第151話・駆除も清掃の内
そんなこんなでアンデットのお勉強の為にギルドに戻ってきた。
ロールさん曰く、低級のアンデットなら大して強いモノじゃないんで、対策をしっかりすれば大丈夫との事だった。
アンデットへの対策もそうなんだが、一番大事なことは『知識』だ。
「敵を知り、己を知らば百戦危うからずや」とも言うしね。
さて、今回の仕事相手のアンデットとは何ぞや?という所を勉強していこう。
ロール先生、お願いします。
「では、アンデットの種類から始めましょう」
アンデットは大まかに低級と上級に分けられる。
で、低級で最も湧き易いのが『ゴースト』と言われるヤツだ。
コイツは何にでも『憑依』してくるんだが、コイツに憑依されると恐慌状態になってしまい、その後の行動に支障が出て命取りになる事もあるという。
ただ、非常に脆弱な存在なので、光属性の魔法やアイテムがあれば簡単に駆除出来る。
そして、この浮遊霊みたいなヤツがアンデットの基本形として、いろいろと派生してくる。
次に多いのが、アンデットのメジャー選手『ゾンビ』とか『グール』、『スケルトン』と言われる動く死体系の方々。
コイツ等はゴーストが死体とか骸骨に憑依する事で発生する。
基本的に歩き回るだけの存在で、映画の様に噛まれてもゾンビにならない。
だが、死体は死体なので病気の原因になったり、蝿などの害虫の温床になったりする分、厄介な存在だ。
コイツ等を駆除するには、まず死体を焼いてから本体のゴーストを処理しないといけないので少々面倒なのだ。
そして、上級となるのが『リッチ』や『バンパイア』と言われる存在だ。
この上級種になると、危険度が幾何級的に跳ね上がる。
何せ、上級種は低級種と違い『自我』とそれに伴う『知識』を持っている。
しかも、魔法まで使ってくるヤツもいるという、チートっぷり。
魔法学会の見解では、コイツ等も基本的には『ゾンビ』や『スケルトン』と似たような存在だと思われるのだが、本体がゴーストの集合体と思われるので、攻撃性や耐久性が跳ね上がっていると言われている。
まあ、基本的にはアンデット系はみんなゴーストを元にした同系列のモノ。
対処の方法は強弱はあるが、本体を孤立させて光属性の魔法で叩くという力技でいけるのだ。
ただ、後処理というモノを必ずやらないといけないらしい。
それをしないと、またゴーストが湧いて出るという事だ。
何でしょうねぇ〜。消毒しないとまた害虫が湧きますよって感じで厄介な事この上ない。しかもだ、この後処理には『聖水』が必須なんだって。正に『聖水』による消毒だね。
んで、この『聖水』ってのがこの仕事の最大のネックなんだわ。
光属性の魔導具は三級危険魔導具なら比較的に手に入りやすい。
だけど、『聖水』だけは教会でしか手に入らない。しかも効果の強弱もあって、効果が弱い低級の聖水でも100cc程度の量で銀貨一枚と非常に高価だ。
しかし、後処理は中級以上の聖水を大量に撒いて現場を浄化しないといけない。
「マジですか?それじゃ全然、割に合わないじゃないですか」
「ホントは今回の仕事は教会の方でやらないといけないんですけどね……」
ロールさんによると、この物件の事で教会はビタ一文出す気はないらしい。
こういう事はよくあるらしく、どうにもならなくなって教会に泣きついてきた時に動き始め、高額な寄付を請求するんだそうだ。
これには領主様や王様も是正を求めているが、教会側は権威を嵩にだんまりを決め込んでいる。
「ほとんどの場合、浄化はしないで定期的に駆除する事で対処してるんですよ」
と、ロールさんは言っていた。
まあ、こまめに駆除していれば上級種もほぼ湧かないから安価に済むんだけど、不動産の価値が下がるのは痛い。かと言って、教会に高額の寄付をしたところで足元を見られるだけだ。
「何とも、教会がやってる事って『ゆすり』『たかり』の類じゃないですか」
「一応、宗教なんだから人心の救済はしてるし、被害に遭うのはお金持ちばかりですからね。それ以外の民衆からの支持は得られてるから、王様も御小言をいうだけであまり強くは出られないってのが現状なんですよ」
うむ、こんなところでこの国が抱えている問題を知ってしまった。
だけど、それを知ったところで何が出来る訳でもない。
政治的な事は上の人達にお任せして、今は今回の仕事に集中しよう。
「とにかく、俺のやる事はこのゴーストの駆除って事ですね」
「そういう事です。それで光属性の魔導具を用意しないといけませんね?」
「魔導具の方はDELSONで何とかなるんで大丈夫ですよ」
「そうですか。じゃあ、後は現状の確認ですね。ゾンビとかいると手間が増えちゃいますから…」
そうだね。まずは、現場に行ってどれだけ湧いてるのかを確認しないとね。
ただ、今回の仕事で俺は光属性の魔法を使う事はないと考えている。
何故なら、DELSONのストレージボックスの特性が使えるからだ。
皆さんは『and検索』とか『or検索』という言葉をご存知だろうか?
これは検索エンジンの勃興期に使われていた言葉で条件付きの検索方法だった。
現在の様にスペースをいれて検索すれば良いのではなく。
わざわざ「A」and「B」とか「A」or「B」とか書いて条件を入れて検索していた時期があったのだ。
『or検索』の場合「A」又は「B」の条件で結果が出され『and検索』の場合は「A」で尚且つ「B」の条件で結果が出される。
なぜ、こんな事を話したかと言うと、DELSONのストレージボックスの収納条件と言うのが、この『and検索』で成されているからだ。
DELSONのストレージボックスの収納条件は「生きている動物」以外のモノ。
これは「生きている」and「動物」で検索されているのだ。
だから「死んでいる」and「動物」は収納できるし、「生きている」and「植物」も収納できる。
であれば、動いてはいるが「死んでいる」and「動物」もしくは「生きている」and「ゴースト」等のアンデットはDELSONで対処が可能という事になる。
そう!DELSONは対アンデット戦では無双できるのだ!!
まあ、ゾンビみたいな腐った死体を収納したいか?と問われれば「否」と答えるけどね。いくらストレージボックス内では影響が無いとは言え、スケルトンならまだしも、腐臭のするゾンビは出来る事ならば避けたい。
だけど、これも仕事だ。ゾンビが居たならば我が儘を言わず対処しよう。
う〜む…。まさかこんな所で「特殊清掃」の仕事をするとは思わなかったなぁ〜。




