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第163話・猪、鹿ときたら…


翌日、生徒達は今回の成果である2匹を鹿を即席の橇に括り付け村へと帰還した。


さあ、村ではお祭り騒ぎに!!とは、いかない。

今回の狩猟はあくまでも実習だ。

これから生徒達は2匹の鹿を解体し食用として加工及び下処理の作業を学んでもらう事になっている。


まあ、ぶっちゃければ生徒達は授業で解体は習っている。

実際、俺より上手かったりするんだよね。


今回学ぶ事になっている加工と下処理の作業は、正直に言って冒険者にとってはあまり必要な事ではない。


狩猟クエストでは冒険者は獲物を狩るだけだし、解体や下処理は有料ではあるが、ギルドや精肉店がやってくれる。


では、何故にこの作業を学ぶのかというと、彼らに自分が口にしているモノが如何に人の手を経ているかを知って欲しいと考えたからだ。


自分達が狩った獲物がどういう経緯を経て他の人の手に渡るのか。

それを知っているのと知らないでいるのとでは、仕事に対するモチベーションや丁寧さが変わってくる。


獲物を狩る時にも傷が少なくなる様に丁寧な仕事をすれば報酬も良くなるし、場合に寄っては固定客が着く事にもなるからだ。


いくら冒険者といえども、腕っぷしだけではやっていけない。

この国で生き残る為には、『迅速、丁寧、信用第一』が絶対条件だ。


第一、この国の冒険者のランク付けは攻撃能力以上に信用度が重要なのだ。


事実、Sランクの冒険者には「子育ての達人」なんて人もいるのが、その左証と言えよう。



んで、生徒達は何をしているかというと、校庭で村の奥様方たちに食肉加工の下処理を習っているところだ。


解体した肉は部位ごとに分けていく。燻製、塩漬け、ハム、ソーセージと保存用へと加工する。

骨に残った肉も無駄にはしない。そして内臓も捨てずに処理していく。



「うぅ~……。この作業……キっツい……」


いきなりの弱音はヘンリー君。戦士の顔は何処へやら、もう泣きそうだ。

それもそのはず、彼がやっているのは内臓の洗浄だ。

胃、小腸、大腸、ついでに膀胱。これを加工するには洗浄しないといけない。


腸の中にはいろいろと詰まっているからね。臭いもキツいから大変な作業だ。

それを大量の水を使って綺麗にしていく。


「おえェ~。臭いがぁ~……もう無理ぃ~」


バディー君もリタイヤ寸前だ。


「なにヘコタレてるんだい!!これがアンタ達の夕飯になるんだからね!!文句言わずに手を動かしな!!」


洗浄を担当している奥様方に怒られながら作業は続く。

ちなみに、この村にはモツ焼きとかモツ煮込みがあるんだよ。どちらも濃いめのタレで美味いんだ。学食では人気の上位にくるメニューだったりする。

それと、腸の類はソーセージにも使うから丁寧な仕事が求められるんだ。

そして、膀胱は皆が使っている水袋に加工されるので、そこそこイイ値段で売れるんだよね。


「しかし知らなかったとは言え、俺達が食べてたモツ煮込みがこんなに手間が掛かっていたなんて……」


ビクター君が感慨深げに呟く。


「そうだよ。これからは材料になった命だけじゃなく、その食材に関わった人達にも感謝して食べておくれ。食べ残しなんて以ての外だよ」


その奥様方のありがたい言葉にビクター君は「うん」と小さく返事をした。



そんな光景を眺めつつ、俺は……。


「ああ、猪、鹿ときて(チョウ)!一役出来てるジャン!」


隣にいたヘイゼル爺さんは、オマエは何言ってるだ?って怪訝な顔をしていた。

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