憧れのひと…
古賀礼:赤間や江野の中学時代のチームメイトで、同居していた友人。元FW。女装中。
「…………それって。ほんとは抱くより、抱かれたい、って言ってるように聞こえますけど」
「──おまえ、ほんっと何にも考えてないのな。もしかして、自分が抱いてやる、とか言いたいわけ?」
「ま、……誠さんの恋人を寝取るはずないでしょう! 仮に赤間さんに誘われたって、拒否します」
「ふうん」
逢坂を値踏みするような視線は、江野の恋人でなければ誘いを断わらない、という本音を見抜いているように見える。
「と、いうか。誘うのなら、誠さんを誘いますよね?」
「俺が、マコを? 誘わないよ」
「さ……そったら、誠さんはぜったい、断わらないでしょう?」
「どうしてそうおもう?」
「えっ……だって。誠さんは、性別で差別をするタイプじゃないし。古賀さんという女装の美人とも、同居して親しくしてたくらいで」
「礼が男だって、気づいてたんだ?」
「──そりゃ、気づきますし。そもそも俺、古賀さんのこと知ってるんです。俺が小六のころ、ジュニアユースのエースだったひとですから」
「ああ。そっか。どっちもフォワードだもんな」
「うちの姉と同い年で、姉よりはるかにきれいな人だったんで、密かに恋してたかもしれません。だから、再会して、誠さんの恋人なのか、とおもったときはちょっとだけ残念でした。あ……あれ? でも──」
首をひねった逢坂の肩を、赤間がむんずとつかんだ。
「それ、マジ? おまえ、直くんが好きなんだとばかり、おもってたけど」
「──ええ。好きですよ」
逢坂はうなずいた。
「直くんと、礼、恋人にするならどっちがいい?」
「……直さんがいいです」
とたんに、赤間の手が肩から離れていく。
「でも──俺が直さんのとくべつでいられるとしたら、それは、直さんが現役をやっている間だけ…………なんでしょう?」
「つき合い始めて、離そうとしなきゃ、一生だってつき合ってくれるんじゃないの?」
「それって……直さんのしあわせですか?」
「直くんも、マコに負けないくらい、子ども好きだしね。でも、おまえは、欲しいものは先のことなんか気にせず手に入れるタイプだとおもってたよ」
「──そう、俺もおもってたんですけど。赤間さんに会った日に、誠さんに負けた気がして」
「マコに? …………まあ、百パー負けてるとおもうけど」
にっこりとうれしそうに赤間が笑う。
こんなのろけを言うひとなのか、と逢坂はおどろいた。
「それ、一割くらいは贔屓目ですよ。でも、自分が女だったら直さんは選ばないだろうなー、とかおもってしまって。あと、赤間さんが言った、その気になればいくらでも相手は見つけられる、っていうのも。そのとおりだろうな、とおもったんです」
「現役やめて別れることになるのなら、手を出さないでいてやった方がいい? おまえ、意外と殊勝だね」
「──シュショウってなんですか?」
「……いいよ、知らなくたって死ぬようなことばじゃないから」
褒めことばだった気がしたので、逢坂はこく、とうなずいた。




