第145話・護衛の仕事をやります
『実るほど頭が下がる稲穂かな』なんていう諺があったのを思い出し、この世界の冒険者家業って信用第一の仕事なんだと再確認したお茶会から一ヶ月。
俺は学校の手伝いや森への狩りにと忙しくスケジュールをこなしていた。
まあ、その一方でヒマを見つけては『黄金騎士』を稼働させデータを集めたりとか、新アイテムの製作したりとかも、しっかりとやっていた。
そして、再びランク昇級のためにヤドラムに舞い戻ってきた。
「なんか、行ったり来たりと忙しないですねぇ」
と、ギルドの受付嬢ロールさんに言われた。
「いやぁ〜何か、冬場にイベントをやるってルキアさんが言ってましてねぇ。それまでに、Dランクになってこいって御達しで……」
「なんかルキアさんらしいですねぇ」
「ええ、村じゃパーティ活動がほぼ無いですからね。少しくらいはパーティーらしい事がしたいんじゃないでしょうかね?」
実際、村では学校の事ばかりでパーティーらしい仕事はやっていないし、その必要もない。これじゃパーティーを組んだ意味がない。
はっきり言って今回のダンジョンでのイベントが我がパーティー『紅の風』(パーティーの名前なんてすっかり忘れてたよ)の初仕事となる予定だ。
「んでですねぇ。俺がDランクに昇級する為にも規定の仕事をしないといけないわけなんですよ」
「そういう事だったんですかぁ。ユウキさんも大変ですねぇ」
「面倒この上ないんですがね…。で、規定の仕事ってありますか?」
「ええ、あるにはあるんですが、片道なんですけど、それでよろしいですか?」
片道護衛か…。それしか無いのなら仕方ないかな…。
「三日後に出発する商隊なんですが、『サーク』の町を経由して領都『メルキア』へ行くモノなんです。行程は十日の予定で試験での参加者はユウキさん以外に3人、それと2組のパーティーが仕事として商隊に参加します」
そこそこ大きな商隊のようだ。行程は少し長めだけど目を瞑ろう。
「了解しました。それでお願いします」
こうして、俺の試験参加が決まった。
三日後、街の外には大小合わせて15台の荷馬車が集結していた。
これから領都に向かう商隊だ。それとその商隊を護衛する2組のパーティー。
『豪傑』と『夜蝶』というパーティーらしい。
そして3人の試験組と俺。最後に試験官でロールさんが来ていた。
「え?ロールさんが試験官なんですか?」
ロールさんが試験官をやるなんて聞いていなかったんで、驚いてしまった。
「はい。今回は特別に私が試験官をする事になりました。で、私自身も護衛対象になってますので、試験の採点項目になっています」
にこやかにロールさんが試験組に告げてくる。
まあ、護衛が仕事なんだから商隊に被害が出た時点でマイナス採点が当たり前だ。
当たり前なんだが……。なぜにロールさんなのよ?
アナタ、受付嬢でしょ?なんで今回に限って試験官なんてやってるの?
「領都のギルドに出張なんです。ついでに試験官もやれば出張費も浮きますから」
………守銭奴ギルドもここまでやるとは……。
「では、出発前の打ち合わせをしますから、一緒に来てください」
そう言って、ロールさんは俺達を商隊の責任者の元へと案内を始めた。




