「おまえは勇者」
「あっ。江野さんの彼女さんだ」
クラブハウスのロビーにたたずむ礼を見て、羽角が声を上げた。
礼が、はっとしたようにこちらを向く。
逢坂は、羽角の頭を小突いた。
「ちがう。あれは俺の恋人だ」
「は? ……はぁ? ウソォ!」
「ウソじゃない」
と応じた逢坂のTシャツを、羽角がむんずと掴んだ。
「おっまえ、そんなやつやったがか? 先輩の恋人を略奪するがは最低やき! 江野さんが可哀相ッ!!!」
「おまえさ、誠さんに、彼女ですって礼さんのこと、紹介されたか?」
「……ゆ、友人って。でも、同居しちゅうがは、同棲ってことやき」
「だよな。俺もそうおもった。でも、ほんとうに、同居してる友人ってだけだったんだ。しかも、とっくに、いっしょには暮らしてない」
羽角が、困った顔で距離を置いて立つ礼を振り返った。
「…………江野さんより、こいつの方が、顔がいいから?」
「マコとは、小学生時代からの友だちなの。ほんとうに……」
「あ、れ──そういえば、おまえの好きな相手って、たしか、赤間さんのことが好きだとか、言ってなかった?」
礼が、丸い目で逢坂の顔を見る。
逢坂は、髪を掻いた。
それは神前の話だったが、礼もそうだったのは、単なる偶然だ。
でも、ふしぎな符合のようにもおもえる。
逢坂は、礼の腕を引いて、その体を腕に抱いた。
「そう。略奪したというなら、赤間さんの方から、かな」
「マジか……? それなら応援するき。悪魔の手から美女を救い出す、おまえは勇者────うぎっ」
悲鳴を上げた羽角の頬が、ムギュッ、と背後からつねられている。
「誰が、悪魔だってえ?」
「い、いひゃいっ!」
「おい、優児、やめてやれ。そんなことばかりするから、悪魔だとか言われるんだ」
数歩遅れてきた江野が、赤間の肩に手を置いた。
羽角の頬から離れた指が、逢坂のTシャツをつ、と突く。
「礼さ、こんな服装のやつと歩くの恥ずかしいっておもったら、容赦なくダメ出しした方がいいよ?」
「え……すみません、俺、着るもの無頓着で」
「いいの。それ以上かっこよくなってしまわれると、いっしょになんてとても歩けない」
「そうだな、礼の選んだ服を着せたら、サッカー界ナンバーワンのイケメン、って雑誌に書かれたくらいだし」
「まあね。どんな服着てようが、脱がしてしまえばおんなじだけど」
「優児……っ」
礼が赤い顔で怒ったが、もっと赤くなったのは羽角だった。
「そ、っか……恋人って、そういうんだ?」
「それはそうだろ?」
「そうですけど──江野さんが相手だとおもってるときは、そういうこと考えなかったし」
「あー……おまえもしかして、礼が女じゃないって気づいてる?」
赤間のことばに、江野と礼はギョッとした視線を向ける。
逢坂は、羽角を見つめた。




