交際申し込み
「……優児?」
居酒屋の個室の戸を開けるなり、そこにあった顔を見て江野がけげんな顔をする。
赤間と江野に逢坂が同行した時点でいぶかしげだったが、その先に礼がいて、ますますわからなくなったらしい。
礼も、逢坂が来るのは想定外だったのだろう。
意外そうな目で、こちらを見ている。
「こんにちは、古賀さん。おひさしぶりです」
「逢坂くんも、いっしょだったの。……三人で歩いてきたら、さぞ目を引いたでしょう?」
「──そうですね。でも、八割くらい赤間さんが視線を持って行ってくれるので、あんまり気になりません。ね、誠さん?」
席につきながら問えば、江野が嫌そうな顔をした。
「おまえと優児に挟まれて外出な時点で、どんな嫌がらせかとおもったけど。礼もいっしょって……いったい何をたくらんでるんだ、優児?」
「俺が赤間さんにお願いしたんです」
「おまえがか?」
逢坂は、江野ではなく隣の席の礼に向かってうなずく。
「赤間さんに、古賀さんは誠さんの恋人ってわけじゃないと聞いて。それなら、交際を申し込もうとおもって」
「は? 交際?」
「ゆ、優児……っ!」
礼が、あきらかに狼狽した顔で、向かいの席に座る赤間を見つめる。
「優児、おまえ、どういうつもりだ?」
「つもりって訊かれても。こいつにも恋人いないんだろ? マコ、心当たりでもあるの?」
「いや…………それはないけど。たまの休みも羽角と出かけてるっていうくらいだし。──でもな」
「俺は、そういう対象になりませんか?」
問えば、ちら、と逢坂を見た礼の顔がみるみる赤くなる。
「わ、わたしは……っ」
「気になっているのは、あなたが女性ではないってことですか? それとも、赤間さんのことが好きなこと?」
「そっ……!」
「おまえが言ったのか、優児?」
「後者はね」
けろりと言った赤間を見て、逢坂は立ったままの江野にうなずいた。
「きれいなひとですけど、体型を見れば性別はだいたいわかりますよ」
「そ、そうか……おまえなら、そうかもな」
言いながら、江野も椅子を引いて腰を下ろす。
「というか。すみません、黙ってましたけど……俺、古賀さんもクラブの先輩だって、誠さんに紹介されたときから気づいてました」
「えっ……」
「誠さんの恋人だとおもっていたので、言わない方がいいのかな、とおもって。それで、黙っていたんです。どっちにしろ、初対面でしたし」
「──そうか。三つちがいって、そうかもな」
江野は納得したようにうなずいたが、礼は肩をすぼめてうつむいている。
「俺、性別はまったく気になりません。男だから好きってこともないですし。同性だと知られたら困るってこともありません」
「…………でも」
蚊の鳴くような声で、礼が洩らす。
「何ですか? 何でも訊いてください。答えますから」
声に、やや顔が持ち上がった。
が、またすぐにうつむいてしまう。




