おっかないひと
「ただ……な」
「ただ?」
江野の顔を見れば、ふっと視線が逃げる。
「どうでもいい、って言うのも本気なんだよな。だから、あいつが勝つ気でいるときはいいけど、勝とうが負けようがどうでもいい、とおもっているときにまであてにしてるとあっさりと負ける羽目になるという」
「……ますます、おっかないひとですね」
「だから、あいつがいようがいまいが、こっちは全力を出し切ってプレーするしかないんだ。それをしていないと、かつてここが降格したときのようにずるずると負けて、どうしようもなくなる」
逢坂はうなずいた。
降格した年──いや、その前の年も、さらに前の年も、トップチームの不甲斐ない戦いぶりはよくおぼえている。
誰かが何とかしてくれるのをあてにしていた、と言われればそうおもえなくもない。
「でもな、悪いのは優児じゃなく、あいつをあてにしてる方なんだ。プロなんだから、誰かひとりに何とかしてもらおうなんて考えるべきじゃない。例え、それができる人間がいたとしても、だ。俺はそれを、もっと同期のやつらに言っておくべきだった」
「──自分が移籍したせいで降格した、とおもってるんですか?」
問えば、江野は首を振った。
「そんなふうにはうぬぼれてない。俺自身は試合に出してももらえなかったんだ。でも、ここにいてせめてベンチにさえ入っていれば、仲間に声をかけるくらいのことはできた。優児を含めてな。だけど、俺は、自分が試合に出られる方を選んだんだ」
「当然ですよ。それに、そんなふうに責任を感じているから、降格したここに戻って来たんでしょう?」
江野が、困ったように微笑する。
「直さん、言ってましたよ。誠さんが帰ってきてくれたのは、ほんとにうれしかった、って」
『だって、出て行っても終わりじゃないって分かったんだ。チームがあれば、いつかまた、帰って来てくれるかもって。そう、おもうことができた』
──帰って来て欲しかったのは、赤間優児にちがいない。
そして、実際に帰ってくる。
それも、もう間もなくだ。
「ちなみに、誠さん」
「何だ?」
「赤間さんがこちらにパスを合わせてくれるっていうのはわかりましたけど。こっちがパスを出すときは、どうなんですか? いつでも足元に出せばいいってものでもないでしょう?」
「あー……」
とたんにまた、江野が苦い顔をする。
「それもまあ、心配はいらないとおもう」
「いらない、って──」
「なんか、ひとより高性能なレーダーでも搭載してるとおもってくれ。足元に出そうが、スペースに出そうが、適当にフリーになって受けてくれる」
「……てきとうに?」
さっぱりわからない。
いったい、どうやったらそんな真似ができるというのだろう。




