とんでもないサド野郎
「そうだ……ちなみに、直くんは何て言ってた、あいつのこと?」
「ああ。いえ、直さんには訊いてないんです。蓮に訊いて、まったく要領を得なかったんで、いちばんよく知ってるはずの誠さんに訊くのがたしかかなとおもって」
「そう、か。そっちの方がよかったかもな。直くんは、優児にけっこうひどいことばっかり言われてるから、とんでもないサド野郎だとか言いかねない」
紀藤もややSっ気があるので、そういうのが神前の好みなのだろうか、と逢坂はちらっとおもった。
もちろん、口には出さないけれど。
「直さんって、赤間さんにすごく思い入れがあるんじゃないんですか?」
「……まあ、直くんは優児と出会ってなきゃ、プロになれてたかわからないところがあるから」
「えっ────そうなんですか?」
「それは俺にも言えることではあるけど。かなり、出会って初期のころに、プロになりたいならいくらトップチームでも弱いやつにあこがれるのはやめろ、って言ってたし。あこがれるのなら、世界一の人間にしておけって言われて──それであのひと、ロベルト・カルロスとか、なんとかミハイロヴィッチとか、左利きのフリーキックの名手を徹底的に研究したんだ」
「すごい選手なんですか──?」
「前者がパワー系、後者がテクニック系の最高峰だ、って直くんは言ってたけど。ユースのころからたまに、直くんがフリーキックの練習してると、優児がキーパーやって、邪魔してたしな」
「キーパー?」
「あいつはキーパーの技術はないから実際は止められないんだけど、キックをことごとく手には当てるもんだから……要は、本職ならぜんぶ止められるぞ、と」
「……それも、コースを読んでるってことですか?」
「そうだろうな。あの直くんにキーパーとの駆け引きなんておぼえさせたのは優児だし。あの抜群のコントロールも、キーパーに入ってる優児に狙ったところにも蹴れないわけ、ヘタクソ、ってさんざんバカにされた結果だから」
「そうか──枠に行こうが、狙ったコースかどうか、パスとおなじで、赤間さんにはわかっちゃうんだ?」
江野が肩をすくめた。
「優児には、鍛えてやろう、なんて善意はさらさらなかったはずだけど。自分が遊んでやっていれば鍛えることになる、くらいはわかってただろうな。もちろん、直くんには優児に鍛えられた自覚があるんだとおもう」
「────赤間さんにとって、直さんって、どんな存在なんでしょう?」
意を決して問えば、江野がおどろいたような視線を返してくる。
「優児に、とって?」
「ええ」
「……あいつにとっては、数人の好きな人間と、数人の嫌いな人間以外、ほぼすべての人間がどうでもいい……らしいんだけどな」
「す、すごい爽快な分類ですね──」
ただのチームメイトなど、すべてどうでもいいに属するのだと、よくわかる。




