Hello,lovers.
ハロー、ハロー、愛しき君へ。
聞こえていますか?
届いていますか?
こちらからは君のいる星の様子はわかりませんが、きっと届いていると信じて、このボイスメッセージを送信します。
それでは、初めまして。愛しき君。
僕の名前は『No.16』といいます。この数字は実験体ナンバー。僕の存在を証明する数字です。
僕はとある研究所の培養液の中で産まれた、造られた命です。培養液の味、酸素の音、水槽の向こうの研究員の皆が、僕の世界のすべてでした。
僕は、いいえ、僕たちNo.と総称される実験体は、ある目的のために造られました。それは、今まさに僕が為そうとしていることです。
僕がいた星に棲む人類という生き物は、日々技術を進歩させています。宇宙飛行士という職も出来ました。有人飛行で他の星を調べ、無人の探査機も、星の海の遥か先まで旅をするようになりました。
ですが、有人飛行はリスクが高い。そう何度も出来るものではないのです。費用も、安全面も、どれだけ考えても足りません。
かといって無人の探査機では、その仕事に限度がある。起きた不具合を直す人員はどこにもいませんし、調査に対する柔軟性ではまだ人間のほうが強いのです。
だから僕を造った研究所では、以前から、調査員の製造を始めていました。
気を遣わなくていい使い捨ての道具。
無人よりも正確で、有人よりも単純。
そのために造られた調査員が、僕たちです。
親も友人もいない僕たちなら、長い孤独の旅に出しても構わない。不幸な事故が起きたって、また造ればいいのだから何のリスクも無い。
不幸だと思いますか?No.の境遇が悲惨だと、そう思いますか?
けれど僕は、いえ、きっと他のNo.も、幸せなのです。
僕たちNo.は、研究所から出たことがありませんでした。培養液の水槽で産まれ、研究室で毎日同じ検査の繰り返し。
そんな僕たちが、唯一知っていた外の世界が、『宇宙』なのです。
僕たちがいた世界は閉じていて、どこにも行けなかった。でも、与えられた教材で見た宇宙はどこまでも広がっていた。美しかった。
例えどんなに真っ黒で、真っ暗で、冷たくて寂しい孤独な世界でも。どれだけの危険が待っていようとも。
僕たちにとっては、初めての、憧れていた外の世界なのです。
だから今僕は幸せです。こうして調査に出られたことが。十数年の年月を経て、やっと宇宙に来られたことが。
僕と同時に出発した他のNo.も、きっと今の僕のように満ち足りた笑顔をしているでしょう。
……ああ、もうそろそろ、ですね。
ハロー、ハロー、愛しき君へ。
聞こえていますか?
届いていますか?
もうすぐ君に会いに行きます。
どうか幸せな出会いになりますように。
──No.16、通信終了します。




