きもち、心、愛
「あの。俺のことばって、ウソくさいですか? いざとなったら、平気で口からデマカセが言える人間なんで、信じてもらえないのも無理はないですけど。俺、大事なひとを守るためにしか、ウソは言いませんよ」
「………………」
「え? 何ですか?」
「……なんで、こんなにかっこいいひとが、わたしの目の前にいるんだろうって」
次の瞬間、逢坂のジーンズに置いたままだった手を、礼はびっくりして引いた。
目が合った逢坂が、苦笑する。
「礼さん────シャワーに行くんじゃなかったんですか? 今のがゴーサインのつもりじゃないなら、押し倒されない内に、行っちゃってください」
「……いいの?」
「いいですよ。……ああ、でも、五分くらいして、俺も行っていいですか?」
「エッ……?」
「濡れてる礼さんの体が見たいんです。礼さんに、俺の体を洗ってもらえたら、もっとうれしい」
「…………エッチ」
小さく詰れば、くすぐったそうに逢坂が微笑した。
「鍵がかかっていたら、あきらめます。そんなことで嫌いになんかなりませんから、無理はしなくていいですよ」
嫌われたら嫌だから、などという言い訳も、逢坂は許してくれない。
交際を求めたときも、そうだった。
真っ正面から、自分のきもちひとつで、選んで欲しいと求めてくる。
おどろくくらい、まっすぐなひとなのだ。
常識が抜けている、と言ったのは、誰だっただろう。
正確に言えば、抜けているのは、つまらない常識、ではないだろうか。
逢坂が知りたがるのは、礼がどうおもうかであって、常識がどう捉えるか、ではない。
自分のきもち以外、なにひとつ、彼は理由としては認めなかった。
そのかわり、礼が自分のきもちに正直に選んだら、彼はそれを尊重してくれる。
礼が本気で逢坂を選んだから、逢坂は、真綿のようなやさしさで礼を包み込み、受けとめてくれたのだ。
礼が心から自分を選んだと確信できなければ、こんなふうに愛してなどくれるはずもない。
惜しげもなく、欲しいことばをくれて。
恥ずかしさに負けて少ししか口にできない礼の褒めことばを、うれしいと言ってくれる。
それがウソでないことは、体から伝わってきた。
きっとなにひとつ、ウソではないのだろう。
大事なものは心にあって、心から求め合うことが何より大事なことだと、彼は知っているにちがいない。
礼の心が自分に寄せられていることを感じているから、逢坂は、焦らない、と言ってくれるのだ。
──赤間への想いは、消えたわけではない。
でも、それさえ隠さずにいていいんだと、逢坂は言う。
そんなことを言えるのは、何かを隠しては、心ではつながれないことを知っているからではないだろうか。
それが、経験か、知識か、直感かは、わからない。
わからないが、愛とは、ぜんぶ受け入れる、という覚悟の先にしかないのかもしれない──
ほほえんで自分をバスルームへと送り出してくれる逢坂を振り返りながら、礼はそんなことを考えずにはいられなかった。




