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私、悪魔になりました  作者: 白子うに
3章 VSグレムリン
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第7話

ドアを蹴破った先には、広い空間が広がっていた。見渡す限り一面緑で覆い尽くされていて、様々な木々や花が咲き誇っていた。しかし、よく見ると見たことのない形や色をした植物もたくさんあった。これこれ!こんなのを求めてたんだよ!異世界って感じじゃん!どこまで広っているかわからないけれど、見た所ずーっと景色が見えるし、もしかしたら無限に広がっているのかもしれない。およそ一キロメートルぐらい先だろうか、小さな小屋みたいなのが建っている。あれがグレムリンの住処なのかな。なんか思っていたよりちっぽけなんだなぁ・・・・・・。


こういう所にも悪魔として強いか弱いかで変わってくるのなら、それはさすがに可哀想になってくる。これじゃあ人間世界と同じじゃないか。弱者が虐げられる、私がいた最悪な世界と同じ。こっちの世界では違っていてほしいものだけど、どうなんだろう。


しかしまぁ、気温も人間世界の春の時と同じような感じで、とても過ごしやすい。暑くもなく寒くもない。ちょうどいい感じ。こんな所に住めるなら一生住みたい気分になる。なんていうか、これもわたしの想像してた世界と違ったなぁ。もっとこうなんていうか、漆黒の闇の中にそびえ立つ城にいるのかと思ってたから、イメージとのギャップに驚きを隠せなかった。


興味津々な私と相反して、サタンは何やら苛立った様子で文句を垂れ始めた。「なんやこれ。こんなええとこに住んどるんかあいつは。七大魔王様々やでほんま。この世界なんぼすると思ってんねんどアホが」


「ん?なんぼするって事は、この世界にもお金があるの?」


「まぁ、あるっちゃあるなぁ。ただ、あんたが住んでた日本みたいに勤労の義務みたいのはないからな。金を貯めて何か買いたいものがあるやつは働くし、特に何も欲しいものがない場合はお金なんていらんしなぁ。別にうちら悪魔はお金なんかなくても生きていけるしな」


そういうとサタンは、胸からキセルを取り出して一服しだした。


うちはこれだけはお金貯めて買ったんやと満足げに笑みを浮かべて豪語した。


日本の煙草とはまた材料などが違うのかもしれない。


いつか私も吸ってみたいな。


未成年だから吸えないけど。


「いやいや、あんたはもう人間じゃないんやし吸うたらええやないか。悪魔に年齢とかあるようでないもんやで。あんたらの世界にいるタレントの、ええと誰やったかな・・・・・・年齢が十万何歳とか言っとるやつが日本に来たときにテレビに出とったのがおるけど、あんな感じで適当なんやで」


「うちも何年生きとるかわからんわ」とサタンは苦笑いしながら言った。


いや、あんたが言ってるタレントさんは下二桁が年齢ってみんな知ってるんだけど。あの人を例に引き出されても反応に困るよ。


ていうかまた心が読まれてる事を忘れていた。


なんかほんとに嫌なシステムだなぁこれ。落ち着けないし。


けどサタンと一緒にいる時間が長いにつれて分かった事もあった。


どうやら私の心の声を全て聞いているというわけじゃなく、サタンが答えたくなるものだけが伝わるようだ。


なんともサタンにとっては便利なものだが、相変わらず私にとっては不便極まりないものである事は確かだ。


もう少しなんとかならないものか・・・・・・。


とりあえずサタンからの誘いは一旦保留する事にした。


グレムリンを倒したご褒美にもらう事にして、まずは目先の戦いに集中する。


それにしても、誰の気配も感じない。


私たちは空中を飛びながら、優雅に景色を楽しみつつグレムリンを探していた。


入ってきた時に見えた小屋の前に降り立った私たちは、ノックもせずにずかずかとグレムリンの住処かもしれない小屋に入っていった。


部屋の中には木製で出来ている小さな机一つと椅子が二つ。


食器棚にも木製で出来た皿が綺麗に並べてあるが、スプーンやフォークなどは木製ではなく銀で出来ている。なんのこだわりなのかさっぱりわからない。


それと、家具のサイズがやけに小さかった。


そもそも小屋が小さいので当たり前かもしれないけれど。


これでグレムリンは小型の悪魔なのかもしれないという仮説がまず一つ立った。


もう一つは、とても几帳面で綺麗好きの性格だという事。


食器がどれも均等に並んでいるし、床や机などに埃が一切ない。


生活感が逆になさすぎて怖いくらいだった。


しかし、ここを住処にしているのは間違いなさそうだったので、とりあえず私たちはグレムリンを見つける作戦を立てる事にした。


「しかしどうするよ~メサイア。全然見つかる気がせえへんわ。この小屋に住んどるとしてもやな~、この空間がどれくらい広いかもわからんし、それに遠い所におるならなおさら見つけられへんわ」


「うーん。そうだね・・・・・・。でも、とりあえずはここにいた方が見つけられる可能性は高いんじゃないかな?」


「確かにそうかもやな。ならあんたの案に乗るわ」


「了解。それともうひとつ提案があるんだけど」


「ん?なんやなんや??」とサタンは興味津々に聞いてきた。


「この部屋を荒らしてみない?几帳面なやつを怒らせてみたいんだよ」


「うっっわ。メサイアって陰湿なんやな。それで怒らすとか・・・・・・」


「いい案だと思わない?もしこれで部屋の中を荒らしてる音が聞こていたら出てくるかもしれないよ?」


「まぁわかったわ。せっかくあんたが立ててくれた計画やし実行したるわ」


無論--こんな事はしたくはなかった。


私だって良心はある。けれど、こういうのは臨機応変にいくのが大事なんだよ。


何事も柔軟な対応をしている人間の方が賢く生きていたのは知っているから。





「ま、とりあえずやってみるか」


「よし、始め!」


私の掛け声を皮切りに、一気に家具や食器類を散らかし始めた。


といっても、散らかすだけであって、決して家具は壊したりはしない。


これもお金で買ったものなら可哀想だし。


可哀想とか言っときながら部屋を散らかしてるのは構わないだろうという私の感情はどうなってるんだと思うが、まぁそれは置いておくとしよう。


とはいえ、整頓された物を散らかすという行為は、散らかった物を整頓する行為よりも気持ちいいのは何故なんだろう。


いやもちろん、自分の部屋がこんな事されたら激怒必死なのだろうけど。


とりあえず部屋の中を散らかせるだけ散らかすことに成功。


食器棚と食器類は木製のため落ちても割れる事もないので安心。


「ふーー。なんかちょっとストレス発散できたわ」


「でしょ?これも計算に入れてたんだよ私は!」


「いやいや嘘つくんやないでメサイアちゃ~ん。たまたまやろ~」とニヤニヤ笑いながら肘で私の体をツンツンしてきた。いちいち仕草が可愛いやつだよまったく。


しかし散らかすだけ散らかしたので、どうにも居住まいが悪くなったなぁ。


少し散らかすのを後悔してしまう自分が情けない。


気分転換に外を探検してこよう。


「サタン、ちょっと外の空気を吸ってくるよ。ついでに探検してくる」


「はいよ~。気ぃ付けて行くんやで~。うちはもう少しここにいるわ」


サタンは部屋に鍵が隠してあるんじゃないかと推測しているようで、色々と部屋の隅々を探している。


荒らさなければよかった・・・・・・。


ごめんねサタン。


心の中で謝っておいて、私は外に出ようと思い玄関のドアを開けようとした。


しかし、ドアノブに手をかけたその時、強烈な痛みが走った。


「痛っっ!」と叫んだ瞬間、見ると手をかけていたドアノブが真っ赤な色の手の形状に変わっていた。そして、ぐさりと鋭い爪が私の皮膚に食い込んでいた。


な、なんだこれ・・・・・・。理解が追いつかない。これがグレムリンなのか!?


食い込んでいた爪を何とか引き抜こうと思ったら、今度は手首をがっしり掴まれてしまい、そのまま外に投げ出された。


「メサイア!?」と急いでサタンはドアを破壊して駆けつけてきてくれた。


「おい、メサイア大丈夫かいな!?何が起こったんや?ドアが勝手に動いとったけど、あれはなんや?」


「わかんない。けど、ドアノブが急に手に変わって。そのまま放り出された。確かに何かがいる。けど、ドアが悪魔なのかはわかんない。実際、今はサタンがドアを破壊したらピクリとも動かなくなったし。なんなのこれ?」


「わからん。うちもグレムリンの能力については詳しく知らんのや。こいつはもともと雑魚扱いされとったし、しかも能力なんてなかったはずやってんけど」


「くっそぉ・・・・・・。いきなり計算違いだったねサタン。弱いと思っていた敵に先手を許してしまったよ」


「いや、そんなに計算違いでもなさそうやわ。うちが見た限り、やっぱりグレムリンは雑魚や。普通思っきり油断してるやつを不意打ちするなら、急所とか狙うのが定石やし、それに爪で手を刺すなんて原始的な方法で攻撃するっていうのは、こいつは攻撃に特化した能力やないという事や」とサタンは冷静に分析している。


さすが大魔神だったことなだけある。これぐらいでは動じないみたいだ。


「でも、能力は持ってる事は持ってるんでしょ?いまいちまだよく分かってない能力だし、私に戦えるのかな・・・・・・」


「それについても心配せんでええでメサイア。おそらくグレムリンの能力は」


とサタンが言いかけた瞬間、ものすごい勢いで私の右目の前に何かが飛んできた。


思わず目をつぶってしまった私だったが、その飛んできた物をサタンががっしりと掴んでくれた。


危なかったぁ・・・・・・。ギリギリ眼前一ミリ手前で止まった。


見ると、それは小屋の中にあった銀のフォークだった。


飛ばしてきたのか?にしてもどこからだ。


「あー、うちが喋ってる時に邪魔しおって。うちを誰やとおもてんねん!かっこよく能力の正体を暴いてやろうと思ったのに。まぁええわ。もっかい仕切り直しや!ほないくで、グレムリ」とサタンが再び言いかけていたその時、今度は私の頭の背後からまたも何かが飛んできた。


「なんやてー!!また攻撃してきよったでこいつ!クソ野郎!」


とっさにサタンが手を伸ばした。


「ふっ。このサタン様の反射神経なめんなや!これも余裕で掴んだるわぁ!!」


私はサタンを信じて目を閉じた。


瞬間。


ぐさっと何か鋭いものが私の後頭部に刺さった。


「きゃあぁ!」と思わず女の子らしく悲鳴を上げてしまった。


そんな可愛い悲鳴を上げている場合ではなかった。ずきずきと頭が痛んできて、ドクドクと血が流れているのを感じた。はやく刺さってる物を抜いてくれよサタン。


しかし、サタンは私の頭に刺さっていないと思い込んでいる。


「よっしゃ掴んだで!」と自信満々に言っている。


そんなサタンに私は伝えた。


「サタンさん、掴んでる手を見てください」


「ん?あぁこれか?これは包丁やけどってほぁぁ!?」


ブルブルとサタンの手が振動しているのがわかる。


すると震えた声でサタンは叫んだ。


「あぁぁぁ!頭に刺さっとるーーー!!!うちの反射神経あかんやーん!!!」


「そんな事はどうでもいいからはよ刺さってるもの抜かんかい!!!!!」


思わず突っ込みを入れてしまった。


いやー恥ずかしい。けど、この状況で私の心配より自身の反射神経の悪さを心配しているとか逆に面白いよ!こいつ天然かよ!


きっと私たち漫才なら売れっ子師目指せるんじゃないかと思うぐらいだ。





急いで刺さってる包丁を頭から引き抜いて、サタンは持っていた包丁を小屋へぶん投げた。「大丈夫か?ごめんやで~」と必死に謝ってきたので、とりあえず今回は許す事にした。


運よく包丁の先端部分だけが少し刺さっていたので大事には至らなかったのだが、そもそもこの悪魔の体の回復能力はどのくらいなのかという事がわからないので、正直なところサタンが止めていてくれなかったら、今頃私はどうなっていたのだろうかと思うと少しゾっとする。


人間なら普通に死んでしまうだろうし。


ちなみに、さっき爪でえぐられていた私の皮膚はいまだに治りきっていない。


血は出なくはなっているが、皮膚が再生しているという事はなかった。


そもそも、悪魔は死ぬんだろうか・・・・・・?


そこらへんの事ももう少し勉強しないといけないな。


戦いには必要不可欠な情報だし。





しかし、しょんぼりしているサタンは可愛かった。


愛くるしいというかなんというか。


私の手の骨をバキバキに砕いたときに謝ったサタンも可愛かったし。


なんだかんだ憎めない存在になってきているのは確かだ。


とりあえず、私たちは地面から離れて宙に浮かびながら反撃の作戦を立てる事にした。百メートル程上に飛んだところで、一旦状況を整理する。


「とりあえず、サタンはグレムリンの能力がわかったんだよね?」


「あぁ。けど、まだ確証は得てないんや」とサタンは少し不安気に話す。


「私もだいたいわかってきたんやけど、多分グレムリンの能力は、遠隔で物体を操る能力だと思ってる」


「いや、うちも最初はそう思ったんやけどやな、遠隔で物体を操るにしては、ドアノブが手に変形するなんて出来ひんはずや。恐らくやけど」


メサイア。グレムリンの能力はもう少しやっかいな能力やとうちは思ってる。


と、サタンは続けた。


「こいつは多分、物体を操ってるんやない。物体の中に入り込んで意のままに動かせる事が出来る能力や。しかも、入り込んだ物体を変形させる事も出来る。だから、さっきドアノブが変形したんやと思う。それに、さっきうちが止めたフォークと包丁あるやろ?ま、一つは止められんかったけど。あれも、ただすごい勢いで飛んできただけやなかった。うちが手で止めた後も、かなり強い力で動こうとしとった。本来なら握った瞬間に勢いは止まるけど、そうはいかんかった。なんとしてもあんたを殺すという殺意が感じられたし。まぁ、うちが思いっきり力を入れた途端、急に勢いがなくなったけど。多分、壊されると思いよったから別の物に移ったんやろうけど。そこがまたうざいんやわ」


「なるほど・・・・・・。てことは、こうしている時間も危ないかもしれないって事だよね?空中にもさっきみたいな攻撃がくるかもしれないし」


「せやな~。なら、はやいこと決着付けなあかんな。弱いと思ってたけど、こんな能力を手に入れとったとはな。今回はうちがやるから、あんたは休んどき」


「ダメだよ」


それは絶対にダメだよ、とサタンに念を押した。


自己主張が嫌いな私は、はっきりと主張した。


「なんや?基本的にはうちもあんたに出来るだけ一人で戦ってもらう予定やったけど、今回は負傷しとるうえに、まだ悪魔とも戦った事もないんやから、休んどいたほうがいいと思うんやけどなぁ」


「いや、今回はどうしても私一人で戦わせてほしい。お願いサタン」と、私はサタンに頭を下げた。


「そこまでいうんやったらしゃーないな。頑張れよメサイア!でも、あんたが死ぬかもしれんて時はすぐ助けるで。それでええな?」


「うん。ありがとう。じゃ、サタンはここで待ってて。私に作戦があるから」


「おう。ほな頑張れよ!期待しとるで!!」


激励を受けて元気が出た私は再び小屋に向かっていった。


恐らく、またさっきと同じ攻撃をしかけてくるはず。


攻撃を受けてわかったが、こいつの攻撃方法はワンパターンすぎる。


しかも姿を現さないという事は、こいつは私たちにビビってる。


不意打ちまでしてきたし、正面から正々堂々戦うのは嫌なんだろう。


だがグレムリン。君はもうダメだ。


「絶対に殺してやる。卑怯な奴は、人間だろうが悪魔だろうが大嫌いだ!」


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