第40話
「そんなことって、この世界にもあるんですね」
想像もしていなかった答えに少し動揺してしまったが、ここは落ち着いて聞かなきゃ。
でもそうか、悪魔にもそれぞれ性格があるのだから当然の結果なのかもしれない。
「残念ながらね。多少ながら本人にも原因はあるみたいだけど」
問題児をどう扱えばいいのか悩む教師のように、頭を抱えながら説明をしてくれていたのだが、本人に原因があると言っているぐらいだから相当なものなのだろう。いじめられていたわたしからしたら、そんなことはないですよと言いたい気持ちもあるのだが、少なからずそういう事例も無きにしも非ずなので、とりあえずその原因について聞いた。
「彼はね、翼がないのよ。別に翼がない悪魔なんてザラにいるんだけどね」
「なるほど。じゃあそれが原因ってわけじゃないんですかね?」
「そういうわけでもないんだけど、まぁ悪魔には翼がある連中が多いから」
ハッキリとした答えをよこさないオオカミさんの心情はよくわからないが、わたしがいじめられていた事を知っているからあんまり言いたくないのかなとも思ったから、わたしがオオカミさんの言いたい事をズバッと当てたほうが良さそうだ。
「つまり、多数が少数をいじめているって感じですか」
「そう、ね」
非常に残念という感情しか出てこない。結局この世界でもあるんだ、これじゃ人間界と何にも変わらないじゃないか。まぁ多数派の全員がそんなことをしているってことはないんだろうけど、そんなものは何の意味もない、誰か一人でもしていることが問題なのに。
「翼がない悪魔も多いけどね。サタンが探してるオロチも翼はないけど強いから何もされてなかっただけ。将門はこの世界に途中から入ってきたのもあってか目をつけられるようになったの」
「でもその虐めてたやつらを倒したんですよね。あえて虐められて復讐のチャンスを伺っていたってことですよね」
それが平将門の強さの秘密でもあり、何か特殊な能力があるんだろうと確信していたけどその答えはまるで違っていて、わたしは目を見開いた。
「いいえ、彼にはそんな余裕はなかった。ただひたすら虐めに耐えて、耐えて・・・耐え続けた。復讐できる程の力や能力もなく、背丈がでかいだけの木偶の坊だった彼がとった手段は、ひたすら鍛え続けることだけだった。そして彼は最強の肉体と力を手に入れたの」
「鍛え続けたって・・・そんな簡単なことで」
「簡単じゃないわ」
怒り気味にわたしの言葉を遮ったオオカミさんはごめん、とすぐに謝ってくれて話を続ける。
「生半可なものじゃないのよ。悪魔の回復力を利用して何度も死ぬ寸前ぐらいまで自分への体へ負荷をかけ続けた。時には他の悪魔に、殺す寸前までやってくれていいと頼み込んで組手をしたりもしてたの。そこで彼はふと気づいた。回復を重ねる度に自分の体が変わっていることに。いつしか死ぬ思いまでして自分がやってきたトレーニングが今の自分には全く効かないことに」
「それで強くなって今の七代魔王にまで上り詰めたということですか・・・」
なんかこの非日常の異世界ですごく現実的な話だなぁ。人間世界にはよくある話だと思うけど、翼はあるわなかなか死なねーわ漫画みたいな能力使えるわのこの世界でそういう種類の悪魔もいるって思うとちょっと嬉しく思えた。しかも日本人だし、謎に喜んでしまった。
「一つだけ疑問なんですけど、わたしたちもそういう鍛え方をしたら強くなれるんですかね?」
「それはわたしも思ったんだけど、どうやら違うみたい。だから彼の身体的な特徴の一つなのかもしれないし、もしかしたらそれが能力なのかもしれない」
わたしも何回か死ぬ思いしてみたんだけどねぇ、笑いながらあっけらかんに言えるのが単純にすごいし怖い。やっぱこの人変人だわ。
「確かに強そうなんですけど、次に狙う相手なんだから勝算はあるってことですよね?」
「いいえ」
ん?聞き間違いかな。いいえ?いいえ・・・いいえ・・・・・・?
「勝算は無い。ゼロよ。だけど、なんとか戦わずして説得してみせる」




