第119話・進撃のノートン
その日の夜の事。
夕飯後、本宅のリビングで皆とまったりお茶をしている。
ちょうど、クララ様もいるしタイミング的に良いかな?と思い、ここで秘密をぶっちゃける事にした。
と…、その前に……。
「クララ様、少しお話しあるのですが、人払いをお願いできますか?」
流石に今回のぶっちゃけトークは誰にでも聞かせるって事は出来ない。
話せるのはパーティーの皆とクララ様に限らせてもらおう。
「…?わかりました。アルフ…」
「はい」
クララ様の一言で執事のアルフレッドさんを含め、メイドさんの皆さんが部屋を退出していく。
そして、ひと息ついた頃を見計らって…。
「お話とは何でしょうか?」
と、クララ様から切り出してきた。
まず、俺はルキアさんとマリアさん、そしてユーノさんに対して謝罪した。
「ごめん。いろいろと面倒になるからぶっちゃけるわ」
「ん?例の事?ユウキが良いって思うなら私は構わないけど…」
「そうね。クララ様なら、秘密を知っても悪い事にはならないと思うから良いんじゃない?」
そう、ルキアさんとユーノさんは理解を示してくれた。
「私はユウキくんが決めた事なら話してもイイと思うし、それで何か起こったとしても私はユウキくんの味方でいるつもりよ」
マリアさんは俺をジッと見つめてそう言ってくれた。
ありがたい事だ。そんな皆の一言で俺は勇気が持てる。
そして、俺はクララ様に俺が見えない魔法使いとか沈黙の錬金術師と言われている人物の正体だという事を明かした。
「……まさか、そんな…ユウキさんがそうだったとは…」
クララ様は信じられないといった雰囲気で俺を見つめている。
「黙っていて申し訳ありません。しかしこれ以上、クララ様に秘密にしておくにもいろいろと不都合が生じると思い、打ち明けることにしました」
「その……、ユウキさんはその力を使って世界に何かを成そうとしていらっしゃるのですか?」
まあ、そう思うよねぇ~。でも、俺はそんな事を考えていない。
なんでこんな事になったかと言えば、俺の臆病と噂の一人歩きの合わせ技だ。
俺の安全マージンを高める為にやったテストが、たまたま見えない魔法使いという幻想を生み出したに過ぎない。
その事を説明すると、クララ様が「はぁ~」と盛大にため息をついた。
「では、私が出したクエストが見えない魔法使いを生み出す切っ掛けになったとも言えますよねぇ~」
そうとも言えるかな?あのクエストでノートンさんが盛り上がったの事実だしね。
「でも、最大の原因はノートンさんのオカルト好きって事じゃないですかね?あの人が大騒ぎしなきゃ、ここまでの事にはならなかったんじゃないかなぁ~」
と言っても慰めにもならないか…。
「ああ、その噂を広げたノートンの事なんだけどね」
と、ルキアさんが小冊子をテーブルに出した。
その小冊子は『月刊 エルドランド』と銘打たれていた。
『エルドランド』とは一万年前に滅んだとされる古代魔法文明の伝説の都市の名前で、そこには世界を支配できるほどの魔導具が隠されているという。
「なんです?これ?」
「最近、発行された雑誌なんだけどね。ノートンが好きそうな記事が満載でさぁ」
ルキアさんが買い物をした時に見つけて、面白半分で購入したらしい。
そして、ここを見てよとその雑誌に発行人の部分を指差した。
「『ノートン古代文明研究所』!?これって……まさか……」
「想像してる通りよ。アイツの出版した雑誌」
マジ?うわぁぁぁぁぁぁぁ。あの人、ナニしてくれちゃってるの?
これじゃ、噂が一人歩きどころか進撃しちゃってるジャン。
「しかも、この雑誌がそこそこ人気ってのが痛いのよねぇ」
「これじゃ、王国中に見えない魔法使いの噂が広がっちゃいますねぇ~」
マリアさんがそんな悪夢の様な現実を突きつけてくる。
「クララ様の権力を使って発行停止とかにできませんかね?」
「出来なくはないですが、それは悪手になるかと思いますよ」
「悪手ですか?」
「ええ。この手の読者は陰謀論とか大好物ですからね。下手に貴族が発行停止したら、それこそ真実を隠匿するための陰謀だってなり兼ねないですから」
これだからオカルト好きはぁ~。どうすんのよ?
これじゃ、ヤドラムの街がオカルト好きの聖地になっちゃうジャン。




