グラニ時代の証言
桜井陽斗:元横浜グラニ所属、現在イタリアに移籍。アイドル的人気を誇る王様。代表選手。
曽根大樹:元FF所属。ユース出身で、赤間や神前の先輩。グラニからイングランドに移籍。代表選手。
「あのな。洗濯に耐える、そうと気づかれない超小型発信機なんて、一般人がおいそれと入手できてたまるか。相手は特殊工作員じゃなく、ただのサッカー選手だぞ?」
「赤間優児はただのサッカー選手やないき!」
そこは、頑として譲る気はないようだ。
「…………天才って、言われてるよな。頭がいいわけ?」
「ただ頭がいいひとと、天才のちがいなんか、わかるわけないき」
「そりゃそうだけど。おまえ、桜井陽斗や曽根大樹さんともチームメイトだったんだろ。あのひとたちより、すごかったわけ?」
「すご……い、っていうか────おっかない!!!」
「おっかないのはわかったけど。それは天才かどうかとは無関係だろ」
「……そうだ。すごいより、すごみ──」
「凄味?」
「そう。凄味があるんだ……だからおっかない! わかるがやろ?」
「ふうん? 天才の凄味、ねえ。わかるような、わからないような……」
「わ、か、れ!」
ぼこ、と逢坂の腕を殴って怒る。
「直さんいわく、誠さんの同期はえらく仲がいいらしいけど。その、凄味のある天才が、どんなふうに誠さんと仲良くするんだ?」
「あ……」
「ん?」
「曽根さんの前では、なんか、子どもみたいだった」
「はあ? 子ども? ますますどんなひとだかわからないぞ」
「だって、子どもみたいににこにこ笑顔で甘えてて──よけいこわかった!」
「何でだよ」
「曽根さんがオレらにもやさしいからに決まっちゅうが! おまえらアニキに迷惑かけたら殺すよって、目で脅しゆうがよ。超こえー!」
「……アニキ?」
「わかんない。けど、曽根さんのこと、アニキって。や、ヤクザ的な、なんか? ここの土地柄とか?」
「アニキって呼び方とヤクザを結びつけて、勝手におまえがビビッてるだけなんじゃないのか?」
「いいや、もっと恐いものがあるがやき!」
「もっと?」
とたんに、羽角が視線を逸らす。
「さ、桜井さんと、赤間さんの会話……」
「──美形ふたりだな」
「顔やないき! いや、顔がいいだけに、よけいおっかないがよ、あのふたり!」
「仲が悪いってこと?」
「……桜井さんは、赤間さんのこと名前で呼ぶわけ。そしたら、赤間さんはジロ、ってにらんで無視!」
「ち──チームメイトだろ?」
というか、会話がこわい以前に、それでは会話が成立しないではないか。
逢坂の突っ込みが聞こえたように、羽角が身を乗りだす。
「名字で呼べば、なに、って返事するんだよ。こえーだろ?」
「気安く名前で呼ぶなって言いたいわけか」
「赤間さんって、口調がやさしげなぶん、内容とえらい落差があってさ。そこがまたこえーの! 笑顔で、心が折れそうなこと、平気で言いゆう」
「……例えば?」