第117話・ラムちゃん、暴走す。
農家ダンジョンを目指して訓練開始だぁ!!
と、ラムちゃんが気合いを入れて田植えのシュミレーションを始めた。
魔法少女のコスプレでエア田植えというシュールな光景を横目で見つつ俺はダンジョンコアの部屋の改装の続きを始めた。
まずは前室とコアのある部屋を仕切っている壁の改良だ。
前回の時は単にパーテーションを切っただけの形になっていたが、今回の改良では本格的な『壁』にしようと思っている。
まずは、パーテーションの板を外してっと……。
それから、今までDELSONに貯めてきた石のブロックを並べる。
このブロックはクリエイト機能を使って、厚さ30cm×高さ20cm×幅50cmと大きめのレンガ状したモノだ。ブロックの上下にはそれぞれに突起と凹みが設けてあり、重ねると動かなくなる仕組みになっている。
玩具のブロックを参考に造ってみたけど、これがなかなかの優れもので上手く積み重ねるとかなり頑丈な壁が出来上がる。
「ねぇ、なんで前室を狭くしてるの?」
ラムちゃんが俺のやっている事に気付いて聞いてきた。
「ん?まあ、これはちょっとした仕掛だよ」
「仕掛?」
「そう。仮に前室の二重の鍵を突破されたとして、踏み込んだ部屋が狭かったら冒険者の心理として警戒するだろ?」
「そか。あからさまな罠って考えるのか」
「そういう事。それでこの部屋に踏み込んできた冒険者を閉じ込めてスライムの5匹も頭上から落としてみなさいよ」
「この部屋は『罠部屋』だって事になって、それ以降は近づかなくなる?」
「たぶん、そうなるはずだよ。似たような部屋を増やせば更に効果的になる」
「うわぁ〜。ユウキって人間のくせに狡猾だねぇ〜」
ラムちゃんは少し引き気味だが、俺は人間ほど狡猾で卑怯な生き物はいないと思っている。
「人間なんてのは狡猾な生き物なのさ。だから無力で貧弱なのに繁栄できてる」
「人間って怖い生き物なんだねぇ」
「ラムちゃんも努々油断なさるなよ。人間は目の前の小銭を得る為に同族殺しさえ平気でやる生き物だからな」
「わかった。油断禁物」
その日、夜遅くまでラムちゃんとは俺と共有している知識を使って元居た世界の歴史や戦争について話した。
「ユウキの居た世界って、かなり殺伐と世界なのね」
「まあ、メシを食いながら話す話じゃなかったな」
「うむ、普通ならこのラーメンモドキもマズく感じるはずだよ」
「すまんな。変な話をして…」
「それは構わないよ。ワタシは人間という生き物に興味が湧いてきた」
「そか、それなら良いんだ。まあ、俺の居た世界ってのは、紛争やら戦争が必ずどこかでやっているような不安定な世界なんだ。その反面、とても平和で文化が発展している国もあるっていう、ちぐはぐなところもあるんだよ」
「ワタシ達、魔獣や獣の世界はもっとシンプル、殺るか殺られるかのどちらか」
「そうだったな。一見平和的に見えてる植物の世界でさえ弱肉強食の法則がしっかり働いているしね」
「人間は自分の感覚でしか物事を計れない。植物の世界は時間的なスパンが非常に長いから一層、人間には理解が難しい」
「俺の居た世界でも、それが分かり始めたのはここ100年ほどの事だからね。こっちの世界の人間がそれに気づくまでにどれくらいの時間が掛かるのか?」
「それはこちら側の人間に世界を知ろうとする気持ちの余裕が出来てからの話」
「そういう事だね。それまでに、この文明社会がまた滅びないように祈るしかないって事かな」
こうしてダンジョンの夜は更けていった。
翌朝のこと。
「ワタシには経験が足りない!!」
と、突然ラムちゃんがわけのわからない事を言い始めた。
寝起きにこのセリフである。
「ラムちゃん、急にどうした?」
「未だに食事の味覚が!美味さの感覚が掴めない!!」
昨夜は遅くまで「人間の残虐性」やら「金と権力への執着」やら、やたらと高尚な話をしたからその反動でおかしくなったのか?
「ラムさんや、まずは落ち着こうか。美味さの感覚って、数値的には理解してるんじゃなかったけ?」
「そう、成分の数値としてなら理解出来てる。でも、人間は美味さで感動できる、その感動をワタシは知りたい!!」
「ああ〜。そういう事ね。でも、何故に突然?」
「ワタシは昨日の話で人間に興味を持った。もっと人間についてよく知りたいと思った。ならどうすればいいのか?ワタシが人間の心理を理解するのに最も簡単なモノは何か?それは人間の美味いという感動の気持ちを理解する事!!今のようなラーメンモドキと串焼き肉だけの食生活では到底、感動という心理を理解するのは不可能だ。それならば、もっと食事に多様性を持たせれば良い!だが、ユウキの世界の食事を再現するまでは到底待つ事は出来ない。ワタシはダンジョン内にいる人間達から食料を恵んでもらい自分の経験値としようと思う!!!」
ナ〜ニ言ってんでしょ?滔々と演説をぶっこきやがりましたよ。この幼女は…。
「食料を恵んでもらう?それってもしかしてラムちゃんがダンジョン内を徘徊するって事?そんな事して大丈夫なの?」
「大丈夫!ワタシは単なるアバター。破壊されても本体が無事なら死にはしない」
「そりゃそうだけどもさぁ。それに冒険者に食料を恵んでくれって言ったところでそう簡単に恵んでくれるとは思えないんだけど?」
「そこらへんも想定済み。タダで恵んでもらおうとは思ってない。ちゃんと報酬は用意してある」
と、ラムちゃんがあるモノを取り出した。それは魔石だった。
「え?ラムちゃんって魔石を造れるの?」
「そんな事は無理。でも、造った魔獣は魔石を持ってる」
そういう事か。それで魔石と食料を交換すると…。
「それなら、冒険者にとっては得になるから交換すると思うけど…。逆に襲われたりするかもよ?」
「それなら、さっきも言ったように大丈夫だよ。それに襲ってきたら返り討ちにするから冒険者がワタシの糧になる」
それってイイのか?低階層のダンジョンにラスボスが徘徊するようなものだぞ。
まあ、冒険者が欲をかいてラムちゃんに手を出さなければイイ話なんだけど…。
このダンジョンの危険性が一気に上昇しちゃった気がするなぁ〜。




