第32話
淡々と説明する姿をわたしは沸々と煮えたぎる怒りを抑えることに必死だった。
こんなに苛立っている原因は勿論、この三つの提案以外の何ものでもない。
なぜなら、わたしが選ぶであろう答えを、提案者のサタンはすでに知っているのだ。
二つ目の提案。オオカミさんを殺さずに鍵だけ奪う方法。どう考えても、三つの中から選ぶとしたらこれ以外にはないのだ。消去法で仕方なくとかいう話じゃない、これは誘導尋問だ。
確かに、二つ目の提案を選べば可もなく不可もなくという結果になる。
だけど、わたしはオオカミさんと仲間になりたい。なりたくて仕方がなくてとても辛い。
わたしには分かる、この人はわたしを裏切らないって。
サタンをまるっきり信用していないわけじゃないけど、一度嘘を付かれ、それが嘘だとわかった時、嘘をつかれた人間というのはもう相手の事を心から信じることはできないと思う。
相手の事をを思う優しい嘘ではなく、自分に都合が良くなる嘘。
バレなければいいだろうと言う人もいる。そうかもしれない。
けど、大抵嘘というのはバレる。特に後者の方。
それをサタンは平然とやったんだ。こうなるのは、嘘を付いた者の末路。
だからわたしも、それなりの対応をしてやろう。
良い考えが思いついたんだけど、これにはそれ相応のリスクがある。正直失敗するリスクの方が高いだろうことほ自分でも理解していた。
しかし、痛み無くして得るものなしだ。それと、わたしの予想が正しければきっと・・・
「ねぇサタン、わたしからも提案があるんだけど聞くだけ聞いてよ」
「ん?提案てなんや、うちはそんなのは聞いてへん。あんたはうちが出した提案をどれにするかを答えるだけや」
「その提案は全部拒否する。だから、わたしが新しい提案をしようと思う」
「はぁ?何を意味わからんこと言い出すんやあんたは」
そんな要求が受け入れられるかと挑発の笑みを見せたサタンを無視し、わたしは一人続けた。
「わたしがサタンに勝ったらオオカミさんには仲間になってもらう。これは絶対条件、リリスさんにも強制的に受け入れてもらう。だけど、サタンが勝ったらわたしを殺すなりなんなり好きなようにすればいい。これがわたしの提案」
「あんたも言うようになったもんやなぁ。自分の立場がわかってないようやが、まぁそこは触れんといたる。やけど面白い、その提案に乗ったる。命はないと思いや」
「そんなこと言ってるけど、本当はそんな事するつもりないんじゃない?」
「あちゃ~バレとったか。お前も黙ってるけど、実はうちの心読めるんか~?」
ヘラヘラ笑いだした。可愛らしいとは今の気持ちでは思えないのが残念だったが、やはり予想は的中した。心は読めないけど、こいつはわかりやすい性格だから軽く予想は出来てたけど。
「その通り。さっきうちが出した最後の提案は、お前を二つ目の提案に導くために脅しや。せっかく判明した逸材を殺すわけないわな。よっ、名探偵。」
「そんなのいらないから。それで、サタンの提案はなんなの」
これの答えもおおよその見当はついていたが、その考えよりもワンランク上の嫌な答えがきた。
「うちがあんたに勝ったら、当然オオカミは仲間にさせへんし生きては返さん。それプラス、あんたはうちの命令、言う事を断る事を禁止する。完璧に従ってもらう、意見を出すのもダメや。これぐらいさせてもらわへんと、もし!万が一!あんたが勝ったときは、うちが嫌いなそいつと仲間になって旅をしていかなあかんことになる。それはうちにとっては死ぬほど嫌なことや。やけど、あんたが勝ったらしゃーなし受け入れたる。もっとも、あんたが勝てるとは思えへんから内心ホッとしとるんやけどな。それに、戦いにはリリスも加わってもらう。こいつはうちと一心同体みたいな感じやしな。リリスもそれでええかー?」
「承知いたしました。お仲間とはいえ、サタン様の命令とならば全力でお相手します」
「だってよーメサイア。この条件でええか」
「・・・わかった」
正直な話、こんな提案を出してはみたものの、後悔と不安に方が多い。
勝てる根拠なんてないし負ければオオカミさんは死に、わたしはサタンの奴隷となるも同然。
二つ目の提案を呑んでいれば、オオカミさんには何も迷惑をかけることはなかったのに、わたしのわがままで他人に生死を握られたオオカミさんの気持ちは計り知れない。もしかしたら、オオカミさんにとったらこんなこと望んでなかったのかもしれない。だからこそわたしはこの戦いに勝たなければならない。
恐怖で押しつぶされそうになり、足が震えてうまく立つことができない。
ダメだっ!!こんなんじゃ、土俵にも立たずに負けを認めているようなものじゃないか。
いやなことに、身体は心と違って正直だ。こんな情けない姿をオオカミさんに見られたくはない。けど、それは無理だった。少しずつ回復してきたのか、失っていた意識を取り戻すしたようで、足元で倒れこんでいたオオカミさんは震える声で「しゃがんで」と言ったのでそれに従うと、わたしを再びギュッと、痛む身体で無理して抱きしめてくれた。そして、耳元でゆっくりと囁いてくれた。
「大丈夫。メサイアならきっと勝てるわ。だから、私の事なんか気にしないで頑張ってね。これはあなたのためでもあるから」
「はいっ。わたし、絶対に勝ってみせます。頑張ります」
「そんなに肩に力入って状態だと、勝てるものも勝てないわよ」
「す、すみません。リラックスしますので!」
大きく息を吸い、ふーーーっと深呼吸をする私を見て、オオカミさんは微笑を浮かべ「じゃあ、行ってきなさい」と言い、眠りについた。小刻みに震えていた足の震えは止まり、さっきまでの恐怖は和らぎ、わたしはスッと立ちあがり、サタンに方に向き直す。
覚悟を決めろ、わたし。もう、何も後悔しないように。
「最初に勝ち負けの基準を決めときたいんやが、殺すのはNG。負けを認めて降参する、又は相手の意識がなくなるまで、つまり戦闘不能の状態にする。これが勝利条件でええか?」
「わかった」
「よし、ほなじゃあ改めて。よろしゅうたのんまっせぇメサイア」
「手加減なんてしないから」
「それはこっちのセリフやで。楽しくやろうや」
「それは無理。殺す気で行くから」
「おぉ恐い怖い。まぁ、精々頑張りや~」
静かに風が草木をなびかせ、戦いを急かすように煽り立てた。




