太宰府か柳川
やさしげに微笑したまま、赤間が、さらりと羽角の髪を指ですくった。
今まさに、赤間優児はおっかない、という羽角のことばを逢坂も実感させられている。
「はじめまして。ほんっとかわいいな。それに比べて……ぼさぼさ頭でいっつもジャージばっかり着てた羽角蓮なら、よーくおぼえてるんだけどね?」
「っっっっ──!」
自業自得だ、と逢坂はおもわず視線をそらした。
今さら逃げようにも、髪をすべりおりた赤間の指が、羽角の耳をしっかと掴んでいる。
「いっ、いたいいたいいたい」
「マコに礼を紹介してもらって、こんなかわいくしてもらったんだろ、羽角? 俺が知らないとでもおもった?」
「ふえーん。だから、嫌だったがよー! 紀藤さんっ」
「いや、今のはどう考えても、自分から罠にはまっただろ?」
「直くんを方向音痴の道案内に駆り出しまくって、マコに服までプレゼントさせたんだって? なあ羽角、今度、俺が太宰府まで連れてってやろうか? 柳川で川下りでもいいけど?」
「いやですー。そりゃ、行きたいけど、ぜえったい、オレひとり、現地に置いて帰る気やきー」
「……バカだな、蓮。すなおについて行けば、恐くも何ともないとおもうけどな、このひと。心から信じて頼ってる相手、置き去りにするタイプじゃないぞ、きっと」
言った逢坂をはっ、と見た羽角は、ぐいっとその腕をつかんだ。
「おまえと行く方がいいっ。こいつと行くき! けっこうです」
「ふうん? そいつとね。じゃあ、デートに誘ったら逢坂と行くから嫌だって羽角に振られたーってツイぽにでも書いてやろう」
言って、赤間がにやりと笑う。
羽角はぴんとこない顔をしているが、逢坂には言わんとしていることがわかった。
紀藤の顔を見れば、くしゃ、と髪を掻いている。
「おまえ、ほんっと赤間優児だな。俺も、人のことは言えねーけどさ」
「みんな、俺を当然のように利用するからね。俺も、利用できるものは利用する。それだけだよ。俺にポジション奪われずに済むなら、十分メリットはあるだろ。な、羽角?」
「え……トップ下、やらないんですか?」
とたんに、羽角が目を輝かせて赤間を見た。
観覧席にいるファンたちには、いったいどう見えているのだろうか、と逢坂は嫌でも考えてしまう。
赤間の手のひらの上でころころ転がる綿毛か何かに、羽角が見えてならない。
「俺を誰だとおもってるわけ? トップ下で前線にパス供給するしか能のない誰かさんとはちがうんだよ?」
「ぐっ…………」
「俺は、フォワードでもやろうかな。ちなみに、逢坂。ポジションを奪われるのと、パスを奪われるの、どっちがいい?」
その気になれば、どっちでもやれるに決まっている。
だから、逢坂はほほえんだ。




