抜けてる男
「ちょっと、自分たちが恋人作って、しあわせいっぱいだからってー。──あ」
顔を上げた神前が、礼に向き直った。
「直くん?」
「ごめん、礼。俺、おめでとうって言った? 逢坂はさ、やさしいし、しっかりしてるから、頼りにして大丈夫。ほんとはね、この辺まで、マコだけじゃなくて、逢坂も結婚できない相手を選んじゃうのかー、って出かかってたんだけど」
「……って、この辺までどころか、口に出してるっつーんだ」
神前の背後で、ぼそりと紀藤が独り言ちる。
神前は、聞こえないふりで礼に笑いかけた。
「でも、何がしあわせかは、自分で決めるものだし。逢坂は、腐るほどある選択肢の中から、礼を選んだわけだから。逢坂がしあわせにしたいとおもって選んでるなら、恐いものなんてないよ。信じて、そばにいれば大丈夫だから。逢坂を、よろしくね。やさしくしてやって」
言いながら、神前は礼のブラウスのそでを引く。
「こいつ、ちょっと、抜けてるところがあって。ひとのことにはものすごく気が回るのに、自分が欲しいものとか、やりたいことには、てんで無頓着なんだ。チームのためにも、クラブのためにもいっぱい働いてくれて、働きすぎるくらいだから。まだ若いけど、それじゃたぶん疲れるし。俺たちには弱音なんて吐かないからさ。礼が、大事にしてやって。ほんと、お願いします」
礼が、逢坂を振り返った。
その顔には、困ったような微笑が浮かんでいる。
逢坂は、ほんとうに自分でいいのか、と問われている気がした。
こくりと、うなずき返す。
「ありがとう、直さん。しかし、蓮といい、直さんといい。俺って、そんなに何かが抜けてるんですか? そういえば、紀藤さんにも、何か抜けてるって言われたような……」
「俺が抜けてるって言ったのは知識だよ。でも、常識、と言い換えたっていいかもしれない」
「俺、常識が抜けてるんですか? それ、やばくないですか? 礼さんがすぐに交際をオーケーしてくれなかったのも、そこが心配で?」
「大丈夫だよ。たしかに常識は抜けてるっぽいけど、それで損するようなタイプじゃないから。何にも考えずに、幸運だけを引き当てていくという、マコとは正反対のタイプの男──だから、礼にすすめたんだ。悩むのが好きな男となんか、礼はぜったい合わないから。こいつの底が抜けたバカっぷりも、礼には救いになる……っテ!」
ヒタ、と礼の手のひらが、赤間の頬を打った。
叩いた、というほどの音はしなかったが、赤間は目を丸くしている。
「優児。あなたに悪気がなくても、ひとの彼をバカ呼ばわりしないで」
「礼さん、いいんですよ。底も抜けてるのかもしれないし」
「優児だって、たとえ事実でも、マコをバカって言われたら、頭にくるでしょう?」
「マコはバカじゃないよ。バカなことは山ほどするけど」




