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Imitation Star  作者: 十七夜
5:逢坂vs赤間
28/50

『夢』

赤間が、ゆっくりと腕を組む。

そんな動きひとつが、やたらと絵になるのが赤間だ。


「その、鋼鉄製の神経を見込んで、礼を紹介してやろう」

「──ありがとうございます」

「ただな。ゲーム感覚はともかく、遊びで俺とマコの友人を弄ぶような真似したら、玄界灘に沈めるからな。覚悟しとけ」

「遊びで恋愛なんてしませんよ、めんどうくさい」


そんなものは、十代の半ばですっかり飽きてしまった。

以来、体だけでも、と求めてくるガールフレンドなら何人かいるが、ここ一、二年はそれさえ面倒で仕方なかった。

神前の愛を感じている方が、精神的によほど満たされたからだ。

でも、性欲までが消えたわけではない。

できれば、抱きしめたいとおもえる相手が欲しかった。

抱きしめても、油断すると腕の中をすり抜けてしまいそうな恋人がいれば、自分はどんなに夢中になれるだろうかとおもっていた。

腕の中にとどまって当然の顔をした女になど、用はない。

だから、神前ならば──とおもったのだ。

けれど、頭の中で抱きしめるたび、神前は逢坂を抱き返すのではなく、背中の向こうへと手を伸ばした。

まるで、誰かの助けを乞うように。

愛に飢えているひとかもしれないが、性的に男に愛されたいひとでは、決してないのだ。

逢坂は、そのことがわかっていた。

だから、そばにいてくれとは言えても、つき合ってくれとは言い出せなかった。

古賀、礼──

思春期になり、性欲を自覚しはじめたころ、初めてきれいな人だとおもったのは、彼だった。

女はどこにでもいるが、あれだけきれいで、サッカーのうまい人はどこにもいない。

逢坂の同級生から高校生にまで、やたらともてた姉よりも、礼の方がよほどきれいだ、とおもったものだ。

ジュニアユースに上がったとき、ユースに彼はいなかった。

コーチに問うても、先輩に問うても、サッカーをやめたらしいことしかわからなかった。

江野の友人という形で再会したとき、ひどく納得したのをおぼえている。

女装をしていると知られはしないかという、不安を抱えた微笑がひどくはかなげで、やっぱりきれいな人だな、とおもった。

髪を切ってくれる手を見つめながら、その手は江野を愛撫するためにあるのだ、と惜しんでいた。

ほっそりとした、長い指。

似合う服を選んでくれる、真剣なまなざし。

変身をとげた逢坂へかけてくれた、賞賛のことば。

どれも心に残っているが、江野の恋人に懸想するわけにはいかない、という自制を越えるものではなかった。

どこかで、江野は超えられないとおもっていたのかもしれない。

江野は超えられないとおもいながら、それでも、心に想いつづける──

それは、どれほど強く、どれほど痛い恋心なのだろう。

江野を『とくべつ』に想う赤間優児を、愛しつづけたひと。

今もまだ、愛しているのだろうか?

だとしたら、一刻も早く、腕の中に抱きしめて労ってあげたかった。

赤間優児は、そこらにいるような男ではない。

それを愛してしまったら、人生の歯車はどこまでも空回りをしつづけるのだろうから。

サッカーをやめれば終わりがくる神前とちがい、とっくにサッカーを捨てた礼には、終わりなどこないはずだ。

江野と赤間が結ばれて終わりになっているのなら、それでいい。

でも、そうでないのなら、自分が空回りを終わらせる歯車となって噛み合おう。


いつか、ぼんやりと夢に描いたことがある──

礼と自分が、ファルケンのツートップとしてともにピッチに立つという夢。

それは、神前と出会うより、ずっと、ずっと前にちらと見て、すぐに消えてしまった、逢坂自身の『夢』だった。



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