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私、悪魔になりました  作者: 白子うに
3章 VSグレムリン
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第9話



今の状況を理解できずにいる私はそのまま呆然と座りこんでいた。自分が今置かれている状態もそうだが、どうしてサタンが助けに来ないのかが全く理解出来ずにいた。それと同じくしてグレムリンも今のこの状況が理解できないでいるようで、その顔色からは焦っている様子がうかがえる。それもそうだ、こいつの腕は体を貫いているのに私は死んでいないのだから。


「おいなんだよこれ!!た、確かに僕の腕はお前を貫いてるのに、貫いてる感触が全くない!どういう事なんだよ!まさかお前…やられたように見せかけて能力を隠していたな!」


「いや知らないよっ!!!てか私が一番意味不明なのっ!初めて本格的に戦ったんだから知るわけないでしょ!!」


「なんだと!この僕にそんな簡単な嘘をつくんじゃない!もういい、考えても埒が明かない」 グレムリンはすぐに腕を引っ込めて私から距離を取る。


鼻息を荒くしながら悔しそうにじっと睨んでいる。だが体は正直だ。歯をガチガチ言わせながら小鹿の様に震えている。やっぱりあいつ私でも倒せそうだ、などとお気楽気分でいるのもあまり好ましくはないだろう。


しかしこれはチャンスだ。あいつはまさに疑心暗鬼という言葉がぴったり当てはまるが如く私の事をかなり疑っている感じに見える。


まっ、勝手に勘違いしてくれている分にはありがたいけどどうしたものかなー。私も能力とか全く理解しないで戦っているし。ていうか問題はそこじゃないし。


私は頭の中でずっとサタンの事ばかり考えていた。基本的にあまり他人に興味がない私だが、こんなに相手の事を考えるのは小学校の時に好きになった初恋の男の子以来だ。ふっ、どうでもいいな。


とりあえず状況を頭の中で整理すると、サタンは私を助けなかった。


確かに私は一人で戦わせてほしいとはお願いしたけど、死ぬかもしれない時はすぐ助けるって約束したのになぜ来てくれなかったのか。あの時確実に死ぬと覚悟したけど、結果的に訳も分からずに私は生き延びた。


待てよ。助けなかったという事は、サタンの考えでは私は死なずに済むって事が分かっていたいたんじゃないのか。理解できないこの謎の能力を手に入れる事をすでに知っているとしたら、助けなかったというのも納得がいく。


だけどサタンはどんな力になるのかわからないと言っていた。まあそれすらもあいつの嘘っていう可能性もあるんだろうけど。


ほんの短期間で出会った相手を信用するってのもおかしい話だ。


それに人間じゃないしね。


クエスチョンが出てきてそれに対するアンサーを考えて解決したと思ったらまた新しいクエスチョンが出てきてという無駄すぎる堂々巡りのせいで頭痛がしてきた。


もう考えるのやめます、はい。


傷も少し回復してきたところで立ち上がり、再び戦闘に戻る事に決めた。


「おいグレムリン!見たか私の能力を!!このとっておきの能力で今からお前をぶちのめすから覚悟しとくのね!!!」


「なっ、お、お前やっぱり能力を隠していたな卑怯者がーー!」


隠してなどいない。とっさの嘘がばれないとはやはりこいつは馬鹿なようだ。


だが形勢が不利なのは何も変わらない。さっきの能力の使い方も分からないし、戦い慣れしているのは相手の方だ。私の作戦はグレムリンを挑発し、向こうが再び私に向かってきたところを全力で避けてカウンターをお見舞いしてやるといういかにも戦い慣れしていない素人が考え付く単純なものだった。こんな作戦が通用するかはわからないが、こちらから攻めるよりかはマシだと思った。


「何度も僕を騙しやがってふざけんな!絶対に許さないからな!!」


「騙されてるおバカさんが悪いのよ~このアホ悪魔」


「うああぁぁうるさいぞ!悪魔もどきの分際で舐めやがって、殺してやるっ」


作戦通りこちらに向かってきた。ほんと馬鹿なやつだな。


かなり速いスピードで詰め寄ってきているが大丈夫だ、私ならやれる。根拠もない自信が湧き出てきて覚悟できた。


ギリギリまで引き付けたところで私を仕留められる射程距離に入ったグレムリンはさっきと同じ攻撃をしてきた。やれやれ、芸のない悪魔だよ。


腕が伸びてきたところをすかさず上に飛んでそれをよけた。


「この僕の攻撃を避けた!?」


「あんたの攻撃なんて鈍すぎて避けるのなんか楽勝なのよ!」


最後に再び挑発した私はそのまま重力に逆らわずに落ちていき、下にいるグレムリンに向かってありったけの力でぶん殴ろうとした。


勝てる!


そう確信し、恐怖にひきつった顔のグレムリンの顔をぶん殴った。


が、それは失敗した。


失敗というと逆にやられたのかと思うのがそうではない。


私は確かに殴った。顔面も直撃した。


だけど手ごたえがなかった。


私の腕は顔面を貫通していたのだ。


「えっ!ちょ、えぇ!!?」


「うわぁっ!ぼ、僕の顔を腕が、腕が貫通している!」


「もーなんなのよーーー!!!」


「それは僕のセリフだーーー!!!」


このままではまずいと思い、とっさに逃げようとしたが着地をミスってしまった。


すかさずグレムリンが反撃のチャンスとみて、もう一度攻撃を仕掛けてきた。


ダメだ。もうこの状況では手も足も出ない。


頼むからもう一度さっきみたいに体をすり抜けてくれと願った。


やばい、神様お願いします!助けてください!!


私は必死に祈り目を瞑った。


「よっしゃー勝てるぞー!僕の勝ちだ!!運は僕の味方をしている!死ねー悪魔もどきが!!!」


「い~や、死ぬのはあんたやで」


「お、お前っ!サタン!!」


「お前って誰に向かって口聞ぃてんねん」


聞き覚えのある声がして目を開けると、目の前にサタンがいた。


「生意気なやつには制裁が必要やな~」


サタンはニヤニヤと笑い、攻撃途中の腕をガシッと掴んだと思うと、何の前触れもなく腕の骨を折った。骨が砕ける音がはっきりと聞こえた。


「ぐぁっっ・・・」


「こんなんまだ序の口やで~」


サタンはそのまま折った腕をいとも容易く引きちぎった。


「ぎぃやあぁぁぁ!!!!!」


恐ろしい量の血が飛び散り、私の顔にかかりとても不愉快極まりない。


中学の時に兄とスプラッタ映画を何本も見ていたせいか変な耐性がついてしまい、ちぎれた腕を見ても平気になっていた。


叫び悶えるグレムリンを冷めた目でサタンは見ている。


「全く。雑魚が調子乗るのはやっぱ許せへんよなーメサイア」


「う、うん。って!!ちょっとサタン!!!あんた私が死にそうになったら助けに来てくれるって言ってたのに、何で最初来てくれなかったの!!」


「あ~~~。ま、それについてはまた後でな。こいつ殺ったあとで話すわ」


サタンは何食わぬ顔をして平然と言った。


この悪魔・・・。


「さてと、ほな終わらせるか」


「ま、待てサタン。僕を殺さないでくれ」


「ほう、今更命乞いかいな。ほんま情けないな~七大魔王とは思えへんわほんと。まぁ聞いてやらんこともないけど」


「僕を殺すと本気でアスモデウス様が率いる悪魔軍がお前たちを殺しにかかる。殺さないでいたら鍵を渡してこの事は黙っといてやる」


「黙っといてやる??」


サタンはグレムリンの頭を地面に叩きつけ、足で踏みつけた。


「お前ほんま生意気なやつやな。お願いする態度やないやろが。」


「うぐぅぁぁ、分かった!分かった!ごめん!」


「おい。土下座って知っとるか?」


「し、知っている。人間界での習わしだろ?あれをすればいいんだな」


「話がはやいやないか。それやれ」


「わかった・・・」


グレムリンは頭を地面に着けて十秒ほど土下座をした。


しかしなんで土下座なんてこいつらは知ってるのだろう。


悪魔の生態についてはまだまだ知らない事が多そうだ。


「よし、うちも鬼やないからな。これぐらいで許したるわ」


「約束の鍵だ。ほらよっ」


「はいどうも」


「要件は終わったんだろ。さっさと出て行ってくれ」


「こんなつまらんとこさっさと出ていくわ。行くでメサイア」


「うん。あ、待ってサタン。ちょっと、疲れちゃって立てないんだ。おんぶしていってくれないかな」


「も~しょうがないな~。ほな、うちにつかまっときや」


サタンは微笑みながらおんぶしてくれた。優しいとこもあるんだ。


「じゃ~な~グレムリン。ほんま弱かったわあんた」


「うるさい。黙って帰れ」


さっそく鍵も手に入れられたからかサタンは上機嫌だった。


それと対照的に私はそれほど気分は良くない。


初めて悪魔と戦った結果は実質的に負け。


それにサタンにも聞きたい事がたくさんある。


だけどそんな元気は今はない。


くたくたに疲れた私は心地よい背中に身をゆだね、ぐっすりと眠った。


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