健康的で、正常な男
「というか、そんなことを訊いてどうするんだ?」
「いえ、単に、蓮と紀藤さんの答えは想像がつくんですけど。誠さんが赤間さんだと答えるところが、ちょっと想像つかなくて」
「──ほんっとうに、訊きたいのか? ウソはつけないから、正直に答えるぞ」
「ええ……赤間さんさえ良ければ、訊きたいです」
ちらっ、と視線を向けると、赤間はやんわりとほほえんだ。
「というか、マコは言いにくいだろうから、訊きたいなら俺が答えてあげる」
「え? 誠さんの答えですよ?」
「わかるよ。何年のつき合いだとおもってるわけ。マコが女だったら、だろ?」
こくりとうなずけば、赤間は婉然とわらった。
「俺も、おまえも、選ぶわけないよ。マコが女だったら、迷わず選ぶのは直くんに決まってる」
「──えええっ?」
逢坂は、江野の顔を見る。
「ほんとですか、誠さん?」
「俺が、選ぶんじゃないぞ?」
「そうだね。男のマコは選ばない。でも、女でも、選ぶ基準はマコといっしょだよね?」
赤間がくすっと笑ってみせた。
「マジか、江野……今ほど、俺はおまえが変なやつだとおもったことはないぞ」
「それが仮にも友だちの言い種ですか」
「マコはさ、昔っから、なにげに直くんの人柄を買ってるんだよ。面倒見いいし、親切だし、おまけに損しても平気で、対価なんて求めない」
「まぁ、人柄に問題ねーのは認めるよ。けど、男として惚れるタイプかって言うとなー」
「マコは、俺とか逢坂とか紀藤さんみたいに、惚れたら女をだまくらかしてでも手に入れられるタイプは、ぜったい好きにならないよ。自分を選ばせると自分の選択のせいで損をさせちゃいそうだし……なんて、ごちゃごちゃ考えて、交際も申し込めずにけっきょく独り身のまましょんぼりしてるしかない男は、放っとけない質だけどね」
逢坂は、おもわず赤間と江野の顔を見比べた。
紀藤も、なるほど、と独り言ちている。
「そうか、そういうことを考えてるのかもな。神前なら、ありそう」
「直くんは、自分をしあわせにしてくれるものと、そうじゃないものを、自分にとって大事かという一点でしか秤にかけられないんだよ。ふつうならあたりまえに優先できるはずのものが、どうしても優先できないわけ。どうして自分が恋愛できないのか、直くんには未だにわからないんじゃない?」
「それじゃ、なにか? いっしょに損をすることも承知でそばにいてくれるような、江野を女にしたタイプの物好きが現れないかぎり、あいつはひとりのままってこと?」
「……まあ、一生現役でいるわけじゃないから。サッカーをやめれば、しがらみからは解放されるわけだし。心配いらないよ。直くんは健康的で、正常な男だから、その気になればいくらでも相手は見つけられる。──マコ。これが、なんであのひとにいつまでも恋人ができないんだろう、っていう疑問の答え。納得した?」
江野に問いながらも、いっしゅんだけ、赤間の視線が逢坂に流れてきた。
まるで、そのことばをどう逢坂が聞いていたか、確認するように。
自分がどんな顔をしているのか、逢坂自身にもわからない。
わかったのは、赤間は、逢坂がどうおもっていようがべつに構わないのだということ。
そして、もうひとつわかった。
江野に訊ねた、赤間にとっての神前の、こたえの真実。
好きでも嫌いでもないが、どうでもいいのともちがう気がする、と江野は言っていた。
それは、きっと、江野という赤間にとって『とくべつ』な人間の思い入れこそが、そうさせているのにちがいない。
江野がそれほど神前を慕っている、とはおもわなかった。
きっと、神前自身もおもっていないはずだ。
もし、自分が女だったら、神前のことを選べるだろうか……?
後輩として愛されることを求めてきただけの逢坂にとって、それは鋭い問いだった。
イエス、と答えられないかぎり、逢坂の愛など、江野の足元にも及ばないのだ。
江野が男でよかった、とふとおもう。
同時に、自分が女なら、神前でも、赤間でも、もちろん自分でもなく、江野を選ぶかもしれない──
そんなことを、逢坂はおもわずにはいられなかった。




