第102話・ヤーヴェグループ、始動。
現場監督さんに実演を兼ねて木を切り倒していくこと数本、ふとある事に気が付いた。
普通、切った木はすぐに建材に使う事はしない。少なくても一年は乾燥させるはずなんだけど、その辺どうなの?って監督さんに聞いてみた。
「ああ、管理棟に使う建材は他に用意してありますよ」
との事、んじゃ何で切ってんの?って話なんだが、それはこの木はスライム牧場と管理棟のライフラインの為に使われるんだそうだ。
まずは、ダンジョンの入り口から牧場までの補給路の舗装用、ホントは石を使って舗装したいんだけど、経費の節約で丸太を半分にしたヤツを敷く事にしたそうだ。
次に水源の確保用、川の上流に取水設備を設置するのとその用水路用に使うという事だ。で、最後は牧場の柵に使うんだって。
変な事に大盤振る舞いする割に節約する所はキッチリとしてる。
お貴族様の考える事はよくわからないなぁ。
そんな感じで日は進み、いつものようにギルドに街クエストの様子を見に行くと、ヤーヴェさんから雪かきのご指名を受けた。
タイミング的にちょうどいいね。ついでに試作したインスタントラーメンの相談もしよう。コイツが売り物になるなら、そこそこの稼ぎになるはずだ。
お昼少し前にヤーヴェさんの屋敷に到着した。
玄関をノックすると間をおかず、メイドのアーヤさんが出迎えてくれた。
「お待ちしてました。ユウキさん」
「どうも、お久しぶりです。かなり積もっちゃってますねぇ」
そう挨拶をして、玄関周りの積雪を見回してみた。
屋根から落ちたであろう雪が2mほどの高さになっている。
「ええ。雪かきの依頼は出しているのですが、こればかりは…」
まあ、これは仕方ない事だ。近くに川でもあれば良いけど、この街には特定の雪の捨て場所が無い。溜まった雪は自然に溶けるのを待つだけだ。
「じゃ早速、雪を片付けちゃいますね」
そう言って雪かきを始めようかとすると、アーヤさんから待ったが掛かった。
「ヤーヴェ様が、ユウキさんが来られたら一緒に昼食をとおっしゃっておりますので、こちらにどうぞ」
ラッキー。昼メシは自作のインスタントラーメンで済ますつもりでいたが、いきなりランクアップしたぞ。
「あ、そうですか?なら遠慮なく…」
俺はアーヤさんに案内されて、ヤーヴェさんの待つ食堂に向かった。
「久しぶりだな。噂は聞いているぞ、調子はどうだ?」
そうヤーヴェさんが出迎えてくれた。
「お久しぶりです。どう噂されているかは知りませんが、いろいろと動き出しましたよ」
「そうか。昨年末からナニやら街が騒がしくなってきたからな。息子や弟子たちから情報を集めていたが、やはり動き出したか…」
流石はヤーヴェさんだ。いろいろと探っていたらしい。
「領都の方でも裏でコソコソと動き回っているらしいからな。目聡い商人なら準備をしているだろう」
「そんな事までわかっちゃってるんですね。流石は商人」
「商人の情報網を舐めるなと言っただろう。しかも今回はあの領主様が絡んでるんだ。大金が動くはずと商人共も騒いでいる」
まあ、この話は食事でもしながら…ということで、テーブルに豪勢はお昼ご飯が並べられた。
「それでな、息子も弟子たちもこの商機に乗ろうと動き始めているのでな、ワシも少々計画を前倒しして春には店を開こうと思うておる」
おお〜。ヤーヴェグループも動きが早いね。それなら俺もちょっと儲けさせてもらおうかな。
「そうなんですか?実は俺も今日は新商品の試作をしたんで、それの売り込みもしようと思ってたんですよ」
「ほぉ〜。タイミングが良いな。で、どんなモノかの?」
これです。と言って俺はインスタントラーメンを出した。
「なんじゃ?これは…」
「これは携帯食料です」
「携帯食料か…。あれはマズいから非常食に持っているだけの御守りみたいなモノだからなぁ。そうそう売れるモノじゃないぞ」
「俺もあのマズさは知っていますよ。だからコイツは携帯性や保存性は無論のこと味も考慮して試作してみました」
「しかし…コレは何とも言えない見た目だが…」
そりゃそうだろう。茶色の揚げた麺の塊の見た目は良くない。
「このまま食べても良いとは思いますが、まずはお湯を用意してください」
元の世界じゃ、元祖のインスタントラーメンをそのまま食べる人を『ストレート派』なんて言ってなぁ。
アーヤさんに熱湯を用意して貰っている間に俺は持参したマグカップに麺を入れてその上に乾燥野菜と干し肉を細かく刻んだ具をいれた。
DELSONでフリーズドライの具を作った方が味は良いと思うけど、ここはこの時期に街で手に入れやすい乾燥野菜と干し肉にしてみた。
そして熱湯を注いで3分後、出来上がったラーメンをヤーヴェさんに薦めてみた。
「ほ〜、スープパスタか…。だいぶ細麺じゃな」
あ、そうか。こっちの世界じゃ『ラーメン』って言葉は無いんだった。
ならば、これもパスタになるんだなぁ。
「うむ。味の方は携帯食料より大分マシなようじゃな。携帯性も申し分ない、あとは値段か…」
「味の方はまだまだ改良の余地はありますが、それはプロの料理人にお任せしますよ。開発レシピはこれに書いてありますから参考にして開発をお願いします」
そう言って俺はヤーヴェさんに開発資料を渡した。
「ん?ワシはまだ採用するとは言っていないが?」
「ヤーヴェさんなら構いませんよ。それにコイツが売れたらある程度の期間を置いて資料は公開するつもりでいるんで…」
「ほ〜。技術は秘密にして利益を独占するのが普通だと思うが、どうして?」
「コレはそんな大仰なモノじゃありませんよ。たかが食い物です。それなら商人同士に競争させて、より美味い携帯食料の開発を促す方が冒険者には得になります。それに商売敵が増えれば価格競争にも拍車が掛かるってもんです」
食い物は美味くて安い方が良いに決まっている。それには独占より競争が必要だ。
これは個人的な考え方なんだが、商人が『お山の大将』になっては発展する事が無くなってしまう。それでは消費者が困るのだ。思考の停止は商人には『死』と同義語だと思う。
「ふむ、やはりオマエを冒険者にしておくのは惜しいな。どうじゃ、今からでも遅くは無い商売人としてワシの弟子にならんか?」
「前にも言いましたが、俺は気楽な冒険者の方が性に合ってますから…」
ふむ…、もったいないのぉ〜と、ヤーヴェさんがブツブツと言っていたが、やっぱりそこは譲れないんだよね。
ちなみに、インスタントラーメンの方は販売契約を結ぶ事ができた。
これも薄利多売の商品だけど、家庭用の保存食に喰い込めれば更に儲けが見込めるからヤーヴェさんには頑張ってもらいたいね。
さて、午後は雪かきに精を出しますかねぇ〜。
お読みいただき、ありがとうございます。
今年ラストの更新となります。
来年ものんびりと更新していきますので、ヨロシクお願いします。
来年は1月7日(木)の更新を予定しております。
大晦日だけど、読む人いるのかなぁ?




