけど…。どうして?」
「うん。この激マズレーションの処分を頼めるかな?って思ってさ」
「そか。なら試しに一匹だけ呼んでみよう」
それから3分ほどして10cm級のDスライムが壁の隙間から登場した。
俺はそのスライムにコップに残った粉末飲料をちょろっとかけてみた。
ショッキングピンクの液体をかけられたスライムがプルルッと震える。
「お!なんか喜んでるっぽい!」
ジッとしているスライムに更に粉末飲料をかけると、サッとDスライムが避けた。
「え?避けた?」
ジャッとかける、サッと避ける。ジャッとかける、サッと避ける。ジャッとかける、サッと避ける。
「クソ!なぜ避ける!!」
ちょっと意地になって、今度は携帯食も投入してみた。
「これでも喰らえーー!!」
粉末飲料を避けたスライムに携帯食を投げつける。
直撃した携帯食がスライムに見る間に吸収された。
すると、スライムがブルブルと震えだし動かなくなった。
「あら?死んじゃったか?」
ちょっと焦って突いてみると、ハッとしたかの様に動き出した。
どうやら気を失っていただけのようだ。
そして、スライムは脱兎のごとく逃げ出した。
「あららぁ~。やっぱり、逃げちゃったか~」
その様子を見てラムちゃんが呑気に宣った。
いや、これって由々しき問題だよ?あの悪食で有名なスライムが食べ物を避けて逃げ出したんだから。
「どういうこった?」
「それは簡単。ワタシが『美味しさ』を理解したから」
ん?よくわからん。どうしてラムちゃんが『美味しさ』を理解するとスライムが逃げ出すのよ?
「ワタシがバージョンアップした事でスライムもバージョンアップしたの」
普通、スライムは個体差があり、食べ物の好き嫌いが多少ある。
だが、ダンジョン産のスライムはダンジョンコアのデータを元に生産されている為に個体差がほとんど無い。
しかし、今回ラムちゃんが味覚を獲得した事で、Dスライムたちに強烈な個性が生まれたらしいのだ。
「て事は?ラムちゃんのスライム達も味覚を獲得したって事?」
「そういう事!!これもクララのおかげ!!」
と、ラムちゃんは嬉しそうだけど…。
どうするの?クララ様。情報統制で云々と俺の事をお説教してたけど、クララ様も同じ事をやってますよ。
これから、ダンジョンのスライム牧場で、スライム達の偏食が始まる事になるんですよ。牧場の手間が増える事になるんですけど?
クララ様?目を逸らさないで下さい!!




