一度目のデート
『いっしょに暮らすと、求めに応じてもらえる機会も、きっといちばん多くなります……よね?』
遠回しに、毎晩でも抱きたいと、言われている気がした。
毎晩でも抱かれたいと、おもっていたのは、礼だった。
目が合った瞬間に、互いに求め合っていることを、直感した。
抱きしめて欲しい、とおもったときには、すでに抱きしめられていたくらいに、心がつながっていたから。
離れたくない、と痛いほどに心が叫んだ。
『いっしょに、暮らしましょう』
今度は、はっきりとそう言ってくれた。
礼は、うなずくだけで良かった。
「逢坂くん……」
シングルベッドが、寝具とソファを兼ねる、簡素なワンルーム。
そんな部屋でも、逢坂は嫌な顔ひとつせずに、寮の部屋より広いなと笑っていた。
『俺は、実家暮らしなんですよ。すみません』
交際を申し込まれたその日に、部屋へ来るかと訊ねたら、逢坂はひどく複雑な顔をして首を振った。
『ここで欲望に負けてうなずくと、肝心なものが手に入らない気がするので。でも、際限なく断われる自信はないし、交際をオーケーする前に試したい、とおもうこともあるかもしれないので……五回目のデート以降に誘ってくれたら、断わりません。その気がないなら、ぜったい誘わないでくださいね』
赤間と同居していたことを知っているのかどうかはわからない。
でも、知っているのなら、女でもないのに勿体ぶっている、とおもわれるのではないかとおもった。
女性だって、彼に求められたらそうそう断わらないだろう。
まして、男の自分に交際を申し込んでくれた相手だ。
礼がその場でオーケーしなかった理由は、逢坂に自分とつき合わなければならない理由なんかないとおもったからにすぎない。
礼の方に、断わる理由などあるはずがなかった。
例え、数回の遊びだったとしても、だ。
礼に、断わる理由などなかった。
交際はともかく、体だけでもと言われたなら、それも、断わる理由など持ち合わせているはずもない。
むしろ、逢坂にほんとうにその気があるのなら、礼から乞うたっていいとさえおもうほど、願ってもない相手なのだ。
それでも、逢坂は、欲望を満たすよりも欲しいものがあるのだと言ってくれた。
そのときに、おもったのだ。
もういちど、だけでいい。
もしも自分をデートに誘ってくれたのなら、交際したいということばがウソや、一瞬の気まぐれでないのなら──
そのときは、彼にすべてを差し出そう、と。
だから、結局、逢坂が礼の部屋に来たのは、一度目の、ふたりきりのデートのときだった。




