きれいなひと
「うっわー……」
平日の午前中にも関わらず、ファルケンの練習場には多くのファンが詰めかけていた。
なんと、テレビカメラまである。
それも、一台、二台ではなかった。
昨年、1部昇格を決めたときだって、優勝したときだって、こんなにカメラは来なかったというのに。
彼らのおめあてが何なのか、もちろん逢坂にもわかっている。
クラブへの入団発表を終えて、今日から練習に参加する、と言われている赤間優児だ。
逢坂がクラブハウスのロッカールームに行くと、それまで使われていなかったロッカーの一画が埋まっていた。
赤間本人のすがたはすでになかったが、着替えに居合わせたらしい寮住まいの若手が、見た見たと口々に言っているのを聞いた。
どうやら、本人に話しかけた勇者は、誰もいなかったようだが。
そして今も、赤間はグラウンドにひとりきりで座っている。
なぜか、周囲には江野も神前もいなかった。
観覧席にいるファンからはしきりに「おかえり」という声が飛んでいるが、まるで見向きもしない。
目は開いているが、どこかを見たり、何かをしているようすではなかった。
何を考えているのか、さっぱりわからない。
わからないが────
「あれが、赤間優児、か。……かっこいいひとだな」
つぶやけば、すぐそばで笑う気配がした。
目をやると、紀藤が歩いてくる。
「おまえがそれを言うのか?」
「おはようございます。いや、かっこいいというか、──きれいなひとですね」
「ああなんか、髪が伸びてて、変な迫力が増してるな。でも、あれぞ、俺のイメージ通りの赤間優児ではある」
「……紀藤さんって、赤間さんと面識があるんですか?」
「ああ、昨年末、帰国してたときに神前経由でちらっとな。ただ、そのときは江野もいっしょだったから、一九〇度くらいイメージがちがった」
「一九〇度……? 正反対ってことですか?」
「正反対なら一八〇度だろうが。おまえ、変なところでボケをかますよな」
「ボケてるわけじゃありません。ただ、頭が悪いだけです」
「おまえは頭が悪いわけじゃない。ふつうなら入ってるはずの知識にかぎってごっそり抜けてるだけだ」
「あはは。なんか、褒められてるみたいに聞こえますよ」
「褒めてるんだよ。知識のないやつの方が、頭の中がシンプルでいいと、おまえ見てるとしみじみおもうよ」
どうやら、本気で褒めてくれているらしい。
口調は本気っぽいのに、遠回しな嫌味のように聞こえるのが、紀藤悠一らしいと逢坂はおもう。




