第137話・世界はそれを『詐欺』と呼ぶんだぜ
そこは悪の巣窟……いや、オカルト信奉者の聖堂。
『ノートン古代文明研究所』。
なんか怖い所に引っ張り込まれちゃったなぁ~。
なんて思っていたんだが、入ってみたら普通の事務所って感じでやんの。
10人そこそこの職員たちが、机を並べて原稿にチェックを入れたり、校正したりと忙しそうにしているし、怪しい偶像も置いてなければ、奇怪な魔導具すら置いていない。至極全うな出版社だった。
「なんかイメージと違う……」
「あのね、どんなイメージを持ってたか知らないけど、ここはちゃんとした出版社なんだよ。変な宗教団体と一緒にしないでよ」
ボソっと呟いた俺の一言に対してノートンさんが文句を言ってきた。
だってさぁ~オカルト趣味の人の部屋って大抵がそれっぽくしてるじゃん。
変に照明を暗くしたりとか、水晶玉を置いたりとか、曰く因縁のあるモノを飾ったりとかしてさぁ~。
それがどうよ?すごく普通なの。みんなちゃんとした職員してるのよ。
拍子抜けしちゃうくらい普通なんだよねぇ~。
「当たり前だろ。こっちは真面目に雑誌を造ってるんだからさ」
商売は真面目にするのが儲けるコツなんだよって、ノートンさんらしからぬセリフを吐きやがりましたよ。
そして、『所長室』と表示された部屋に招き入れられた。
フカフカのソファーに座ると女性の職員が入室してきて、お茶を置いていってくれた。
「なんか真面目にやってるすね。ノートンさんって……」
「あのなぁ~。俺の事、どう思ってたの?」
「怪しげな趣味で身を持ち崩すタイプの人?」
「オマエなぁ……。超文明の遺跡だって現実に存在してるんだぞ。それを怪しげなモノとは……」
「だってさぁ~。見えない魔法使いだの沈黙の錬金術師って、強引に超文明と結び付けてるだけでしょ?怪しげ以外の何物でもないじゃないですか」
「う……。まあ、なんだ……。ちょっとばかり強引だとは思うけどさぁ」
おお、なんか白状しちゃったよ。このおっさんは……。
「でも、そっちの方が面白いじゃん。ネタ的にも広がりあるし…」
やっぱり、この人は自分の面白いと思う方に情報を操作してやがったか…。
「来月号の特集で見えない魔法使いと超文明のゴレームの関係についての記事を載せようって決めちゃってるしねぇ」
またそういう根も葉もない事を広めようとする……。
「それにさ、珍しいモノが手に入っちゃったんだよねぇ」
そう言ってノートンさんが自分のデスクの引き出しからあるモノを取り出した。
それは、つい最近、見た事のあるパイプ状のモノだった…。
「これは……」
それはかなり傷んで老朽化しているが棒人形の部品だった。
「ユウキは『迷いの森』って知ってる?」
「ええ、コルソ樹海の事でしょ?」
「そう、そこには超文明の遺跡があるって有名でね。魔法学会も毎年、遺跡の調査と保護を名目に調査隊を出してるんだけどさ。そこで発見されたモノなんだよね」
へぇ~と、興味が無いといった感じを装ってみる。
「学会の公式見解じゃ、コイツは単なる建築材料って事になってるんだけど、俺は伝説のゴーレムの部品じゃないかと睨んでるだよ」
「部品ですか……?」
マズい……。ノートンさんは勘が良いから変な所で正解を引き当ててくる。
「たぶん、学会もそれに気付いてる節があってね。密かにゴーレムの復活計画を進めているらしいんだ。それを来月号で暴き出そうって記事を載せるんだよ」
「大丈夫なんですか?そんな記事を載せて。学会から文句が出ませんか?」
「大丈夫!文句が出たら出たで、学会が秘密裡に何かを進めてるって証拠になるからね。学会はこの記事を見ても無視を決め込むはずだよ」
まあ、この手の雑誌の記事に一々反応するような組織なら、機密保持なんて出来やしないしね。
「あと、来月号に載せるのはコレだね」
と、ノートンさんは綺麗に磨かれた小石を出してきた。
「宝石ですか?」
「うん。宝石って言ってもクズ石だから銅貨5枚程度の価値しかないんだけど、コイツを近くの教会で『祝福』してもらって売り出すんだよ」
ああ~要は護符みたいな感じかな?
「コイツを『奇跡の石』って銘打って銀貨1枚売り出すんだぁ。当たれば儲けモンだよ~」
そ…それってば、元いた世界で言うところの『パワー・ストーン』ってヤツですね?根拠の無い奇跡を謳い文句にしてボロ儲けしようって魂胆ですね?
良いんかな?そんな事やって?この国にはその手の法律ってあるのかな?
大丈夫?ノートンさん…。世間はそれを『詐欺』って呼ぶんだよ。




