赤間優児専用苦情係
「これは、中学生のころだけどな」
「はあ」
「優児によく怒られた。マコ、せめて狙ってるところにくらいはボールがくるように蹴ってくれないと、せっかくのパスも受けようがないんだけど、って。最初は何を言ってるのかさっぱりだったけど──」
「どこに蹴る気かを読んでる、ってことですか?」
こっくりと、うなずきが返った。
「まあ、ディフェンダーだってあるていどは相手の意図を読むわけだし、アイコンタクトで味方と以心伝心なんてことも言われるから、わからなくはないんだけどな。正直、あいつの感知能力がどうなってるのか、俺にはさっぱりわからない。ただ、理解できないようなことが、あいつにはできるってことだ。だから放っておいていい──というか、放っとくことしかできない」
「とにかく、人知を超えてるってことはわかりました。それをひと言で表すと、──天才、なんでしょうね」
「ますますわからないことにな。自分が天才だからできるわけじゃない、できないと思い込んでるからみんなできないだけだ、ってあいつは言うんだよ」
江野のことばに、逢坂ははっとした。
しかし、何が自分をはっとさせたのかは、逢坂にもよくわからない。
何か、とてつもなく大事なことを聞いたような気がしたが、江野のことばはするりと消えて意識に引っかかってはくれなかった。
「だから、俺がみんなに言ってるのは、あいつのことは意識しすぎるな、ってことだけ。何というか、ろくにことばも通じない外国人がもうひとり増える、くらいの感覚でいいんだとおもう。実際のところ、話もよくわからないところがあるしな。それで、もし何か問題が生じたら、俺に言ってくれれば何とかする」
「誠さん、大丈夫ですか。赤間優児専用苦情係、とかになるんじゃ?」
とたん、江野は苦笑を浮かべた。
「まあ、聞いてないようでちゃんとひとの話は聞いてるし、直で言ってもいいけど……ひとりでいると話しかけ辛いところはあるからな。非常識なやつだけど、ふしぎと嫌われるタイプじゃないし。たぶん、俺がどうこうしなくても、ひとりでうまくやるとはおもう。……というか」
江野の視線が、逢坂をじろじろと見る。
「何です?」
「羽角はけっこう人見知りだけど、おまえはぜんぜんだろ。人付き合いなんてチョロイってタイプだとばかりおもっていた」
逢坂は、おもわずほほえみ返した。
「──正直に言うと、直さんや誠さんにとってとくべつな選手だってわかってるんで、なるべくうまくやりたいな、とおもってるんですよ。そうじゃなければ、チョロイとまでは言いませんけど、たしかに、事前にあれこれ考えることはないですね。気にしても仕方ないっておもう方なんで」
「あいつに関しても、気にしても仕方ない……としか言いようがない」
「そうですか。じゃあもう、実際に会うのを楽しみにしておきます。時間を取らせてすみませんでした」
頭を下げた逢坂を見て、江野が椅子から腰を浮かす。




