表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

天才軍師となった元婚約者の悪役令嬢の命令に従い、竜騎士団長子息は勇者のパーティーに加わり大魔王討伐へ行く!

作者: 桜草 野和

 世界に存在する7つの大国。その国王たちが次々と大魔王リグードの魔力によって、戦争の虜になっていた。竜騎士団長子息のキルスに守られたアーガセント王国のクランド国王以外は……。




 アーガセント王国の冬は、他所者には耐えられない寒さだ。それなのに彼ら勇者のパーティーは、軍師殿のご命令通り“氷の谷”で、隣国マシュールの軍隊を撃退し、王都に帰還する俺を早朝から待っていた。

 勇者セリックからパーティーに加わってほしいと頼まれたが、俺は首を横に振った。

 もちろん、平和だったこの世界に戦争を巻き起こした元凶である大魔王リグードを倒しには行きたい。だが、今はアーガセント王国から離れるわけにはいかない。俺がいない隙を狙って、どこの国が侵略してくるかわかったものではない。


 俺はドラゴンの巣穴で育った。ドラゴンが食べ残した魔物の肉を命懸けで喰った。それが生まれて最初の記憶だ。

 そいつらはドラゴンの巣穴の近くに捨てたら、すぐに喰われると思ったのだろう。

 だが俺は、生き延びた。ドラゴンに何度も襲われ、死にかけたこともあったが、生きることに執着し、希望を捨てはしなかった。不思議だ。誰からも“希望”というものを教わったわけではないのに、俺は“誰よりも強くなる”という希望を抱いて生き延びていた。

 今思うと、ドラゴンたちに手荒く鍛えられ、食事を与えられていたのかもしれない。と、夢物語のようなことを考えることもある。



「私の戦術はどうだったかしら? キルス副隊長」


 アーガセント城に戻ると、答えが何であるか知っているのに、意地悪そうに笑みを浮かべて軍師殿が聞いてくる。


「軍師殿の戦術は完璧でございました。この度の戦の勝利は軍師殿のおかげでございます。感謝申し上げます」


「よろしい。ちゃんとわかっているようね。それより、キルス。軍師殿って呼ぶのはやめてと言っているでしょう。前みたいにローズと呼びなさいよ。私たちは元婚約者という素敵な仲なのだから」


 俺は公爵令嬢のローズと結婚するはずだった。しかし、ローズが俺と結婚するために、邪魔をする女たちに毒薬を飲ませた罪がばれてしまい、島流しの刑となったのだ。公爵令嬢でなければ死刑になっていたはずだ。

 ところが、ローズが島流しになる前日に、隣国のマシュール王国が奇襲しかけてきた。ローズは独自のルートでその情報を入手し、見張りの兵に伝えた。

 事前に察知していたおかげで、マシュール王国の軍隊を撃退することができた。

 ローズはその功績が認められ将軍補佐となり、島流しの刑を回避した。まったく、なんと悪運の強い。まぁ、おかげで俺も助かったのだけれど……。

 さらに、ローズは戦の度に見事な助言をし、今では軍師として戦術の指揮をとっている。


「ところで、キルス。あなた、勇者のパーティーに加わることを断ったそうね」


 もう知っているのか。


「この状況です。王都から離れるわけにはいきません」


「これは命令よ。キルス、行ってきなさい」


「嫌です。絶対に嫌です」


「まったく子供ではないんだから。命令に従いなさいよ。どうしてそんなに大魔王討伐に乗り気じゃないのよ? あなた、もしかしてリグードが怖いの?」


 別にそう思われてもかまわない。


「まぁ、キルスが臆するわけないか。大丈夫。アーガセントの心配はいらないから」


 軍師殿がそういうと、10人ほどの女が姿を現した。


「いつかこんな日がくると思っていたわ。だって、キルス、あなたの強さは本物なのだから。彼女たちは私が世界中から集めた結界師よ。3日間。3日間なら、彼女たちの結界によって、アーガセントにはどんな軍隊も魔物も入っては来れない。安心して、勇者たちと大魔王リグードを倒してきなさい」


 3日か……。空間魔法で魔王城まで行けば、リグードを倒す時間は十分あるな。


「キルス、あなたが私たちの希望なの。さっさと、リグードを倒しに行ってきなさい」


「ローズの言うとおりだ。キルス、勇者殿と力を合わせ、リグードを倒してきておくれ」


「クランド国王様。ご無理されないでください」


 大魔王リグードに襲われたときに、体の右半身を石化されてしまったクランド国王様が広間に姿を現した。あの時、俺はリグードを撃退したが、その記憶は残っていない。“竜騎士の力”を使っても、リグードの圧倒的な魔力の前に、まったく歯が立たなかったところまでは覚えているのだが……。

 クランド国王様はその時の様子をご存知のようだが、なぜか俺には教えてくれない。クランド国王様は、ご自身の政治力が平凡であることをご理解されていた。ただ、家臣の助言を聞き、それを分解して再構築される能力には長けていた。おかげで、アーガセントは経済的にも平和な国だった。そのクランド国王様が教えてくれないのだから、何か理由があるに違いない。


 バシッ。ケツを思い切りローズにムチで叩かれる。


「さっさと行きなさいよ」


「……国王様を、民を、頼んだぞ、ローズ」


「ふん。私を誰だと思っているの」


 俺はまたローズにケツをムチで叩かれる前に、城をあとにした。



 俺は家に帰り、父上に大魔王討伐に向かうことを告げた。ミシュラルド家は、代々竜騎士団長を務めてきた一族だった。そして、22代目当主のミシュラルド・ハミルに、俺はドラゴンの巣穴の近くで保護された。

 後継ぎがいなかった父上は俺を養子にしてくれた。俺は敵をなぎ倒す父上に憧れ、竜騎士団に入った。ドラゴンの巣穴で育った俺が、竜騎士団に入ることになるとは、妙な縁を感じた。何かに導かれているような。


「父上、これより勇者殿と共に、大魔王討伐に行ってまいります」


「うむ。息子よ誇りに思うぞ。例えその命を勇者殿の盾にしてでも、リグードを倒すのだ。この世界に平和を取り戻すのだ」


「はい、父上。ミシュラルド家の名を汚さぬよう、戦ってまいります!」


「その目だ。お前と初めて会った日のことを今でもよく覚えている。天を割くような“強き目”。お前ならきっと成し遂げられよう」


 俺は父上に大魔王討伐のことを告げると、竜舎へと向かい、相棒のセドを連れて行く。セドは雷の属性のドラゴンで、体は大きくはないが攻撃力に優れていた。


 勇者セリックたちは、都門の前で俺を待っていた。


「寒かったでしょう。俺が来るまで待つつもりだったのですか?」


「君の目を見て、信じない奴が逆にいるのかい? あらためて仲間を紹介するよ。エルフ族の剣士のフィアー」


「お噂に間違いはなかった。キルス殿がいれば、必ずやリグードを倒すことができるでしょう」


 フィアーが俺に頭を下げて感謝の意を表す。


「そして、この生意気な小娘がホビット族の賢者のリリアン」


「別れは済ませてきた? 全員無事で帰れるなんて甘い期待はしないほうがいいわよ」


「大丈夫。全員無事で帰れるという希望はあります」


「それはよかったわね。時間がもったいないから、もう行くわよ」


 セリックとフィアー、そして俺も大きく頷く。


「ビアージュ!」


 リリアンが空間魔法を使う。




 竜騎士団員は相棒となるドラゴンと契約を交わし、パートナーを組む。相棒となったドラゴンが死んでしまった場合は、竜騎士団を引退する。

 そして、竜騎士団員は、戦闘になると、相棒のドラゴンと同化をして戦う。ドラゴンの硬い皮膚を覆い、鋭い爪を生やし、戦闘力を格段に高める。それが“竜騎士団の力”だ。


 俺はセドと同化して、勇者セリックたちと共に大魔王リグードと戦った。だが、その魔力は圧倒的で、俺たちは苦戦を強いられていた。


「危ない!」


 勇者セリックが、リグードの魔力で無数に飛び交っている吸血槍に刺されそうになっていた。


 俺は勇者セリックの盾となり、腹を刺される。吸血槍が、俺の血をどんどん吸っていく……。


 意識がもうろうとする中、


「リル、あなたはドラゴン族の代表として、大魔王リグードと戦うのです。人間の姿になってしまう災いの魔法をあなたにかけます。人間からも学ぶべきことを学び、いざという時にドラゴン族の本当の力を開放するのです」


と優しく、強い声がどこからともなく聞こえてきた。前にも一度、こんなことがあったような。


「ウォーーーーーー!!!!!」


 俺はセドとの同化を解いて、人間の姿からドラゴンの姿に変身した。そして、吸血槍をすべて氷の息吹で凍らせた。


 あとのことはあまり覚えていない。ただ、勇者セリックに聖剣で切られた大魔王リグードの断末魔だけは、はっきりと聞こえ、ちゃんと覚えている。



 リグードの魔力から解放され、4つの大国は戦争をやめた。しかし、隣国のマシュール王国と、空飛ぶ新兵器を開発したと噂のブルジッシュ王国は戦争を続けた。結局、この2つの国の王は、リグードの魔力にかかろうがかかるまいが、戦争をしたかったのだ。



「かんぱーい!」


 王都に戻った俺は、久しぶりにローズとバーに飲みに行った。何度も何度も乾杯をした。ローズも俺もどれだけ酒を飲んでも酔いつぶれることはない。


「もう、なんでもっと早く大魔王討伐に行かなかったのよ。キルスだったら、リグードなんかすぐにボッコボコにできたでしょ」


 酔っぱらったローズもかわいい。


「だって、俺は守らないといけなかったから」


「はいはい。キルスの愛国心はよくわかっていますよーだ!」


「俺はローズを守らないといけなかったから。何が何でも」


 長い付き合いだが、ローズの目が点になるのを初めて見た。


「言っておくが、ローズが毒薬なんか使ったおかげで、婚約解消することになってしまったけど、俺はずっと好きなままなんだ」


 ローズが完全にかたまる。


 俺は父上に対する恩義もあったので、婚約解消を受け入れるしかなかった。だが、もしあのまま、ローズが島流しの刑になるようだったら、父上には申し訳ないが、ローズを助け出し、2人で逃げ出すつもりだった。


「俺は今でもローズと結婚したいと思っている。多分、俺は、一生ローズを好きでいるのだと思う。多分。というか、俺自身はローズのことを嫌いになったとか、そんなことは一言も言っていない。周りが……」


 ローズは俺にキスをした。


「多分、って何よ」


「多分は多分だよ。すごくそんな気がするんだ」


 毒薬はやりすぎたと思うが、自分に正直に生きているローズを俺は今も愛している。


「ローズ、俺と結婚してくれないか?」


「意地悪。返事はわかっているくせに」


 これからも君のことを守るよ、ローズ。もう、君から離れることなんてできっこないよ。俺の愛しき婚約者さん。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ