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私、悪魔になりました  作者: 白子うに
4章 幻影との遭遇
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第12話

鳥みたいに空を飛べたらと誰しも一度は思うだろう。

鳥ではないが、空を飛ぶという非現実な日常を経験しているわたしの心は踊っている。

縦横無尽に意味もなく空中で宙返りを繰り返し、ゲームのキャラクターを操っているようにわたしは無限に続く空を飛びまくった。他の誰にもこの爽快感味わう事はできまい。パラグライダーとはわけが違う。


空をずっと飛びたいと思っているがゆえに、ライト兄弟が初めて飛行機を発明してから、現在は様々な空を飛ぶ乗り物を人類は発明してきた。それほど空を飛ぶというのは魅力があることだ。しかし乗り物だけでは空を飛びたいという人間の欲求は満たされる程単純なものではない。だからゲームやアニメーションなどで空を飛ぶキャラクターを作って動かし、自分たちではできないことを画面上のキャラクターを見たり操作することをもするようになったんじゃないかと思う。人類は地球上で一番優れている生き物だと言う人は多いだろう。けどわたしはそうは思わない。人間なんてしょせんちっぽけな存在だ。食物連鎖という点では人は頂点に立っているが、食料を定期的に食べなくては死んでしまうし、空は飛べないし、水中で息をすることさえできないじゃないか。何年を食料を食べずに生き続ける生物もいれば、鳥は飛ぶことはもちろん、地面に降りてきて歩くこともできる。異常気象により餌となる陸の植物が減ったことにより、一部のイグアナが餌を求めて海に逃げたことによってウミイグアナという生き物が進化の過程で生まれた。このウミイグアナは潜水ができ、しかも海中で一時間も呼吸なしでいることができるという。

こんなことは生身の人間にはできない。所詮人間もその程度の生き物ということだ。

自然界において、これでもかというほど劣等生物だというのを忘れてはいけない。


人間は愚かで弱い生き物で(私も含めて)他の動物に比べて何も取柄もなく、他に優れたところが何もない。だけどすごいと思う事がある。それは文明の発展だ。ライト兄弟のように飛行機を開発したり、海を航海するために船を作るといった、生活を今より良くするための発明や巨大な建造物を作れるのは地球上では人間だけだろう。昔と違って現在の生活はすごく快適で、暑いときや寒いときにはエアコンをつける。娯楽も今の世の中には溢れかえっていて、楽しんで生きることには何も苦労しない。携帯電話の普及により、遠い場所にいる友達とすぐに連絡をとれるし、今ではSNSといったコミュニケーション技術の発達によって世界中の人と知りあったりもできる。まぁわたしには無縁のことだけど。

生きていく上で別にこのような事は必要もないはずなのに、人間は知能という武器によって様々なものを築いてきた。それだけは同じ種族として誇れる。まぁわたしがすごいわけじゃないけど。



夜の街はとても綺麗だった。日本の中で一番の都会と言われている東京に生まれた時から住んでいたので全く気付かなかったが、これだけ大きな人口建造物が立ち並んでいる場所はなかなかないだろう。あちらこちらでネオンが輝き、ビルの電光掲示板では今を時めく芸能人のCMが流れている。もちろん景色が綺麗なのは知っていたけど、下を歩いて見ているときとは全然違った。それに観光地というのもあり、常に人でごった返しているので、人混みが嫌いなわたしにはとても不快だった。

だから誰にも邪魔をされないこの瞬間をいつまでも味わっていたい。それに下にいる人間を見下ろすのもいい気分だ。空も飛べない劣等生物からわたしは進化した。人類を超越した力を手に入れたんだと改めて思うと笑いが止まらなくなった。街にいたら明らかにヤバいやつみたいに思われても仕方がないくらい高らかに笑っていたのに気づき口を手で覆ったが、そもそも誰にも見られていないから大丈夫だった。

笑いすぎて顔が痛くなってきたところで自然と笑いは止まった。とりあえず今いる場所からどこでもいいから行こうと思い移動しようとしたとき、ビルの電光掲示板がCMからニュースに変わった。

黒いスーツに身を包んだ、いかにも気真面目そうな年配の男性が出てきてニュースを読み上げだした。


「こんばんは。たった今入ったニュースをお伝えします。先週の水曜日に取り上げた、都内の女子高生行方不明事件について新たな動きがあった模様です。事件が発覚した日から一週間後の今日、行方不明になっていた五人の女子高生のうち四人の家の玄関前に人の骨と思われるものが置かれていたことがわかりました。

一部の骨には肉片も付着しており、警察はDNA鑑定を行って身元の特定を進めるとともに、残りの一人の行方を捜すため警視庁は捜査人数を百人から千人に増やして事件の解明に取り組むと発表しました。以上、ニュース速報をお伝えしました」


電光掲示板から突然発表されたニュースを足取りを止めて見ていた人たちは、さきほどまで楽しそうに街をとは思えないほど驚いた顔をしていて、なかには友達と二人で仲良く話していた女子高生は不安そうな表情をして、今にも泣きだしそうだった。

このニュースを見てすぐに自分のことだと気づいた。行方不明の女子高生と報道されているのを見ると、わたしたちの誰かの家族が捜索願を警察に出したのだろう。名前が公開されていないのはプライバシーに気を遣ってくれているのだろうが、この時代だ。ネットですぐに誰が行方不明というのは広まっているだろう。捜索願を出したのはわたしの家族かもしれない。他のやつらの家族仲が良くないことを知っている。しょっちゅう家出をしたり、家に帰らずに遊びまわっていたことで地元では有名だった。事件から一週間後の今日とキャスターは言っていたので、そんなに時間が経ったのかと不思議に思いながらも、わたしは他に引っかかることがあった。


あの夜、屋上で四人をバラバラに殺したのは覚えている。だけど、殺した残骸の処理はしていなかったはずだ。あの後すぐにサタンが来て、今後の計画を聞いてすぐにグレムリンのところへ行ったので、おそらく残骸は屋上にずっとあるはずだった。屋上は立ち入り禁止で鍵がしまっていて、生徒は誰も入れないようになっている。わたしが何故行き来出来たかというと、度々屋上に行きたいと仲の良い先生にずっと言っていたので、こっそりと合鍵を作ってもらっていたからだ。お昼ご飯の時間になるとよく一人屋上で食べていた。便所飯という手段もあったが、あんな臭いところで食べては美味しい物が不味くなるので絶対にしたくはなかった。


教師なら屋上の鍵をすぐに持ち出せるので屋上へと入ることは容易ではあるが、立ち入り禁止にするぐらいの場所にわざわざ入る意味がないだろうと。

思いついた説はまだあった。カラスか何かの動物が残骸を見つけて運び出して食べたという説だ。カラスは死肉を食べるので、死んでいる人間を突ついて食べるのは変な事ではないし。

だが肝心な事をすっかり忘れていた。

残骸がどうなったのかはどうでもいい。何故あいつらの家の前に骨が置いていたのかが問題だった。カラスが死肉を食べるというのはあるが、そのカラスが名前も知らない死んだ人間の肉を食べた後、ご丁寧にそいつらの家の前に食い終わったあとの骨を置くなんて絶対にありえない話だ。漫画の中の話じゃあるまいし、百歩譲ってカラスが骨を運んで、たまたま玄関前に落ちたとしてもだ、カラスが死んだそいつらの家がわかるはずがない。

とすればだ、一番しっくりくる答えは自然に出てきた。

サタンがやったという説だ。戦いから帰ってきてしばらく疲れて眠っていたので、わたしが目を覚ます前にサタンがこの残骸を片付けてくれたんだろう。再び目を覚ましてあの残骸を見るのは可哀想だろうという粋な計らいかもしれない。肉片は食べたのかどうかはわからないが、悪魔なら人の肉も食べるのも不思議ではない。はず。

とりあえず、そういうことにしておこう。

ゲテモノ食いのレッテルを勝手に貼って申し訳ないが、間違っていたら後で謝ればいい。



考えをまとめたところで、再び街を飛び回ろうとしたその時だった。

急に誰かの視線を感じてバっと後ろを振り返る。

しかしそこには誰もいなかった。そりゃそうか、こんな高い場所に人がいるはずがない。

視線を感じて誰もいないなんてのは、人間でもよくある話だ。

安心して前を向こうと思い振り返るときにふと思った。

人がいるはずがない。人が。

自分の存在を忘れていた。わたしは人ではない、悪魔だ。

今度は恐る恐る振り返る。

そこには、わたしと同じ人間ではない者がいた。

その見た目から一目で悪魔だとわかった。

見た目は童顔な男という感じで、私よりもかなり小さい小柄な悪魔だが体格はしっかりしている。腹筋はバキバキに割れてボディビルダー顔負けだった。

目の前にいる悪魔はじっとこちらを凝視していた。

人間世界にも普通に悪魔がいることはサタンが来ていた時にわかっていたはずなのに、そんなことを忘れて私は呑気に飛び回っていた自分の危機管理能力のなさに悲しくなってくる。


さて、どうするべきか。

相手の実力も全くわからないので出来れば戦いたくはないが、逃げ切れるという保証は全くない。

まず運よく戦わずに逃げれたとしても、どこに逃げ込めばいいのか全くわからないし、結局戦うはめになるのは時間の問題だろう。

やるしかない。

拳に力を込め身構えた。

攻撃するチャンスを待っていたが、相手は全く隙を見せなかった。

向こうもこちらの出方をうかがっているようだった。

仕方がない、こうなったらこっちから仕掛けるか。

すっと姿勢を低くし、足に力を入れ突撃しようとしたその時


「待て」


突然発せられた言葉を聞き攻撃を止めようとしたが、勢い余ってそのまま攻撃を止めることができずに突撃してしまった。よーい、と言われクラウチングスタートの状態で構えている陸上選手がスターターピストルが鳴る前にフライングしてしまう感じだった。

止まらない。そう思ったのもつかの間、その悪魔はひゅんと私の目の前から消えた。

どこにいるのかとあたりを見まわたすと、わたしの攻撃する前の場所にいた。

攻撃を避けてくれて助かったという思いが出てきたのと同時に、避けられたという屈辱から怒りが沸いてきた。この悪魔はわたしより強いと実感してしまったからだ。

態勢を整え直すと、そいつは話し出した。


「何か感じる。あんた・・・僕と同じ幻影ファントムか」







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