「ちょっと意地悪なだけ」
江野は首をかしげた。
「直くんのことは……どうでもいい、というのともちょっとちがうような気はするんだよな。どうでもいいわりには構いすぎてるというか。無視せず、つついて転がしたがる──まあ、どっちがマシかっていうと、ちょっと考えものだけどな」
「考えもの、ですね」
「でも、優児流の忠告というのを、いちばんしてる相手なのかもしれない。善意で言ってるのか、気まぐれで言ってるのか、何かの対価のつもりか、俺にもわからないけど。……ああ────そうか。あのひとがいちばん、優児のことばを聞きたがってるから、なのかもしれないな」
「……赤間さんのことばを?」
「優児は、直くんのことを、勘がいいとか、運がいいとか、よく言ってるけど。あのひとは、優児のことばにある真実とか、聞いておいた方がいいなって部分を、ちゃんと嗅ぎ分けてるのかもしれない。八割か九割くらいはろくなこと言ってないとおもうんだけど、世界一にあこがれておけば超えられなくても日本一にくらいはなれる、とか言われたことをあのひとは実行してるしな」
「たしかに──」
言う方も言う方なら、実行してしまう方も実行してしまう方だ。
ただ、言った分だけ糧にするのなら、言い甲斐があるのはたしかだろう。
「もしかしてさっきの、恋するとサッカーに集中できなくなる、とかも赤間さんの忠告を守ってるんでしょうかね?」
「……あれが忠告か?」
「わかりませんけど。直さんは、忠告だと受け取ったのかも」
「──まあ、チームメイトに戻ったとしても、いい年した直くんに、今さら優児も、恋愛するなとは言わないだろうから。いい相手がいれば、好きにするだろう。おまえも、先輩に遠慮なんか必要ないから、結ばれたい相手と結ばれたらいい」
空の紙コップをくしゃりと潰して、うっすらと江野は逢坂にほほえんで見せた。
逢坂は、うなずきながら、考えた。
ふつうに受け取れば、江野や神前など、独身の先輩に遠慮はいらない、という意味だろう。
けれど、深読みすれば、赤間の存在なんて気にせず、神前にアタックすればいい、と言ったようにも受け取れないことはない。
江野を、勘がいい人間だ、とおもったことはないけれど、ふしぎと後者のように逢坂にはおもえた。
「誠さん。いろいろと、ありがとうございました」
「羽角にも、あんまり恐がるなって言っておいてくれ。ちょっと意地悪なだけで、そんなに悪い人間じゃないから」
言い置いて、江野が食堂を後にする。
ちょっと意地悪、なのもそんなに悪い人間じゃない、のも、羽角にTシャツをやったエピソードひとつでよくわかる。
神前がプロになれるように忠告を与えたというのなら、なおさらだ。
食堂に残された逢坂は、髪を掻き回した。
あの話は知らない方が良かったな、とおもう。
神前にとっての、赤間優児──
それが、いかに大きな存在なのかを、思い知らされずにはいられなかったから。




