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第160話・ストレージ持ちの特権


この時期の森は動物が活発に行動している。

とは言え、それぞれの行動範囲は広大だが概ね決まっている。

しかも、殆どの動物が必ずと言って良いほど立ち寄る場所がある。

それが「水場」だ。森の動物達が喉を潤し、水鳥が羽を休める場所。


生徒達は森に幾つかある「水場」の一つに当たりを付け、そこに向かった。


その「水場」は小さな泉だった。澄んだ水が滾々と湧き出ている。

普段ならこの泉には、鹿などの他に大小様々な動物が喉の渇きを癒しにやって来ているはずであった。


「あれ?今時期なら鹿の一匹でもいるはずなんだけどなぁ」


そう呟いたのは、ヘンリー君だ。ちゃんと情報を入れているみたい。

しかし、その泉には大抵いるはずの鹿どころかウサギすらいなかった。


「時間的なもんじゃねぇ~の?」


なんてビクター君が言っているが、水鳥さえいないのもちょっとおかしい。


「なぁ、爺さん。何か仕込んだの?」


俺はヘイゼル爺さんが何かやったのかと疑って質問してみた。


「何もしとらんわい!ミュラーと一緒にすな!」


うむ、これは爺さんの仕業じゃないらしい。

じゃ、タイミングが悪かったって事かな?

それならば、この場所に拘る事なんかしないで移動するのもありかもしれない。

そんな事を考えていたら、周囲を確認していたバディー君がみんなを呼んでいる。

何かを見つけたみたいだ。


「これが原因じゃねぇの?」


と、指差す先に大きな足跡があった。

成人男性の手のひらほどの大きさがある足跡がクッキリと残っている。


「これって『森林虎(フォレストタイガー)』?」


みんなに確認するように呟いたのはレベッカさんだ。


「間違いないと思う。しかも、かなりデカいぞ…」


ヘンリー君が足跡を確認しながら言った。


森林虎(フォレストタイガー)』は名前の如くこの森に住む大型のネコ科動物だ。群れは作らず単独行動を好む。その毛並みは美しく優美で、ある国ではその毛皮の為に乱獲され絶滅寸前にまでなっているらしい。

ちなみに、この国では保護対象になっている為に狩る事は禁止されている。

なんせ国旗にデザインされているくらいの国の象徴でもあるからね。


「う~ん。コイツにバッタリ遭遇して傷つけでもしたら、俺達が犯罪者になっちまうぞ?そんな事になる前に移動しようよ」


そう言ったのはバディー君だ。


まあ、正当防衛の場合は犯罪者にはならないんだけど「触らぬ神に祟りなし」とも言うから移動するのが正解だろう。


そういう事なんで、生徒達は次の狩場に向かって移動を開始した。


次の場所はイノシシが泥浴びをする「ヌタ場」と言われる場所だ。

イノシシは自分の行動範囲のいたるところにヌタ場(泥浴び場)を作る。

夏場は頻繁に泥浴びを行い、体についた寄生虫を落としたり、他の個体とのコミュニケーションや体温調整をする習性がある。

なので、イノシシを狩るなら「ヌタ場」に罠を仕掛けたりするのが一般的だ。


生徒達は数か所の「ヌタ場」を回り罠を仕掛けた。

そして、今日はこれ以上動いても獲物にはありつけないと見切りをつけ、キャンプを張る事になったようだ。


生徒達は協力してテントを張り、焚き火の用意や安全確保に動いていた。

そんな彼らを俺達教師陣は少し離れた場所から観察している。


「うむ、皆なかなか良い動きをしているな」


と、ヘイゼル爺さんはご満悦だ。


「そうですね。協調性も役割分担も申し分ないです」


そう評したのはマリアさんだ。


「戦闘面での評価は出来てないけど、これなら安心かも」


と、ルキアさんは評していた。

んで、俺はというと……。


「よっこらせっと!!」


少し開けた場所にコンテナハウスを設置して、キャンプの用意をしている。

タープも張って、バーベキュー用の簡易キッチンも設置する。

ちなみに、コンテナハウスにはベットとトイレとシャワーを設置してある。

ある程度だが、快適なアウトドア生活が送れるのは確実だ。


「アンタのやる事って、なんかずるいわねぇ」


ってルキアさんは言ってるけど…。


「快適に過ごせる手立てがあるのに、それを使わないってのは性に合わないんですよ。それに俺は硬い地面で寝るのは嫌なんです」


俺のスペックはひ弱なヲタクなんだから、出来るだけ快適空間から離れたくない。

正直、キャンプなんてやりたくはないのだ。


「冒険者が聞いて厭きれるわい…」


と、ヘイゼル爺さんが呟いていた。




「ねぇ…。先生のところのアレはナニ?」


レベッカさんが遠目に見えるコンテナハウスを眺めて言った。


「前にユウキ先生が言ってたキャンプ用の小屋だよ。中はベットとかシャワーとかもあるんだってさ」


バディー君はコンテナハウスの事を聞いていたみたいだ。


「何それ?そんなのって何かずっこくない?」


「ずっこいって言ったところで、あそこを使わせてくれるわけないだろ?今は訓練中なんだからさ」


「あんな便利グッツがあるならアタシも使いたい」


「あっても、あれだけデカいんじゃユウキ先生しか持ち運べないじゃんか」


「くぅ~。ストレージ持ちの特権か!なんか悔しい」



こうして、訓練一日目の夜は更けていった。


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