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第162話・猪の次は鹿


テンションだだ下がりの午後です。

生徒達のやる気スイッチは完全にOFFの状態。

まあ、気持ちはわかるんだけどねぇ〜。


もうこうなると、何をやっても上手くいかない。

今夜の食事は携帯食に渡したラーメンモドキのみという事になってしまうだろう。


早めに気持ちを切り替えて欲しいものだ。





「ああ〜。こりゃあダメダメだねぇ」


ルキアさんはそんな生徒達を眺めている。

ホントは気合いの入れ直しの活でも入れてやりたいんだろうけどね。


「まあ、横取りされた獲物が大きかったですからね〜」


だからと言って、こちらからは何も出来ない。

こればかりは自分たちで乗り越えないといけないのだから…。





生徒達は移動を開始した。先頭に立ったのはケビン君だ。

何気に彼が一番早く復活を遂げた。


「ほらほら、くよくよしても取られた獲物は戻ってきませんよ。次にいきましょう。次に……」


そう言って皆を励ましている。


「ケビンってさ。こういう時の切り替えって早いよねぇ」


と、レベッカさんが感心している。


「うちの村じゃ、くよくよ悩んでたら飢え死にしちゃいますからね。食べ物を手に入れる為には次々に動かないといけないんですよ」


流石は苦労人のケビン君である。

その言葉に影響されたのかはわからないが、それから徐々に生徒達の気力が復活し始めていった。


そして、日も傾き始めた頃に次の狩場に到着した。

この狩場は少し開けていて見通しが良い。こういう場所で狙う獲物は、鹿の様な大型の草食動物だ。

生徒達は夜間、群れで行動する鹿を狙うつもりでいるらしい。


「もうちょっと待ってて、もうすぐ編み上がるから……」


そう言いながらバディー君が慌てて網を編んでいる。

鹿を狩る事が決定した時、バディー君が授業で習った方法を試してみようと言い出したのだ。

そして、ここに来る道中に蔓草を集めて罠用に大き目の網を編んでいるのだ。


「慌てないでイイわよ。今はケビンたちに様子を見に行ってもらってるんだから」


レベッカさんが野営の為のテントを建てながら言った。


「それにまだ地形の把握もしてないんだし、焦る事ないよ」


今はケビン、ヘンリー、ビクターの三人が鹿の出現地域の状況調査を待っているところだ。この調査の結果を元に罠を仕掛ける場所を決める事になっている。


「投網の方は完成したよぉ〜」


サラさんは鹿狩り用の投網を三つ編み終えた。

後は鹿の群れが現れるのを待つだけとなった。





「網で鹿狩りか…。さて、教科書通りに上手くいくかな?」


ヘイゼル爺さんがニヤつきながら言っている。


「邪魔だけはしないで下さいよ。あの子達も頑張ってるんですからね」


「そんな事くらい、わかっておるわい!ワシはミュラーほど意地悪くないわ!」





夕暮れ、森が静かになる前に生徒達は行動を開始した。

残された足跡の具合から鹿の群れの行動を予測し、追い込む場所を選定する。

そこに大き目の網を仕掛けた。鹿を追い立て網に絡ませる戦法だ。

投網の方は補助的な役割を持っている。投げた時に足にでも絡めば動きを抑えられるはずだ。

追い立て役はヘンリー君とサラさんとレベッカさんだ。

予定の場所に鹿が飛び込んで来たら、残りの三人が網に絡ませる様に動く。


生徒達は作戦に従い、それぞれの位置で身を隠して鹿の群れを待った。

そして、太陽が森の木々に隠れ薄暗くなり始めた頃に鹿の群れが現れた。


15頭ほどの群れ、体格の良いオスが数頭に残りはメスのみ子供はいないようだ。

追い立て役が静かに群れを囲みに行く。

じわりじわりと間合いを詰めていく。

鹿の群れも何か感じるのか警戒を強め始めた。


そして、追い立て役が一気に動いた。


「ホー!!ホー!!」


ヘンリー君が大声を上げて鹿の群れを脅かす。

それに呼応してサラさんとレベッカさんがバサバサと木の枝を振り回し、大きな音で群れを罠へと誘導する。


ただ、あまり群れの誘導が上手くいかなかったようだ。

鹿の群れは少しづつバラけ始めて、罠の方向へ行ったのはオス2頭だけだった。


ここで何故かケビン君が行動を起こした。

逃げる1頭をやり過ごし、2頭目と擦れ違う時に投網を投擲したのだ。


「よし!!」


ケビン君には予定の行動だったらしい。投網は2頭目の足に絡みついた。

バランスを崩して鹿が勢いよく転がる。

その状況に1頭目の鹿が焦ったのか?木の間に仕掛けた大きな網に突っ込んだ。


鹿の角が網に絡まり動きを阻害する。


「今だ!!」


ビクター君とバディー君が動けなくなっている鹿に投網を投げる。

更に網が絡みついて動けなくなる鹿にビクター君が短剣を突き立て止めを刺す。


ケビン君の方は転んだ時に足を骨折したのか?諦めた様に動きを止めた鹿に余裕で止めの一撃を入れていた。


気付けば鹿を2頭も仕留めるという大成果だった。





「オイオイ。アイツ等、すごいんじゃないの?一気に2頭だって!!」


俺は生徒達の狩りを観察して興奮していた。


「ケビン君って案外、勝負師の素質があるのかもしれませんねぇ」


マリアさんはケビン君の行動を見て言った。


「いや。ケビンは賭けに出たわけじゃないな」


そう言ったのヘイゼル爺さんだ。


「アイツは皆が思っている以上に思慮深いし、咄嗟の判断が出来るヤツだぞ」


ヘイゼル爺さんに言わせるとケビン君のあの投擲は、1頭目の鹿を確実に仕留める為の補助的な行動だったらしい。

あのまま2頭の鹿が罠の網に突っ込んでいたら、網は破壊され下手をしたら2頭とも逃がしていたかもしれない。

そこでケビン君は2頭目の鹿に投網を投げ、別方向に逃がそうとした。


「運良く網が絡まった…。それが真相だろう」


ヘイゼル爺さんの見立てでは、そう解釈できるみたいだ。

だとしても、2頭も仕留めたのは大成果だ。

昨日横取りされたイノシシの分も取り返したと言えるだろう。


「まあ、覚束ない部分も多々あるが上出来だな」


あとは経験を重ねるだけじゃな。と、ヘイゼル爺さんは生徒達を評価していた。


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