先輩・神前直澄
逢坂大和:FF所属のサッカー選手。FW。ユース出身。神前の四つ年下。前年の2部得点王。五輪代表。
神前直澄:FF所属、選手会長。ユース出身で、後輩である逢坂を溺愛する。
『選んで欲しかったのは、本当は、ここにいること、だろ?』
棘のように、胸に引っかかっていることば。
思い出すと、頭をめちゃくちゃに掻きむしりたくなる。
でも、ほんとうに掻きむしりたいのは、胸のずっと奥の方だった。
『それが俺の夢だな……』
初めて会ったとき、そのひとは、泣きそうな顔でほほえんでそう言った。
ケガをしてままならない体以上に、ままならない現実を抱えている、少年じみた大人の顔をしたひとだった。
弱いひとなのか、強いひとなのか、わからなかった。
弱音を吐いているようで、固い意思をにぎりしめているようにもおもえた。
吹けば飛びそうなのに、このひとは誰にも潰せないのだろうと、ふしぎなことを考えたりもした。
このひとのそばに居てあげたい、とおもったのは初めての経験だった。
そばに行きたい、とおもった。
自分が、そのひとの『とくべつ』になれると直感したのかもしれない。
後輩を、手ににぎりしめてないと戦えない、そう言われている気もしたから。
そばに行ってあげなければ、ともおもった。
得意だからサッカーをやっていた──
ただそれだけの自分に、ようやく使い道ができた、そんなふうに感じたのだ。
プロになるつもりはあった。
でも、お金のためとか、生活のためとか、そんなんじゃつまらない。
そうおもうのに、サッカーをやって成し遂げたいことなど、ひとつも持たずにいた──だからこそ。
そのひとのところに行こうとおもった。
自分が、そのひとの『夢』に、力を貸そうと。
ひとりじゃできない、そうその横顔がたしかに訴えていたから。
『俺は、こいつを守るためだったら何だってする!』
そのひとから注がれる愛は、心地よかった。
あまりに心地よくて、守れるのならば、自分こそ何だってしようとおもえたくらいだ。
女の言う愛だ恋だなんてチンケなものより、ずっと価値があるとおもっていた。
恋愛より、はるかにそのひとから傾けられる執着に酔っていた。
自分の想いが、恋でも、愛でも、あこがれでも、呼び方なんてどうだってよかった。
大切なのは、いちばん強い想いだということ。
いちばん、大切なものだということ。
いちばん、失えないものだった。