第161話・油断大敵
さて、翌朝です。
快適なキャンプ生活って良いね。疲れも無く目覚めもスッキリです。
教師陣には、このコンテナハウスはかなりの高評価を頂けました。
しかし、生徒達の視線はキツいです。
睨む事ないでしょ?睨む事は…。アナタ達は訓練中なんだからさ。
んで、本日は朝一番から前日に仕掛けた罠の様子を見て回る事になったようだ。
一つ目、二つ目と昨日罠を仕掛けた『ヌタ場』を巡回する。
今のところ、罠には何も掛かってはいないみたいだ。
そして、三つ目の『ヌタ場』で事態が動いた。
仕掛けていた『括り罠』に獲物が掛かっていた。
「ブヒーー!!ブヒーーー!!!」
イノシシが中途半端に罠に掛かって激怒している。
しかも、コイツは只のイノシシではない。体長3mほどの電撃猪だ。
怒り狂って当たり構わずバリバリと放電している。
「うわぁ……。まさか電撃猪が掛かるとはねぇ」
レベッカさんが呻く。
「だからと言って、このままじゃマズいだろう?狩るしかないよ」
腰のミドルソードに手を掛けながらヘンリー君が言う。
ギラリと光ったその瞳は一端の戦士の瞳をしていた。
「でも、あの電撃はどうすんのさ?あれじゃ、近づこうにも近づけないぜ」
ビクター君が言うのも尤もな話だ。
「そこらへんはアタシに任せてくれる?ちゃんと対策があるから」
と、ガサゴソと荷物を探りながらサラさんが言ってきた。
サラさんは前回の訓練時に電撃猪と対峙した事があった。
その時はイノシシの電撃から死ぬ思いで逃げ出したんだが、それが余程に悔しかったのか俺に相談を持ち掛けた。
「ユウキ先生がね、電撃はある程度なら制御できるって教えてくれたの」
そう言ってサラさんが出してきたのは、鉄製の投げナイフ2本がワイヤーで繋がっているモノだった。
「サラちゃんが変な投げナイフ取り出して自慢してるんだけど?アレってユウキが作ったヤツ?」
ルキアさんが生徒達を眺めながら言ってきた。
俺はそれを確認しながら説明する。
「ああ、アレはちょっと前にサラさんから相談を受けて作ったヤツっすね」
「まさかとは思うけど、変な魔導具じゃないわよね?」
「違いますよ。アレは普通の投げナイフをワイヤーで繋げただけのモノですよ」
「それなら良いんだけど…。で、アレって役に立つの?」
「サラさんのアイデアを素に作ったヤツですからね。一応、仮想演習ではそれなりの効果はありましたよ」
「そう…。なら、お手並み拝見といきましょうかね」
ルキアさんはそう呟いて彼らの動向を見守っていた。
サラさんから戦い方の説明を受けてレベッカさんが対電撃猪戦の作戦を考案する。
他の生徒達の戦い方も鑑みて多少の修正をして作戦決行となった。
最初に動いたのはサラさんだった。後ろ足に罠を絡み着かせて動けないでいる電撃猪へ例の投げナイフを勢いよく放つ。
クルクルと回転しながらナイフに付いたワイヤーが電撃猪の角に絡み着き、一本のナイフはその顔面に突き刺さった。
「よし!!傷は浅いけど上出来!!」
サラさんがガッツポーズをする。電撃猪は激高して電撃を放つが角に絡み着いたワイヤーが顔面に刺さったナイフへと電撃を誘導する。
「ガーーーー!!」
逆流してきた電撃に驚く電撃猪が動きを止める。
「一斉射撃!!」
掛け声と共にレベッカさんが杖で石礫を撃ち出す。
それに呼応して、ケビン君とビクター君が獲物の足に目掛けて矢を放つ。
「グルルゥガーーー!!」
電撃猪が唸り声を上げ電撃を放ち無駄に自身の傷を増やしていく。
「よし!!上手くいってる!!追撃開始!!」
レベッカさんがイノシシの状態を見極めつつ遠距離攻撃を繰り返し、電撃の合間を縫うようにサラさん、ヘンリー君、バディー君の三人が接近戦で相手の体力を削り取っていった。
「う〜む、案外と様になってるじゃないの?」
生徒達の戦いぶりを観察しながらルキアさんが言う。
「そうですね。連携も良い感じじゃないですか」
と、マリアさんも感心している。
「そうじゃな。作戦も連携も充分に合格点じゃが…」
と、唯一不満そうなのがヘイゼル爺さんだ。
「この狩りは失敗っすね…」
俺も爺さんの考えに賛成する。
「え?失敗する要素は見えないけど?」
何で失敗するのよ?と言いたげにルキアさんが首をかしげる。
マリアさんも気が付いてないみたいだ。
「あれですよ。あれ…」
俺は狩りが失敗する原因を指差した。
「グルルァァーー」
度重なる攻撃で電撃猪が弱ってきている。
そろそろ止めを刺す頃合いだ。
「みんな!仕掛けるわよ!!イノシシの気を引いて!!」
レベッカさんの合図でヘンリー君以外がイノシシの注意を逸らすように動いた。
「ヘンリー!!」
電撃猪の視線からヘンリー君が外れた瞬間、レベッカさんがGOサインを出す。
「うおおーーー!」
雄叫びと供にヘンリー君が大上段から電撃猪の首元に斬りつける。
「ガァァァ……」
最後の攻撃を受けたイノシシが血飛沫を上げて動かなくなった。
ヘンリー君の攻撃は、頸椎を切り裂き頸動脈をも断ち切って電撃猪を絶命させたのだ。
「や……やったぞ……」
肩で息をするヘンリー君の元にみんなが集まってくる。
強大な獲物を仕留めたのだ。感無量だろう。
だが、それを待っていたかの様にそれは起こった。
スタッ……と、ほとんど音も立てずに電撃猪の死体へと舞い降りたのは、美しい毛皮を纏った森林虎だった。
「グルルルーーー」
威嚇の声を上げ生徒達を睨みつける森林虎に生徒達が唖然としている。
そう、これが狩りの失敗の原因だ。
「あららら。森林虎が狙ってたとは……」
と、ルキアさんも驚いている。
「最初からヤツは樹上から狙っていたわい」
ヘイゼル爺さんは、気付いていながらそれを黙っていたようだ。
生徒達は目の前の獲物に気を取られ、樹上の敵に気づけなかった。
そして、森林虎は捕食者によくある行動を選択した。
それは『横取り』だ。
イノシシの狩りを自分より弱い人間に任せ、事が済んだら獲物を横取りする。
楽して儲けるスタイル。前にいた世界でも、ライオンなどの捕食者は必ずやっていた狩猟方法の一つだ。
「ユウキも気付いてたの?」
「そりゃもう、バッチリと……」
俺にはDELSON製のレーダー機能がある。それのお蔭で気づけただけだ。
「しかし、何とも綺麗な獣ですねぇ」
まるで、黄金の光を纏っている様に輝いて見える。
「そうだろう。ある詩人には『森の覇者』と歌われ、狩人たちからは『死の天使』と恐れ敬われるほどの獣だからなぁ」
ヘイゼル爺さんも感無量といった感じで森林虎を見つめていた。
「うそ……」
目の前の光景にレベッカさんはそう呟いて動けなくなっていた。
他の皆も同じだ。全てを圧倒する力を秘めた『森の覇者』が現れたのだから…。
その光り輝く死神に、生徒達は畏怖し指一本も動かせないでいる。
森林虎は、動けない生徒達を一瞥してから目的のイノシシを咥えた。
そして、軽く振り回すと電撃猪の後ろ足に掛かっていた罠ごと引き千切り、風の様に森の奥へと消えていった。
「いやぁ〜魔獣化してなくても、あのパワー。スゴイの一言ですね」
それほど大きくはない森林虎が自分より大きな獲物を軽々と奪い取っていく姿を見て、俺は興奮していた。
「そうじゃな。『森の覇者』に相応しい」
ヘイゼル爺さんも良いモノを見られたと喜んでいた。
「マジかよ……」
せっかくの苦労が水の泡。
呆然と呟くバディー君の一言に、今回の狩りの全てが集約されていた。




