第28話
「仲間って、どういうことですか」
「そのままの意味よ。サタンとじゃなくて私と組まない?」
いまいち言っている言葉が理解できず、一人困惑してしまう。だって、さっきまで自分から殺し合いをするって言ってた張本人が仲間になろうって、どう考えてもおかしいじゃない。
目の前にいる敵に向かって、わたしは威嚇も兼ねて引き金をひく素振りをした。
「そうやって油断させてわたしを殺すつもりですか」
「違うわよ。これは冗談なんかじゃなくて本気も本気。なんでこんなこと言うのか不思議に思うのも無理ないわ。だってさっきまでは私だって仲間になろうなんて考えはなかったの」
余計にわからない。ついさっきまでは殺そうと思っていた相手と仲間になろうなんて、普通の考えを持っている人間には、これが罠のようにしか感じられない。さらに疑心暗鬼になっているわたしにオオカミさんは諭す用に質問を投げかけた。
「あなた、人間に強い恨みをもっているでしょう?」
「?!」
「当たりね。なんでわかったかのかは私をよくわからないんだけど、さっき銃の扱いを教えてるとき手が触れることがあったわよね。あの瞬間に何か感じたの。あぁこの子は私と似ているのかもなんて。私は人間じゃなかったけど恨みは今でも持ってるから。でもどうしてなのか、理由を教えてほしい」
ここまで言われてしまったなら、もう素直に話してしまおう。
仲間になるとか以前に、打ち明けられなかった悩みを聞いてくれるというのはとても心の支えになるし、何より自分の気持ちが楽になる。
「えっと、その、わたし・・・・・・学校でいじめられてて。両親や仲良し親友の子に迷惑をかけたくなかったので誰にもいえませんでした。クラスメイトでは何人かはわたしがいじめを受けていることは知っていたんですが、止めたら自分もいじめられるから誰も言わず、わかってても知らないフリをされていました。でもそれは仕方のないことで、わたしだってその立場になったらそんな勇気のある行動はとれていないだろうし、その人たちを責める資格はわたしにはない。間違っているのは、何もしてないわたしをいじめるそいつらだけ。いじめられるやつにも原因があるなんて、そんなの絶対におかしい。みんなが他人を思いやる優しい世界なら、こんなことは起きるはずないのに・・・けど、結局何も変わらない現状に耐え切れなくなったわたしは、屋上から飛び降りようとしていたところをサタンに助けられて今に至るという感じです。あっ長々とごめんなさい」
「ううん、気にしないで。そっか。辛かっただろうに」
そう言ってオオカミさんは、わたしに近づいて優しく抱きしめてくれた。
身体が温かい、心が温まる。誰かに抱きしめてもらったのなんていつ以来だろう。
幼いころの感覚がよみがえってきて、ふと目から涙が零れ落ちた。
誰かの前で泣くのは恥ずかしいことだと思って、できる限り泣かないようにしてきた。けど、それがどれだけ苦しいことなのかも自分ではよく理解していた。
誰かにこうしてもらえるだけでよかったんだと、身体がそう応えてさらに泣いてしまった。
泣きわめくわたしに呼応するからのように、オオカミさんは少し強く抱きしめてくれる。
「ずっと誰にも言えずにいた気持ちを吐き出せて楽になった?」
「はい。すみませんこんなお見苦しい姿を見せてしまって」
「いいのよ。あなたは周りに気を使って言わなかったのよ、偉いじゃない。あなたみたいな人の命が絶たれなくて本当によかった。でも、サタンと組んでるってことは、この世界を支配しようとしてるわけよね」
「わたしの目的はサタンとは少し方向性が違うのかもしれませんが、わたしは人間界を滅ぼして新たな世界を創ることが目的で、それをするにはまずは悪魔の王になって破壊の力を手に入れないといけないらしいので、七大魔王を倒していって、ゆくゆくはアスモデウスを倒す。そして、その破壊の力を持つ者だけが神と対等に戦える。創造の力を持つ神を倒せば、わたしの望む世界を創れます。誰とも争わない、人と人とが手を取り合い思いやる。戦争なんて絶対に起きない、文字通りの世界平和。そんな世界を創る。今の世界を創った神は間違っている。だからわたしは悪魔になったんです」
「それでわたしを狙ってきたのね、納得した。メサイアのしたいことはわかった。だけどサタンだけは、あいつやっぱり信用しちゃだめよ。メサイアを使って何を企んでいるの・・・まさかまだ諦めていないのかしら・・・・・・」
「それってどういう意味」
「ごめん、話はまた後。ゆっくり聞いてる暇はなさそう、面倒くさいのが来てるわ」
そういいながら、オオカミさんはわたしの頭を優しく撫で「ここにいてね」とだけ告げて近くの木々の中に身を潜めに消えた。シンと静まり返っていたこの場所に、予想通りサタンはもうスピードでやってきた。顔色を変え、わたしに詰め寄り「オオカミは!?」と呼吸を荒げながら質問を投げかけた。
わたしのとこには来てないよ、そうとっさに嘘をついてしまったことについては少し罪悪感はあったが、そこまで悪いことをしたとも思わなかった。
だけど、わたしはどうすればいいんだ。オオカミさんとはまだ話したいこともあるのに。