逢坂大和、という男
『俺は、裸になった礼さんが、いちばんきれいだとおもいます』
この世に、そんなセリフを照れもせず言うひとがいるとはおもわなかった。
しかも、どんなに選び抜いた衣服で女性同然に装っていようが、脱いでしまえば、あきらかに男の体をしている自分に、だ。
髪を撫でながら、泣きたくなるほど甘いキスをされた。
服の上から抱きしめて、背中を撫でて、腰を撫でて、脚も撫でて。
それでも、肌に直接触れようとは、しなかった。
せつなくなるほど、長い長い抱擁と、キスを受けた。
きれいな髪ですね、と褒めてくれた。
甘く低い、なめらかな美声で。
うなじを撫でながら、首筋に這うくちびるの感触に、背筋が震えた。
おもわずその手をつかむと、きつく、指を絡められた。
舌を絡めるキスをされて。
気づけば、服の下へと、男らしい大きな手を招き入れていた。
どんなに手入れをしても、きっと女性ほどやわらかくはなれない肌。
それでも、うれしいと、囁いて。
じっくり、じっくりと、丸みのない上半身を、その手は愛撫してくれた。
──逢坂大和。
赤間優児に抱かれることに慣れていたとはいえ、面食い、などと贅沢を言う気は、みじんもなかった。
男の体でもいいと言ってくれるひとがいれば、それでいいと、何度もおもった。
それでも心に引っかかっていたのは、消えない、初恋のひと。
どうしたって、消えない。
その、夢のような愛撫の記憶も、体から消し去ることはできなかったから。
もしも、男の体でもいい、心に、消えない想いを抱えていてもいいと言ってくれるひとがいたなら──
それがどんなひとだろうと、すがりつこうとおもった。
好みなんて、関係ない。
こんな自分を受け入れてくれるひとがいるのなら、愛を返さなくては罰が当たるとおもっていた。
なのに……
礼に、男でもいい、赤間を好きで構わないと言って交際を申し込んできたのは、よりにもよって、逢坂だった。
幾万の女性の中から、ひとりを、否、好きなだけ何人でも、選べるほどいい男だ。
何の冗談かと、おもわずにはいられなかった。
からかい、弄ばれ、捨てられても、ふしぎはない。
赤間がそんな男をすすめるはずはないとおもってはいても、赤間さえ騙せるほど、悪い男なのかもとさえおもった。
それほどに、彼の好意など、礼にとってはありえなかった。
ただ、自分が初恋をしたのとそう変わらない年頃に、自分に恋をしたのだと言われたのは、ふしぎと腑に落ちた。
神前のことが好きだと聞いて、赤間が自分にすすめるわけも、腑に落ちた。
それでも、贅沢だと、わかっている。
わかっている、のに。
逢坂のまなざしに包まれていると、何もかも許されるような気がした。
醜い生きものだとわかっているのに。
それでも、逢坂がきれいだと言ってくれると、うれしかった。
うれしくてたまらずに──
ついに、衣服をすべて脱ぎ捨て、一糸まとわぬすがたをさらして、たくましい体と抱き合った。
恥ずかしいのに、うれしくて。
恥ずかしくてたまらないのに、幸福で。
見ないでと言いながら、全身の感触を隠せないほどに、すがりついた。
燃えるように熱い体の下で、溶けてしまうのではないかとおもうくらいに、熱くなって。
自分が赤間に、少しも愛されていなかったことを、思い知った。
思い知らずにはいられないほどに、愛を感じた。
それでも、一夜が明けたら、何と言われるかはわからない──
そう、おもっていたのに。




