第69話
素直に謝れば許してくれるのではないか。なぜならそれなりに容姿には自信があるからだ。しかも華の女子高生である。制服は着用していないが、このわたしから溢れでるJKオーラは隠しきれていまい。普通の男なら手は出さないはずだけど、そんな雰囲気を微塵も感じさせないその男はわたしの肩を掴み「お前なにしてくれてんねん」と鼻息荒く顔を近づけてきた。
さっきの火凪といい勝負をしている。顔の接近距離の話だが。
怒って顔を近づけて威嚇させているとみせかけて、このわたしの唇を奪うつもりではないのかという馬鹿な考えが思いついた。
毒されている。してやられたな。
とりあえずこの場を乗り切るために、ずっと沈黙を貫いていたガーディアンに頼ろう。もとい、わたしの力を出して乗り切ろう。ただ、たった今残念なことに気づいた。悪魔の力を出すにはあの姿にならなければならない。えいっと軽めに殴ってどひゅーんと吹っ飛ぶ構図を描いていたのだが、ぽすっと男の服が形を変えるだけだった。さて、どうしたものか。
しかし牛丼屋に入る前ぐらいからか、どうしてガーディアンは何にも反応しないんだ。いつもならうっとうしく、暑苦しいまでに、わたしを様付けまでする篝の信者の反応はなかった。
だんまりを決め込むガーディアンに頼らずとも、わたしが悪魔になってちゃちゃっとこいつらを痛めつければ終わり。
痛めつけるのはダメだった、始末しないと。姿を見たやつらを野放しになんかしたらそれこそ大騒ぎになりかねない。
だったら、男が殺さた時の騒ぎの方がマシだ。マシ、というよりごくありきたりな殺人事件で済む。
男の仲間は二人。よし、これなら時間はかからない。付近に防犯カメラなし、他の人の存在なし。
さぁ、死んでもらおう。
「お兄ぃさーん、こっちこっち」
あれ?ついさっきこんな声聞いたような気がするぞ。背後から聞こえたその声に反応して振り返った男の頭が吹き飛んだ。大量の血が噴き出し、わたしの体を真っ赤に染めた。無き頭の向こうに見える景色には、わたしと同じ真っ赤に染まった火凪がニコッと笑って立っている。だが、綺麗な白髪だけはそれに染まってはいなかった。
「こんな荒っぽいこともしていいんだよ、神様は」と嬉しそうに頭を吹っ飛ばしたのを自慢してきた。悲鳴を上げて逃げようとする残り二人の前に瞬間移動したと思ったら、ツンっと両手の人差指で頭をつっついた。そいつらも惨たらしく殺して見せるのか、そう思った。そう思うのが普通だと思った。
しかしそんなことはなく、二人の頭が吹き飛ぶことはなかった。だが、二人の様子がおかしくなった。
必死に逃げようとしてたのから一変、まるで何事もなかったかのように街へ歩いて行った。しかも目の前にいる火凪には全く目をくれず、というか視界に捉えられていない。さっき殺された男の存在などなかったかのように、こちらには一瞥もくれなかった。何が起こった?
「武力行使だけじゃなくこういうことだって出来るのさ、スマートに。一分十七秒ぶりだねっ篝」
血まみれのはずなのに、なぜかその姿を美しいと思ってしまった。悪魔であるわたしじゃ不可能な美しさ、イカれた神様は、ただただ神として神々しく、美しく目に映って心を蝕まれそうになった。




