Substitute
「でも……」
『でも、何? あいつの愛を、疑ってるの?』
「疑えないくらいに深くて──怖い。注がれるべきはわたしじゃないのにっておもいながら、手放したくなくなって……胸が痛いの」
『今でも直くんがいちばん好きなはずなのに、って?』
「うん」
『そうでもないんじゃない? 今の礼は、俺と逢坂、どっちがいちばんかなんて、どうだっていいはず。手に入るものと手に入らないものとじゃ、比較にならないよ。する必要もないしね』
「優児と直くんじゃ、話がちがう」
『ちがわないよ。一度、おまえに逢坂をたのむって言ったんだよ、あのひと。もう何があっても、逢坂を受け入れたりしない。直くんは甘いし、甘えただけど、そのくらいの筋は通す男だよ。逢坂は、それがわかってて、礼のことをあのひとに紹介したんだ。もう、終わってる』
「終わってない! 終わるはず、ないでしょう? 直くんは今もそばにいて、彼を必要としてるんだから!」
声を荒らげた礼に、沈黙が返ってくる。
「ご、ごめんなさい、優児」
『いや、ちょっと考えてただけ。あのさ──カテゴリーを変えたのかもよ』
「え?」
『礼にとっては、俺だって今も恋愛対象なのかもしれないけど。逢坂にとっては、恋愛のカテゴリーから、直くんを外しちゃったのかも。どんなに直くんが大切でも、恋愛対象としては、礼がいちばんで、唯一の存在、ってことじゃない?』
「そ、んなの……」
『直くんなんかは、それがぜったいできないタイプなんだけど。大事なものに、恋愛もクソもない。あいつはさ、それが心地よくて、自分も引きずられちゃってたんだよ。でも、礼を恋愛対象として見たときに、直くんへの愛が恋愛である必要はないってことに気づいたんだとおもう。まあたぶん、頭で考えたんじゃなくて、直感でだろうけど』
「……優児が言うと、何でも尤もらしく聞こえるけれど──」
『じゃあ訊くけど。逢坂が直くんに、体温がどうとか、触れてないと眠れないとか、言うところが想像できる? 三年も、単なる後輩として、すやすや眠ってたんだろうが、っていう』
「…………想像、したくない」
『もういっこ、言っとく。これはまあ、たぶん、だけど──』
「たぶん?」
『あいつは、自分に向けられてる直くんの愛と執着がどこからきてるか気づいてるんだとおもう。直くんにとって、ほんとうに『とくべつ』なのは自分じゃない、って』
「それ……って?」
『とくべつ』なのは、自分だと、言ってる気がする。
電話の向こうからは、重いため息が返ってきた。




