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第148話・虐殺の森

本日、2話目の投稿です


その森は野営地を囲むようにして存在していた。


件の人物ジプト氏が真っ直ぐ森に向かっていく。森に用足しにでも行くのか?とも思ったが、森の中にはもう一人謎の人物の反応があった。


俺は、寝床を抜け出しステルス機能を起動してジプトの後を着けていくと、やはりジプトは森に隠れていた黒装束に身を固めた人物と接触した。

俺は少し離れた場所から彼らを観察する事にした。DELSONのスコープ機能は改造済だ、多少離れていても盗聴できるようにしてある。


「商隊の様子はどうだ?」


開口一番、黒装束がジプトに尋ねた。


「今のところは大した警戒はしてねぇな」


「そうか。で、例の積荷の位置はわかっているのか?」


「ああ、それは確認している。だが、二ヵ所だ。情報の精度も低いぞ。ヤツらも馬鹿じゃないからな、偽の積荷も用意してあるようだ」


「なんだ?確実な情報を仕入れろと言っておいたはずだぞ?『引き込み屋』!」


「無理を言うな、相手はオリオ商会だぞ。仕込みに半年は掛ける大仕事を十日程度でやらせやがって、取引相手に潜り込めただけでも有り難いと思えよ」


「まあイイ。オマエには、これ渡しておく」


そう言って黒装束が何やらジプトに手渡した。


「これは?」


「ちょっとした爆弾だ。積荷のある馬車に仕掛けておけ。あと、決行日には食事と水に薬を仕込むのを忘れるなよ」


「ああ、了解した。で、決行日はいつだ?」


「二日後の深夜だ。野営地には邪魔が入らないようにしてあるから安心しろ」


「わかった。くれぐれも裏切るような事はするなよ。俺に何かあったらそっちにも都合が悪くなるようになっているんだからな」


「ああ、わかっている。オマエも裏切るなよ」


そう言葉を交わして、二人はわかれた。

ふむ、『引き込み屋』か…。所謂、押し込み強盗を働く時に使う『斥候』の事だ。

普通は、倉や金庫の位置とか警備の人数を仲間に知らせたり、押し込み当日に扉の鍵を開けて仲間を引き込む役の人間だ。

ジプトはそれを専門的にやっているヤツらしい。


て、事は……。オリオ商会の積荷が狙われてるって事か……。

何を積んでるかは知らないが、商隊が狙わているんだったら見過ごせないな。


俺はそのまま、黒装束の後をつける事にした。

しばらくすると、黒装束の上役らしい人物が待っていた。


「状況は?」


上役が聞いてくる。


「はっ。『引き込み屋』からの情報によると、目標は二つ。内一つはフェイクとの事です。どちらがフェイクかは不明です」


「そうか。情報収集の時間が無いにも関わらずよくやったな。流石は『引き込み屋』というところか…。他は?」


「護衛は『豪傑』と『夜蝶』の二組をメインに昇格試験の連中が4人。あとは、数人ほど剣が使える者がいるそうです」


「戦力は20人程度か。危険視するのは『豪傑』と『夜蝶』の9人。想定内だな。で、こちらの戦力は?」


「こちらは、三個中隊45人と我々シグナス隊10人の計55人です」


「ふむ、これだけの戦力差があれば圧倒できるな。で、手筈はどうなっている?」


「そちらも万全です。想定地の無人化も終了しています。あとは『引き込み屋』が手順通りに薬を盛れば確実でしょう」


「そうだな。だが、あくまでも今回の目標は積荷の奪取だ。他のモノには目もくれるな。あと敵は全員、確実に始末しろ女子供も容赦するな。目撃者は残すなよ」


「はっ!了解しました!」


そう言うと黒装束は駆け足で闇に消えていった。


「ふっ。アレは奴らの手に余るモノだ。我が主が使ってこそ、この国の為にもなろう……」


上役はそう呟くと黒装束を追うように闇に消えた。




………オイオイ、冗談じゃないぞ。皆殺し決定みたいな事を言ってたぞ。

商隊がナニを運んでいるか?なんぞ興味は無いが、商隊に何かあっては困るのだ。こちらは昇格試験が掛かっている。

ならば、この件は徹底的に潰す事に決定だな。

それにあちらは皆殺しに来るんだ、こちらがアイツ等を皆殺しにしても文句は言えないはずだ。『撃たれる覚悟が無いヤツは人に銃を向けるな』とも言うしね。



そういうことで、俺は残りの二日間を使ってDELSONに保管してある玩具にちょっとした細工を施していった。

まあ、今回の相手はそこそこの人数だ。俺一人じゃ対応しきれない。

なんで、黄金騎士や棒人形たちにも手伝ったもらおう。

そして、二日後の夕刻に戦闘想定地である野営地に到着した。


「なんだ?珍しく誰もいねぇじゃねぇか……」


ハワードさんが野営地の様子を見て呟く。

普通なら2〜3組の商隊がいても良いはずらしいんだが、今回は俺達だけだ。

敵さんがどういう手を使っているかは知らないが、この野営地の無人化に成功したらしい。


「そうねぇ。変に静かってのも薄気味悪いわね……」


と、『夜蝶』のメルトアさんも警戒を強めている。

流石は高ランクのパーティーだ。


俺はみんなの気が逸れているのを見計らって、ステルス機能を起動し森に隠れた。

そして、DELSONからアバさんを召喚した。


「どうよ?新バージョンの身体は?」


「ん〜、違和感は無いけどぉ。パワーアップしてる感じもない」


今回、アバさんには体内に棒人形を仕込ませてもらった。

棒人形とリンクして戦闘力とアバさんの存在時間を大幅にアップしたのだ。


「そうか?でも、存在時間はマナキャパシタで一ヶ月は保つようなってるはずだし、棒人形の武器のマナブラスターも使えるようになってるから、充分に兵器化できてると思うんだけどなぁ」


「あのさ、自分のコピーを兵器にするってのは、どうかと思うぞ」


「イイじゃん。元々、アバターの兵器化は考えてた事だし」


「まあ、今回は俺は戦闘に参加しないから良いんだけどさぁ」


「そうそう、戦闘は俺がやるからアバさんはアリバイの方をよろしくね」


「了解。そっちも無茶はするなよ」


そうして、アバさんはみんなの所に戻っていき、俺はそのまま森で待機する事になった。その間にゴーレム隊を召喚して戦闘準備をしておかないとね。


日が沈み、商隊のみんなが焚き火を囲み食事を始めた。

アバさんから棒人形を通して連絡がきた。案の定、ジプトは食事と水に少量の睡眠薬を投入していたそうだ。

薬の量自体が少ないので効き目は薄いが、いざ戦闘となると身体の動きが鈍くなるという感じらしい。そんな状態で襲われたら、イチコロだろう。

そして、夕食が終わりそれぞれが床につく頃、事態が動き始めた。


レーダーに敵の部隊が到着した事が確認できた。

俺達も行動を開始する。棒人形は全部で9体、3体一組で敵の一個中隊に対応してもらう。俺は黄金騎士と共に敵の本体であるシグナス隊に対応する。

棒人形と黄金騎士には小型の認識疎外用結界発生装置を取り付けてある。

これは、DELSONのステルス機能ほどではないが、明暗の迷彩を着ける効果がある。


棒人形隊が敵部隊に追いつき追跡モードに入るの確認すると、俺はコントロール装置の『暗殺モード』のスイッチを押した。


「作戦開始……」


すると同時にDELSONのモーターが静かに唸りを上げ、俺への精神作用を開始した。

あとは冷徹な殺人機械となって敵を処理していくだけだ。虐殺の始まりだ。


レーダー上では次々と敵の光点が消えていく。

そして、シグナス隊でも同じ事が起こっていた。


叫び声すら上げられずに兵士たちが死んでいく。不可視の黄金騎士が喉を切り裂いていき、俺は棒立ちになっている兵士の眉間に無音の弾丸を打ち込んでいく。


「な…ナニが起こって……」


例の上役はそのセリフすら言い切れずに、俺の弾丸を額に受け倒れた。

時間にして3分少々、呆気なく状況が終了した。

次に待っているのは死体の処理だ。ゴーレムたちに指示を出す。

まず、所持品を回収してから穴を掘って死体を埋めさせた。

あとは、ゴーレムごと所持品を回収して、アバさんと入れ替わった。

アバさんも馬車に設置してあった爆弾を回収してくれていた。



ジプトは未だに起こらない襲撃に苛立ちを覚え、森を睨んでいた。


「どうしました?眠れませんか?」


俺は素知らぬフリをして声を掛ける。


「え?い、いや〜ちょっと一服しようと思いましてね」


ジプトは誤魔化すようにタバコを取り出して見せた。


「そうですか…。では、俺からはこちらをお返ししますね」


そう言って、回収した爆弾をジプトに渡した。


「!!こ…これは?」


ぎょっとして、爆弾を見つめるジプト。


「大丈夫。ちゃんと無力化してありますよ」


「なぜ、こんなモノをワタシに…?」


「あと、アナタが待っているお友達は来られなくなりましたよ」


俺はジプトの質問には答えず、畳掛けるように話を続けた。


「まあ、俺にも都合がありましてね。今回の仕事を邪魔さると困るんですよ。ですので、アナタにはこのまま大人しく領都までお付き合い願おうかと思いまして」


ジプトは青ざめた顔で俺を見ている。


「ご安心下さい。アナタが余計な事をしなければ、これ以上ナニもおこりません」


そう言って、俺はジプトから離れた。


それから七日後、商隊は無事に領都『メルキア』に到着した。


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