最速の男
とりあえず猫の姿じゃ何も出来ないので変身するまで路地裏で待機し、その数時間後。やっと男の姿に戻った俺は一息付いて道に出ようとする。
がーー
っっあっぶねー!!
俺、服着てねーじゃん!
きっと猫になった時に師匠の家に置いてきたからだな。意気揚々と、全裸で街を徘徊するところだった!そうなったら《ディアナ》の神格者はど変態という噂が広まって師匠にも迷惑が……。
……。
それでどうしよう。30分悩んだ挙句、路地裏にあるゴミ箱を漁る事にした。プライドを捨てたんだ。頼む、なんかあってくれよ。漁っていると白色の指輪が見つかる。コレ…服系のリングなら都合いいけどなぁ。
とりあえずはめて見る。
脳内にこのリングの呼び出し方が浮かび上がる。
…ふむふむ。
『伝説の服』
おおっ!服だ!名前もなんか強そうだし絶対にかっこいい服だよコレ!使おう!
「《リング》『伝説の服』」
リングが壊れて俺は布の肌触りを股間に感じる。刹那、白いブリーフが現れる。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
キタキタキター!
パンツがブリーフっていうのはよく分かんないけど、これから順に着込んでいくはずだ!
……。
……おわり?
俺はブリーフ1枚の姿で崩れ落ちる。
伝説の服ってーーブリーフのことかよ!!!そもそもブリーフは服なのか!!?
「あれです!
あの人です!」
ん?
俺が声の方を振り向くと、こちらを指している女性。
その隣には明らかにこちらを疑っている男性がいた。
「全裸では無いですが確かに変態ですね。逮捕します。」
ヤバイ。
俺は《逮捕》という言葉を聞くなり全速力でダッシュする。
「…っっ!は、速い!!あの変態速いですっ!!」
女性の意味分からない解説を最後に俺は路地裏を出る。
ーーっと。
こっちもヤバイ。目の前の大通りには商店が開かれており、人々が行き交っていた。不意にお母さんに連れられた子供と目が合ってしまう。
「おかーさーん!変態がいるー!!」
めっ!!そんな大声で叫ぶんじゃありませんっ!!
俺は人々の目線が集まる前に、高速で屋根へと飛び移る。
「そんな嘘つかないの!
周りの人がビックリしちゃうでしょ?」
「でもさっきまで居たよ!ものすごい速さで逃げちゃったけど!」
「そんな速い変態はこの世に存在しません!」
いるんだなぁこれが。ってそんなことよりも!
屋根の上に伏せていると大通りを挟んだの家の二階に洗濯物が干してある。これだ。見た所誰も居ないし、行くしかない。俺はおもむろに立ち上がり助走をとる!GO!俺!全力で屋根を蹴りつけて、ブリーフ1枚の俺が宙を舞う。真下には大通りを楽しそうに歩く人々。君達、上見たら殺すからね。俺は華麗なジャンプを決めて服を掻っさらう。
……すいません。いつか弁償するんで許して下さい神様。
※ ※ ※
うぅ。なんでこんな事になってるわけ?私はギルドでクエストを受けたいだけなのに!
「だからぁー。
俺達が仲間になってやるって言ってんのぉ?」
頭から牛の角を生やした醜い男性と、その取り巻き2人が私にそう言ってくる。
「嫌って言ってるでしょ!もう消えてっ!気持ちの悪い!」
「おいおいそれは言い過ぎじゃね?」
「そうだぞ小娘!大人しくモーさんに従え!」
「お前らやめるモー。」
取り巻きの2人を黙らせるように牛男は口を開く。
「見苦しいモーよ?」
「ふっ……ふん!そっちの牛の方が話が分かるじゃない!」
「生意気な小娘は無理矢理が好きなんだモー。」
「え!?」
牛男は、私の腕を強く掴んでくる。
「やっやめなさいよ!」
「可愛いモー。さぁ俺たちと一緒に俺の家に帰るモー。」
本当に気持ちの悪い。こいつら下衆過ぎるわ。周りで見て見ぬ振りをする輩も同罪よ!
「はっ離し「離してやれよ!」
私の言葉を遮るように背後から声が聞こえる。ギルド内の視線が声の主に集まる。
「離してやれ。嫌がってるだろ?」
「お前誰だモー。なんかその服…俺のそっくりだモー。」
「お、俺はセドナ。セドナフルムーンだ。それ以上続けるならお前を倒す。」
「…面白いやって見ると良いモー。」
牛男は私の腕を離して青い指輪をなぞる。
「セドナ…フルムーン…?
どこかで聞いた事あるぞ…。」
取り巻きの1人がそう言ってガタガタと震えだす。
「《リング》『メタルソード』だモー。」
「剣を使うなんて卑怯よ!」
「うるさいモー!
後から俺の家で、楽しい事してやるから待ってろだモー!」
「良いから来いよっ!」
男性は余裕の表情で顎をクイッと上げる。
「貴様の命は無いモー!」
牛男が突進する様に突き繰り出す。
「モーさんそいつは駄目だ!!」
取り巻きの言葉が発し終わると同時に剣は真っ二つに折れ、牛男は腹を抱えて地面に蹲って居た。
「ぐぅぅ……。」
「後2人は?」
「モーさんの仇を取ってやる!」
「やめろ!そいつには絶対勝てない!」
「なんで止めんだよ!俺たちがパーティーのリーダーがやられて黙って見てるのか?」
「《セドナ・フルムーン》《ディアナ》の神格者。
最年少で12神格者の1人になった男だ。」
ざわざわとざわめくギルド内。皆の視線が彼に集まる。
「し、神格者だと!?」
ゴクリと息を飲む取り巻き2人。
「「すいませんでした!!」」
2人の男はそう言って牛男を拾いギルドを後にした。
「大丈夫?」
セドナと呼ばれた男が私に声をかけてくる。清潔な黒髪に長い睫毛。柔らかい瞳に潤んだ唇。酔いしれてしまいそうな声。
かっこいいーー
あ、お礼を言わなきゃ。私を助けてくれたんだよね。
「べ、別に助けて欲しいなんて
言ってないじゃない!」
ち、ちがぁーーう!出ちゃった私の悪い癖!
「そ…そう?
でも君が無事で良かったよ。」
ーー!!見た目だけじゃなく心まで素敵なのね!
もう1度!もう1度チャレンジしてみるね!
「………あ、ありがと……。」
言えた!!ちゃんとお礼出来た!凄いぞ私!もう一歩!もう一歩踏み込むよ私!
「あ、あの良かったら一緒にクエストでも……」
言えた!恥ずかしくて目も合わせられ無かったけど。
あーもう。かっこいい人って輝いて見えるって言うけど本当なのね。彼が光って見えるもの。
「ーー!!!ちょっとゴメン!急用が出来たみたい!」
え?
彼はそう言ってギルド出て行く。
「ちょっと!待ってよー!」
釣られて私もギルドを出る。目の前の男性を追いかけて走る。速い!あの人物凄く速いわ!セドナが不意に右に曲がる。どうやら路地裏に入り込んだみたいだ。
あの路地裏は多分行き止まりの筈。
「ちょっと待ってー!!」
私が路地裏に目を向けると銀髪の天使がそこに居た。
※ ※ ※
「うぅ。私の飯が行ってしまった。」
ご飯を作るのは朝昼晩とセドナの仕事だ。彼がいなくなった今、明日からどうすれば良いのやら。
ふと視線を向けると床にはセドナの服が落ちている。
ふふぅーん?
猫になってしまい服だけ取り残されたパターンじゃな?私はおもむろにパンツを拾い上げる。
……。セドナが履いていたパンツ……。
「お、置いていった弟子が悪い!!これは罰じゃ!」
そう独り言を呟いてパンツに鼻をつける。
そして深呼吸。
ふぅー、あやつも男になったものじゃあ。……って、いかんいかん。明日からの飯はどうするか。その問題が解決しておらん!パンツを床に戻そうとすると今度は黒い指輪が目にとまる。
?
指輪をつけて中身を確認すると、大量のリングとお金が入っていた。
「ぬぉぉ!」
セ、セドナ!!あやつ、私の為にこんなにも資金を……!!持つべきものは弟子じゃな!これで明日からの飯は困らん!
「ぬふふふふ。」
私は笑みを抑えきれずにパンツへと手を伸ばした。
女「あの変態…出来る!!」
男「あのー…それやめません?」
※ ※ ※
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