ユース育ち
「俺は、中高大と、サッカー部の男むさい中で育ったからよくわかんねーんだけどさ。ユース育ちって、あんなもんなの?」
「あんなって……?」
逢坂は、江野と顔を見合わせた。
逢坂もそうだが、江野も神前も、小学生のときからファルケンの下部組織に所属していて、『サッカー部』とは縁がない。
「構ってくれ。そばにいてくれって──仲間とか友情に飢えてるかんじ? あいつ、戻れるなら寮にも、戻りたいんじゃねーの?」
「……直くんの場合は、ちょっと特殊、かと」
「特殊?」
「同期入団がふたりいたけど、どっちもフォワードでライバル関係な反面、お互いがお互いだけを意識して切磋琢磨してたんで……要は、直くんには一切構わなかったというか」
「あー。部活だと、ポジションちがっても、クラスがいっしょだったり、変わったりで、誰とでもつるみようがあるっていうのはあるな」
「……そのふたり、学校もいっしょで。ついでに言えば、中学まで、地域のトレセンなんかでもいっしょになってたらしく。小学生のときからここにいて先輩も後輩も知ってる直くんとちがって、よく知ってるのはお互いだけ、だったんじゃないかと」
「なるほど。大して仲良くもねーふたりといっしょにプロになっちまって、疎外感があった、と?」
「それと──直くんがユースのキャプテンやってたとき、スタメンの半分はいっこ下の俺たちだったんで」
「ああ。いっこ下のやつらがまたえらく仲がいいから、そこでも疎外感、か。部活でも、二年が実力でスタメンになるのはめずらしくないけど、三年に対する遠慮はどっかであるし、よほど実力が上ってんじゃなきゃ、大体は三年を優先するもんな」
ふんふんと、納得したように紀藤がうなずく。
「ユースの方が、クールに実力主義で、かつそもそもが個人主義なんだな」
「……個人主義でやってたつもりはありませんけど」
「おまえは、な。だから、おまえらの代だけ仲が良かったんだろ? あいつ、すげーうらやましそうに話すもんな。マコたちは今でもオフにはいっしょに自主トレしてるーとか」
ちら、と紀藤の視線がこちらを向いた。
逢坂は、うなずきを返す。
「たしかに。そんなふうに仲がいいのは誠さんの代だけだとおもいます。俺に言わせれば、ユースなんてめちゃくちゃ個人主義ですよ。他人に構ってたからって自分をプロにしてくれるわけじゃないし、って考えです」
「けどまあ、いっしょにプロになったら今度はチーム内での競争に向けて、手を組むのが同期ってやつじゃねーの? おまえはピンで上がってきてるから、そういう意識はねーのかもしれないけど」
「あとは、ポジション柄もあるはず。キーパーとフォワードは、構われたくないってタイプが多い……よな?」
江野の視線に、逢坂は苦笑した。
「構われたくないってことはありませんけど。ひとがそばにいないとさみしい、とかはないですね。ひとりでいる方があたりまえ、というか」
紀藤が、無言で肩をすくめる。
「ともかく。神前の構われたがりは慢性病ってことだろ。恋人でもできりゃ変わるんだろうけど、まだその段階までいってねーってかんじ」