第108話・裏でコソコソ…
アサイ村一発目の仕事は、一緒に帰ってきた出稼ぎ組のガンツさんの畑の雪溶かしのお仕事だ。やる事は簡単、畑で麦わらを燃やして燃えカスの灰を畑に撒くだけ。
これをやると、畑に積もった雪が早く溶け、撒いた灰も肥料になる。
元の世界でも同じ事をやっていた所もある。俺の爺さんの畑では春先の恒例行事になっていて、焚き火で餅や大福なんかを焼いたりしてたな。灰だらけになった大福が妙に美味しかった思い出がある。
そんなノスタルジックな思い出に浸りながら、畑に灰を撒いた。
畑の灰撒きを終え、ガンツさんの家族と一緒に昼飯を食べてから学校の視察へと向かう。
学校の場所は村の外れの森を切り開いて専用の敷地にしたらしい。
敷地の入り口に見知った顔が待っていた。
大工のゲンさんことゲンダリウスさんだ。
「お待ちしておりました」
ペコリと綺麗なお辞儀をするゲンさん。生真面目な人だ。
「お出迎え、ありがとうございます」
相手が丁寧だとこちらも自然に丁寧な態度になるね。
「では、まいりましょうか」
そう挨拶を交わしてから、俺はゲンダリウスさんに案内されて学校へと向かった。
二階建ての学校はすでに完成している様に見えた。
「外身は出来上がりました。今は内装を手掛けているところです」
校内は教室と職員室はもちろんのこと図書室とそれに食堂も完備されていて、ギルドの出張所も設置されるとの事だった。
校舎裏は職員と生徒達の寮になっている。魔導ボイラーも設置されているので、この寮には大浴場がある。至れり尽くせりの設備だ。
「思った以上に立派なモノが出来上がりましたねぇ」
「ありがとうございます。完成にはあと一ヶ月ほど掛かる予定になっております」
その頃には生徒もアサイ村に到着しているはずだ。タイミング的にちょうどいい。
校舎と寮の内見も済ませて、次は俺の家の視察だ。
場所は学校から5分ほど歩いた所だった。途中には各施設の予定地がいくつか区割りされていた。何かいろいろと関連施設を建てる予定との事だった。
伯爵様…気合い入ってんなぁ〜。どんだけ資金をぶち込んだんだろう?
考えるだけで寒気がしてくるよ。
俺の家はまだ基礎しか出来ておらず、魔導ボイラーの設置もしていない状態だ。
「ユウキ様の住宅なのですが、設計を一部変更するという事でしたので工事の方が遅れております」
と、ゲンダリウスさんが済まなそうに言ってきた。
「俺の方は遅くなっても構いのですが、変更の連絡は受けていないんですよ、どういった変更があったのですか?」
「おや?こちらでは設計変更はご了承済と聞いていたのですが…」
ん?どういう事だろう?自宅の件はゲンダリウスさんに丸投げしていたとは言え、誰が変更の指示を出したのかな?もしかしてギルドかな?
ゲンダリウスさんは「えぇ〜と…」と言いながら、何やら書類を出してきた。
「こちらが設計変更の指示書となっております。伯爵令嬢のクラリベル様とパーティーリーダーのユーノ様の連名で提出されています。変更内容は客間の増築と浴室等の水回りの変更、それとユウキ様専用の離れの増築となっておりますね」
は?なぜ俺の自宅の設計にクララ様とユーノさんが絡んでるの?
まあ、お金の出処が伯爵様だから、クララ様が何か言ってくるのは百歩譲るとしても、ユーノさんが絡むのがわからない。
「えぇ〜と…。書類にはこの家をユウキ様が所属しているパーティー『紅の風』のパーティーハウス兼伯爵様の簡易宿泊施設にするとなっています」
はぁ〜、納得…。要はここをクララ様の別荘扱いにしようという事ね…。
うむ、それは良い…。なんせ、こっちは無料で自宅を支給されるんだから文句は言いませんよ。
ただね…。俺が所属しているパーティーってなんだ?
そもそも俺はパーティーなんぞ組んだ覚えも入った覚えもないぞ?
しかも、パーティーのリーダーがユーノさん?
ユーノさんって冒険者だったけ?フリーの魔導具技師じゃなかった?
どういう事?いったいどうなってるの?
「パーティーに関しては私共の範疇外ですので、ギルドの方でご確認下さい」
ですよねぇ〜。よし!アドルさんが赴任して来たら聞いてみよう。
とりあえず、家に関してはこれ以上見ても仕方ないので視察を終える事にした。
ゲンダリウスさんが言うには、学校の内装工事の進捗次第でこちらの家の方の作業員を増やす事ができるようになるので作業の遅れは少なくて済むらしい。
焦らずにお願いしますね。俺が知らないうちに伯爵令嬢さまの宿泊が決定事項になっちゃてるんだから、しっかり造り込んで下さいね。
さて、裏でユーノさんがナニやら動き回っているのが気になるが、今の状況じゃ調べる事も出来ない。
アドルさん率いるギルドの出張所組がアサイ村に赴任するまでの我慢だ。
それまでは、おとなしく畑仕事のお手伝いでもして待ってましょうかね。
これからドンドンと村は忙しくなっていくんだから…。




