威嚇と豹変
「俺が選んでいいのなら、あなたのすがたをそばで見られる方がいいです」
「──紀藤さん、こいつ、わかって言ってんの?」
「ハハ。羽角の取り合いじゃなくて、逢坂の取り合い。それもアリなんじゃねーの」
「────どういう意味?」
羽角が、逢坂の腕をつつく。
「さあ……おまえはわかんない方がいいとおもう」
「こいつ、さっき、おまえのこと素で『きれいなひとですね』とか言ってたし。ここいらの女子って、佐賀の女帝で慣れてるから、ぜんぜん抵抗ねーよ」
「嫌だ。妹にまた、お兄シネって言われる」
赤間の表情から、余裕ぶった笑みが消えた。
「へえ。赤間さんにも弱点なんてあるんですね」
「……言っとくけど、まだ一八になってねーからな。手ぇ出したら、淫行罪でタイホだぞ!」
「赤間、そりゃ無理があるだろ。逢坂が相手じゃ、合意と見なされるに決まってる。おまえ相手なら、強姦罪でも納得しそうだけどな」
「俺、そこまで非力じゃないけど。今は人生捨ててないし、返り討ちにしてやるよ」
じろ、と赤間が逢坂をにらむ。
ケンカを売ったつもりはなかった逢坂は一歩ひるんだ。
と、急に、その頭のうしろに手が見えた。
「優児。淫行罪だ強姦罪だって、いったい何の話をしてるんだ」
「マコ……!」
頭を叩かれた赤間の気配が、目に見えてなごむ。
いっそ、その豹変ぶりにおどろくほどだった。
紀藤に笑いかけたときもおどろいたが、江野に対する警戒心のなさときたら、尋常ではない。
江野誠、という先輩を、逢坂は誠実で人はいいが、平凡なひとだとばかりおもっていた。
けれど、それはとんでもない認識不足だった、と気付かされる。
あきらかに非凡であり、異質と言っていい、世にも『おっかない』赤間優児という獣に、いささかも彼はびびっていない。
同期だからとか、十年以上のつき合いだからとか、そんなことはきっと赤間にとって理由ではないだろう。
赤間はさっき、妹という弱点を知った逢坂に対して、明確に威嚇をした。
弱点を知られたことに対する居心地の悪さを、隠そうともしなかった。
自分は赤間にとって、後輩どころか、仲間として信頼さえできない相手なのだと、思い知らされたも同然だ。
赤間にとっては、それが当たり前なのかもしれない。
ただ、江野はちがうのだ。
それだけは、よくわかる。
仲間として、心の底から信頼している相手なのだろう。




