第165話・翼よ…アレが…
「これじゃダメね。鉱石の値上がり率も職人の報酬額の見積もり甘いわ。もう一度、資料を調べ直してやり直しなさい」
そう言って、ユーノさんが俺の書いた書類を突き返してきた。
……もう何度目のやり直しだろう?てか、この書類仕事に何日費やしたんだか?
気づけば、俺の地下工房には山の様な資料が運び込まれ、それと首っ引きで書類仕事に追われていた。
ニ徹三徹なんのその、非常にブラックな状況が続いている。
「お館様、軽食と体力ポーションをお持ち致しました」
アンデットの隊長、リードがお盆にサンドイッチとエナジードリンク代わりのポーションを載せてやって来た。
ちなみに、今の彼には新型の強化鎧着せてあるので、超有名アニメの足の無いロボットが喫茶店で働いているみたいになっている。
アキバの有名カフェだったら、行列が出来るレベルだなぁ。
なんて事を霞の掛かった頭でボーっと思っていた。
そして、地獄の書類仕事が続くこと五日間、やっとこさ書類が完成した。
「じゃあ、これをクララ様に送って検討してもらいましょう」
ユーノさんはそう言って書類をメイドさんに預けた。
これで俺の仕事は一段落ついた。頑張ったんだから休んでもイイよね?
「って事で、ユーノさん。俺に休みを下さい」
「ナニを言い出すかと思ったら…。ま、イイでしょう。休暇は三日間あげるわ」
「やったー!ユーノさん、優しい〜」
「おだてても何も出ないわよ。ついでに私も2〜3日のんびりするわ」
さて、正式に三日の休暇が頂けた。ならば、どこかにお出掛けしょう。
ついでに新アイテムの試験もしたい。ストレス解消といきましょう。
んで、翌朝。いつものように森に来ている。
これからの三日間は前回も行った「迷いの森」コルソ樹海を散策しようと思っている。理由は二つ、超文明の遺産集めと樹海の奥にある謎の都市遺跡の所在確認をしたいから。
ちなみに、謎の都市遺跡の情報は異世界唯一のオカルト雑誌『月刊 エルドランド』からの情報だ。何故か不思議な事に毎月我が家に送られてくるのだ。
別に掲載されている情報を信じている訳じゃないんだが、ノートンさんって妙に勘が良いじゃん。もしかして?ってな事も無いとは言い切れないんだよねぇ。
「まあ、そんな事よりも今は新アイテムのテストに集中しないとね」
今回は新アイテムと言うよりバージョンアップアイテムの方が合ってるかも。
なぜなら、今回はロケットベルトに翼を着けてみたのだ!!
翼の形状はデルタ翼。鉄製の骨組みに帆布を使用して重量を減らし、風圧の掛かる翼の前面は鉄板で補強している。
当初、オール鉄製だったんだけど重量が20kg以上になって重すぎた。
で、今回は複合素材で作ってみたんだが、それでも10kgを超えているんでこれは要研究だな。それに耐久性も不安だし……。
で、ロケットベルトの性能はほぼ変わらないが、飛行時の姿勢が直立姿勢からうつ伏せ状態に変化するので、飛行速度の大幅アップが見込めると踏んでいる。
「問題は……。離陸の仕方なんだよなぁ〜」
飛行機は翼に受けた風で揚力を得て飛び上がるので、離陸には速度が必要だ。
元の世界だったら飛行機から飛び降りるのが普通なんだろうけど、今回は地上から飛び上がらないといけない。
そこを考えて離陸の方法を考えてみた。
*思案 その一
背中に翼があるのだから、腰を直角に曲げ全力疾走して離陸する……。
無理!そもそもそんな姿勢で全力疾走なんて出来るはずがない。
てか、腰を直角に曲げるって…。腰が死ぬわ。
*思案 そのニ
全力疾走しても速度が稼げないのだから、台車に寝そべってDELSONのパワーで離陸速度を稼ぐ。
……イケるかも?ただね、滑走路を整地しないといけない。
整地したところで未舗装の滑走路、そんな場所を地上高数センチの台車に寝そべって疾走するなんて怖くて出来ない。これも却下。
*思案 その三
素直に垂直離陸してから徐々に水平飛行に移行する。
……うむ、これが一番安心で安全だな。無理に滑走する事なんてないな。
んじゃ、試してみるか……。
俺はDELSONを背負い、コントロールレバーを操って噴射の出力を上げた。
ゆっくりと上昇して、ある程度の高度に達したらスピードを上げつつ翼を傾けていく。今は地面に対して90度の姿勢角度で飛行している。
翼の姿勢角度が80度、70度と徐々に傾き、60度近くになった時、上昇角度に変化が起こり始めた。
「おお!イイんじゃない!?なんかイケそう!!」
そこからは一気に角度に変化が起こった。気が付けば、飛行姿勢が地面に対して水平になっていた。翼が上手く作用したのだ。
こうなれば、後は操縦方法を覚えるだけだ。と言っても体重移動のバランスでの操縦だから感覚的に覚えるしかないんだけどね。
それからしばらくの間、試験飛行と操縦感覚の習熟を兼ねての飛行をした。
それでわかった事がある。この翼じゃ過激な操縦が出来ない。
急旋回なんてしようものなら、帆布の部分が破けそうになる。
「翼の素材がDELSONのパワーに負けてるのか……」
これじゃ戦闘状態になったら厳しいかもしれないな。早々に翼の強化を考えなくてはならない。まあ、普通に飛ぶには差し障りは無い。
それと、飛行速度はかなり向上した。
ロケットベルトの時の巡航速度は時速50〜60kmだったけど、翼のお蔭で水平飛行が出来ると最高速度が時速300km超、巡行速度は時速150〜180kmと大幅に早くなった。
一応、噴射ノズルの強化もしたから、理論上は音速も越えられるはずなんだけど、これも翼の素材が問題になるので無理だし、俺自身が音速に耐えられないので実現は不可能だ。
「衝撃波で身体がバラバラになるなんて冗談にもならんしね」
それでも前回の時より三倍は早いんだから合格だろう。
「それじゃ、早速『コルソ樹海』に向かって突撃するとしましょうかね」
そう言って俺は一気にスピードを上げて樹海に向かった。
流石に早い。20分も飛ぶと前回探索した場所に到着した。
だが今回も目的地は樹海の奥だ。もう少し飛んでみよう。
さらに飛行すること一時間ほど、流石に今回のノートン情報はガセネタかな?なんて思い始めた時だ。
「オイオイ…。マジかよ……」
レーダーにかなり大きな反応があった。
前回の比じゃない。少なくともヤドラムの街がすっぽりと入るほど広大な範囲に結界が張ってある。
「まさか、謎の都市遺跡が本当にあるとはねぇ」
胡散臭さタップリの情報というか、空想小説みたいな記事だったけど、ホンモノが目の前に存在するとなると、ノートンさんの勘の良さには震撼する。
ホントはノートンさんが超文明の使者なんじゃね?と、疑いたくなるほどだ。
「しかし、これだけデカいと調査だけでも一苦労だぞ…」
調査時間は今日を入れて三日しかない。本格的な調査は無理だな。
とりあえず、倉庫でも探して素材のゲットだけを考えよう。
そんな目標を決めて俺は都市遺跡に降り立った。




