見ててくれるひと
「うまいこといくかどうかは、ふたりの問題だからさ。つき合ってくれなきゃ直くんをあきらめられない、って脅せば礼としてもオーケーしやすかっただろうけど。それとこれとは別らしいから、礼は、自分のきもちだけで選べばいいよ」
赤間の視線を受けて、逢坂は天井を仰いだ。
くしゃりと、髪を掻く。
「いえ、いいです。脅すような真似はしません。せめて、何があっても守ると信じてもらえないことには、身を任せる決心なんてしてもらえないでしょうから」
「守……?」
「俺、正直なところ、男の外見のまま男を愛すのと、女性の格好をするのと、女性の体になってしまうのと、どういうふうにちがうのか、さっぱりわからないんです。他のひとがどうおもうのかも、よくわかりません。だから、そこにどんな悩みとか苦しみがあるのかも、俺には理解できないとおもいます」
「…………」
「俺に言えるのは、どうであろうと俺は気にしないし、あなたのありのままを受けとめます、ってことぐらいです。この先変わったって、べつに構いません。ああでも、どうでもいいから、というわけじゃなくて。あこがれのエースストライカーだったときのすがたとか、髪を切ってくれた手や服を選んでくれたまなざしとかが、なくなるわけじゃないってことです。あなたが、誠さんを想う赤間さんを想いつづけた事実も、消えな────アッ」
あわてて口を押さえたものの、口に出したことばは消えるはずもない。
おず、と赤間を見れば、じろ、とにらまれる。
その隣で、江野はきょとんとしていた。
「すみません……」
「知っているの、マコと優児こと?」
「え──っ」
「すみませんっ、すみません、言うつもりじゃ──」
「まあ、いいけどさ。じゃなきゃ、おまえが礼に、俺のことを好きでも構わない、っていう根拠が抜けてるんだ。どのみち、不自然におもわれる」
「そうですけど……すみません、誠さん。実は、おふたりの関係を知って、古賀さんは誠さんの恋人じゃないんだって、気がついたんです。でも、赤間さんが自分から自慢してきたとかじゃありませんから。のろけられはしましたけど」
いつになく動揺していた逢坂は、礼がくすっと笑ったことに気づかなかった。
「俺は、ええと、直さんのこともあって、赤間さんのことをかなり意識してたから、誠さんが『とくべつ』なことに気づきましたけど……ふつうはそこまで勘繰らないとおもうし、その──」
「ああ……いや、事実だし、気づいたおまえが悪いわけじゃない。それで、礼にもいい相手ができるのなら、むしろ良かったかな、とおもう」
「マコ、まだつき合うって決めたわけじゃないよ」
「そうだけど……逢坂が、礼を初恋だって言ったのは、ほんとうみたいだから」
「ゴール前の礼は、落ち着いてて、キレ者で、優秀だったからね。でもさ……どこで、誰に見られてるか、わかんないもんだよねー」
笑った赤間の向かいで、うつむいたまま、礼がぽつりとこぼす。
「…………ごめんなさい」
「え? ええ? それって──」
「あのとき……苦しさから逃げることしか、考えてなくって。見ててくれるひとがいたなんて、おもわなかったから」
「ああ、昔の話か。──気にしないでください。直さんと出会えて、プロ生活もちゃんと満喫してますから。でももし気が向いたら、いっしょにボールを蹴ってもらえると、うれしいです」
顔を上げた礼が、逢坂に向かってこくりとうなずく。
そのうつくしい顔に浮かんでいたのは、少年のような微笑だった。




