食堂にて
「──それで、訊きたいことって?」
自然光だけのひんやりとした無人の寮の食堂に、自販機で買った紙コップ入りのドリンクを持参で行く。
向かい合わせに座った江野を見て、こんなふうにふたりきりで話すのは初めてかもしれない、と逢坂はおもった。
「赤間優児さんのことなんですけど」
とたん、江野が苦笑をこぼした。
「やっぱりか。おまえでもう、何人目かな」
「蓮がグラニでいっしょだったはずなんであいつに訊いてみたんですけど。おっかないだの、人間じゃないだの……言うばかりで」
言ったら、おもしろそうな顔でじっ、と見つめられる。
「それで、逢坂ともあろうものが、不安になってきたわけか?」
「ええ、まあ……蓮はもうすっかり、ポジションを奪われる気でいるし。俺も、パスをもらって仕事してる身なんで」
「監督がどこで使う気かは知らないけど、ポジションは、やれと言われればあいつはキーパー以外、どこでもやれるとおもう」
「──どこでも?」
「大抵の監督は、決定的な仕事をして欲しいから、攻撃できるところに置くけどな。優児にどこがやりたいかと訊けば、いちばん楽なところとか言うんだろう。つまりはトップやボランチやディフェンダーよりか、あいつにとって楽ができるのが、トップ下──と」
逢坂はおもわず髪を掻き回した。
「口癖が、どうでもいい、だっていうのはマジなんですか?」
「それ言ったの、羽角か?」
「はい」
「──そうか。グラニには、曽根さんがいたんだったな。じゃあ、あいつも、けっこう本音で生きてたんだろう」
江野が困った顔で笑う。
否定はなし、どころか本音だと言った。
「俺、三学年下なんで、まったく知らないんですよね、赤間さんのこと」
「そうだよな……」
「直さんは信頼していたみたいだし、誠さんとは仲がいいんですよね?」
「あー……」
視線をどこかにそらした江野が、逢坂、と呼ぶ。
「はい」
「ユースの先輩って意味でなら、直くんとは正反対、とおもっておけばまず間違ってない」
「……正反対」
ものすごく遠回しだが、要は後輩をかわいがるタイプではない、と言いたいのだろう。
べつに、かわいがってもらいたいわけではないので、それは構わない。
逢坂は、うなずきを返した。
「まあ、蓮の話で、大体は想像ついてましたけど」
「というか。ぶっちゃけ、直くんのことも、これっぽっちも先輩とはおもってない。どんな口利いてても、そういうやつなんだとおもって放っといてくれ。疲れるだけだから」
「……疲れたんですか?」
「最初の一年くらいは注意したけど、まるっきり無駄だった。腹立つなら話しかけなきゃいいんだし、それでも寄ってくんだから、直くんの自業自得だとおもって、放っとくことにした」
「──お疲れさまです」
江野の生真面目さでは、さぞかし気苦労が絶えなかっただろうとおもう。
江野は、手にした紙コップを口に運んだ。




