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第141話・常に忠誠を…


真夜中。今の夜番はビクター君一人だ。

普通は二人体制なんだが、ここじゃ魔獣の類も出ないって踏んでいるんだろう。

これは、減点対象になる。鬼軍曹のミュラー爺さんの採点は厳しいのだ。


さて、俺はステルス機能を起動して野営地の周囲に張り巡らせている警戒用の『鳴子』の近くにいる。

ビクター君は焚き火の様子を見ながら周囲の警戒をしているようだ。

俺は警戒用のロープを勢いよく引っ張った。


カラカラカラカラ……!!


ロープに付いたある子が盛大に鳴り響く。

それを聞いたビクター君が慌ててこちらに走ってくる。

その間に俺は別の場所に移動する。


「な…なんだよ。何かいるのか?」


ビクター君が少しビビりながらも周囲を確認して回っている。

そしてビクター君が警戒を解いたところで、別の方向で鳴子を鳴らす。


こうなると、一人じゃ対応するのは危険と判断したビクター君が全員を起こして厳戒態勢を敷いた。


「ナニ?どうしたのよ?」


レベッカさんが杖を構えながらビクター君に状況説明を促す。


「鳴子が鳴った。確認したけど原因は不明だ。そんで別方向のも鳴ったんでみんなを起こした」


「了解。ウサギやネズミじゃなさそう?」


「姿は確認できなかったから、違うと思う」


「じゃあ、しばらくはみんなで警戒しましょう」


レベッカさんの指示で全員で警戒する事になったようだ。

俺は時間を少し置いて、みんなの警戒が緩んだところで鳴子を鳴らして回った。


鳴子を鳴らす度に生徒達は二人一組で現場の確認をする。

だが、それも3回目4回目となると疑問が出てくるようだ。


「これってさ…。ユウキ先生がやってるんじゃねぇの?」


そう言い出したのはバディー君だ。


「ああ、そうかも……。これって訓練って言ってたし…」


ケビン君も気づいたようだ。

だが、この訓練では俺は単なる実行犯。主犯の鬼軍曹の存在には気づいていないようだ。

訓練に気付かれた時の事も鬼軍曹には想定内の事。

ちゃんと指示書を受け取っている。そこにはこう書かれていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


  * 敵に作戦が気づかれた場合は「B・装備」を使用し、強襲せよ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


…………?なんでしょうか?……敵?……強襲?

これって学生用の訓練だよね?

ミュラー爺さんは兵隊でも育てるつもりなんだろうか?

とは言え、この俺があの爺さんの指示を拒否するなんて出来るはずない。

とにかく「B・装備」なるモノの中身を確認する。


その中身は……。

煙幕用の小麦粉入り小袋30個

こぶし大の泥団子100個

なんかメッセージが書いてある看板1個


う〜む…。煙幕で目潰ししてからの泥団子をぶつけろと……。

一応、4対1の不利な戦いではあるがDELSONの機能を使えば楽勝の作戦だ。

アイツ等の心が折れないか心配だが、盗賊なんかに襲われたら、こんなモノじゃ済まない。ここで疑似的にも経験しておくのも良いんだろう。

では、作戦開始といこうか……。


まず、定番として鳴子を鳴らしてみる。


「あっ、また鳴った!ユウキ先生もしつこいねぇ〜」


バディー君がうんざりして呟く。


「一応、バディー君とケビン君で確認して来て。たぶん、先生は鳴った場所から少し離れたところにいるはずだから、アタシとビクター君で先生を取り押さえるって寸法でいきましょう」


簡単な作戦だが4対1なら包囲戦が確実だろう。

ケビン・バディー組が鳴子の鳴った場所へと急行した。

レベッカ・ビクター組は二手に別れ、当たりを付けた場所へ身を隠しながら近づいていく。


俺はワザとレベッカ・ビクター組が当たりを付けた場でガサガサと音を立てて歩き回った。この行動にレベッカさんが引っかかった。


光よ(ライト)!!」


レベッカさんの呪文と共に魔法の光が辺りを照らし出す。

これで俺の姿を確認したビクター君が襲いかかる事になっていたのだろう。

が、しかし……。


「先生がいない!!ここじゃないんだ!!ハズした!!」


姿の確認が出来なかったビクター君が慌てる。


「ウソ?!足音はしたのに!!」


レベッカさんも慌てて周囲を見回している。

俺はその隙を突いて二人の足元に小麦粉弾を撃ち込んだ。


「キャッ?!」


濛々と上がる小麦粉の煙幕に更に混乱が広がる。


ドスッ!ドスッ!ドスッ!!


と、俺は二人に泥団子をお見舞いした。


「うわッ!!」


スマン。ちょっと威力を着けすぎたらしい、ビクター君が鳩尾を押さえてのたうち回っている。

この騒ぎを聞きつけ、ケビン・バディー組が現場に駆け付けて来た。

飛んで火にいる夏の虫…。俺は二人を正面に捉え、泥団子をお見舞いした。


ドスッ!ドスッ!ドスッ!!

ドスッ!ドスッ!ドスッ!!


「ギャッ!!」


「ウゴっ!!」


バディー君は足と腹に喰らった。

ケビン君は……、マジごめん。顔面に当てるつもりはなかったんだよ。

ちょっとばかり手元が狂ったみたい。


煙幕が晴れ、魔法の光に照らし出されている4人の生徒。

泥だらけの姿が痛々しい。

なんか、生徒をイジメてる気がして気が咎めるなぁ…。


そして、俺は次の行動へと移る。

彼らの寝床に看板を設置するのだ。

その看板には、有り難いメッセージが記してある。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


   本物の襲撃ならば、この程度では済まないぞ。

   警戒を怠ること無かれ。


             常に忠誠を…。 ミュラー


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


どこぞの国の海兵隊じゃないんだから……。

これはないんじゃないかなぁ〜。


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