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猫が美少女で実は俺?  作者: もこ
月光の夜、猫は旅立つ。
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月の娘

部屋に差し込む朝日に起こされて俺は身体を起こす。

今日は何時もより身体が軽いなぁ、なんだか調子が良さそうだ。因みに隣にいる師匠はまだ熟睡中。起こさない様に部屋を出て顔を洗おうかな。

場所は勿論洗面所、この和風調な家の設計は俺だよ?

洗面所ぐらい作りますよ。


「……ふぁー。」


水の滴った顔を布で拭く。鏡なんて大層なものは無いので、顔を確認出来ないが気合は十分だ。

本来ならここで着替えるのだがうちの朝は違う。師匠が朝飯を早く食べたいと言うので直ぐに準備にかからなければならないのだ。左手の小指にはめている黒い指輪をなぞると、空間が歪み穴が出来る。その穴から昨日買ってきた食材を取り出す。

さーて、一丁作りますか!


「おはようセドナ。」


師匠が目を擦りながら居間に現れる。日中は隙のない美人なのだが、今はボサボサの髪で服は肩まではだけている。胸元が見えているのは嬉しい限りです。


「今日の朝飯はなんじゃ?私はお腹空きすぎてぇぇーー!!?」


ん?

師匠が驚いた様に目を見開きこっちを見てくる。

何を驚いているのだろう?


「どうしましたか?」


俺はそう言うと自分の声に違和感を感じる。まるで女の子の様な可愛らしい声。俺がこんな声じゃ無かったのは確かだ。


「何この声…?」


「お主…もしかしてセドナか?」


「……?

当たり前じゃないですか。」


「……。」


「そんなジロジロ見なくてもいつもと同じですよ?」


「……ぷぷっ。」


「……何を笑ってるんです?」


師匠は俺の問いに答える事なく白色の指輪を取り出して指にはめた。


「《リング》

『ウォーターウォール』」


師匠の目の前に水の壁が出来る。本来なら敵の魔法を防ぐ壁として使う物だが今回ばかりは用途が違った。


「みっ…見えるかの?」


半笑いで師匠はそう言う。


「……!!?」


俺は雷に打たれたような衝撃を受ける。

水の壁に映っていたのは良く知る自分では無く、14才相当の銀髪美少女が、不機嫌そうにこちらを見ていたのだ。


※ ※ ※


「いぃぃぃーやぁぁぁぁーー!!」


「銀髪の美少女が一心不乱に頭を打ち付ける。そんな所を見るのも珍しいものじゃな。」


「うぁぁぁーーーん!!」


「と思えば今度は泣き始めた。

うむ。なんともこう…可愛らしいのぅ。」


見ての通り俺は……取り乱していた。


だって!

意味分かんないじゃん!!

朝起きたら女になってるなんて!!


確かにここは異世界でモンスターはいるし、魔法もあるし、剣で人殺すし、語尾に「じゃ。」をつけちゃう黒髪美人が居たりなんでもありだけど!!


そうなんだけど!!

性転換は酷いよぉ!!!


「なぁセドナ。いや女の子だからセナにしようかの。

とりあえず落ち着かんか?」


「し、師匠ぉーー!!僕はどうなったんですかぁぁぁ!」


「私の見立てだと昨日のリングじゃな。」


昨日のリング…。なんかごちゃごちゃ言ってたよく分かんないアレ。アレのせいなの?

超低確率でって言ってたのに成功しちゃったパターンなのぉ!?俺の2回目の人生詰んだんですけど!?


「アレの効果で性別が変わってしまった。そう考えるのが普通じゃな。まぁそのうち治るじゃろう。」


「本当ですか!?」


なんでこんな事に……。

流石にステータスにまで影響は無いよな?


【セナ・フルムーン】

シンボル 猫

レベル 20

スキル

『新月の加護』

『誘惑の美』



「ーー!!!」


え!!?

レベル20!?


見間違いだと思い目を擦る。けれど空中に浮かび上がった文字は20と書いてある。


「……。」


「どうしたのじゃセナ。」


「師匠これ……。」


俺はステータスのレベル部分の秘匿を解除する。数秒後、師匠はそれを見るなり苦笑いを浮かべる。


「レベル20って……どんまいじゃ!」


終わった。今までの苦労も儚く、俺はレベル20まで成り下がった。


「セナよ。少し時間を置いて調子を見ようではないか。もしかしたら時間制で治る可能性もあるじゃろ?」



本を読み漁っても呪いを解く方法が見つからない以上、師匠の言葉を信じてみるしか無いよな。


…ん?


なんだか身体に寒気が走る。それと共に光が僕の身体を包み込む。


「し、師匠!!

なんかこう……光ってます!!」


「お…おう!

もしかしたら戻れるかも知れぬな!」


「やりました!

あぁ本当に良かったです!」


目の前が真っ白になった数秒後、眩しくて閉じた目を開ける。



目の前には普段の数倍の大きさをした師匠がお腹を抱えて笑っていた。



「あはっあははは!」



「あれ?

師匠…背伸びました?」


「ブフォォ!!」


俺の言葉に師匠は吹き出して笑う。

そしてまたもやウォーターウォールを鏡代わりにする為に発動させた。なんだよ?今度は何が起きたんだ?

俺は意を決して水を覗き込む。


「……。……あははは。」



言葉を失い、そして笑うーー


もう笑うしかないのだ。

これは師匠に笑われてもしょうがない。

目の前にはいつもの自分でも無く、銀髪の美少女でも無く、優美な黒猫が苦笑いを浮かべていた。



※ ※ ※




こんな状態じゃ今日の予定もクソも無い。

俺は次の魔格者を探す事を諦めて、書庫で本を読み漁り解呪方法を探していた。ちなみに持ちうる全ての解呪方法は意味を成さず、無駄に指輪を使ってしまった。


「全然無いじゃん!」


弟子が苦悩する姿を嬉しそうに見つめて師匠は呟く。


「そんな焦らんと今日は本来の姿に戻れる事が分かっただけでも良しとしようではないか。」


「それじゃあ駄目なんです!

完璧に解呪しないと!」


今の俺は本来の男の姿。と言っても呪いが解けたわけではない。

朝から

女➡︎猫➡︎女➡︎男

といった風にランダムに姿が変わっていき、今は男に落ち着いたのだ。


「師匠も書物を探して下さいよ!

僕1人では…あぁまた身体に寒気が!」


「おおっ。

今度は何になるのじゃろう。」


光が身体を包み込む。

黒髪は銀に染め上げられて肩まで伸び胸は膨らむ。身体は一回り小さくなって、手足も細く可愛らしいものになる。

勿論、股にぶら下がる大切な物も無くなっている。


「見せ物じゃないですよ!」


あーもう。また女の身体か。割合的には女8:猫1:男1かなぁ、アテにはならないけどさ。


「多分この呪いを解く知識と力は、私の家にはないぞ。」


「じゃあどうすれば良いですか師匠!」


「他の神格者なら強力な解呪の指輪を持っているかも知れぬ。」


「!!」


それだー!!


「しかし神格者達は世界各地に散っておるからのう。

私でさえ全員と会ったことは無いのじゃ。」


「それでも少しの可能性に賭けます!今直ぐ支度して旅に出ましょう!」


「お主……《ディアナ》として、ここら一帯の守護はどうするのじゃ?」


か、考えてなかった…。


《神格者》はそれぞれ12の大国家に分かれてその一帯の守護を任されている。それは《ディアナ》も例外では無く、この国を守っているのだ。


「……。」


「しょうがないのぅ。私も元 《ディアナ》の神格者じゃ。代わりに守護をしておいてやろう。」


「あっ!

ありがとうございます師匠!」


師匠が代わってくれるのなら安心して旅に出れる。


でも待てよ……。


「そうなると師匠は来れないという事ですか?」


転生して今の今まで修行ばかりしていた俺は明らかに知識不足だ。師匠が居ないのは大きな痛手になる。


「私が居なくても大丈夫じゃろ。曲がりなりにも男の姿のお主は神格者じゃ。それに私が認めた男じゃ。」


「……。」



認めてくれるのは有り難いけど、女と猫の時はどうすれば良いんだろう?


「まぁとりあえず行ってこい。

案外簡単に解けるかもしれんじゃろ?」


「それだと有難いですね。

では何処に向かいましょう?」


「んーむ。

最初は《ミネルヴァ》の神格者がいるアルカナじゃな。知恵の神の神格者なら、何か助言をくれるかもしれんのう。」


「ならば《アルカナ》に向かいます。」


「そんなに力まんと肩の力を抜いても大丈夫じゃ。

《アルカナ》付近はとても平和で、モンスターも弱い。よって冒険者の中でもルーキーが集まる様な貧弱な国じゃ。」


貧弱って言っても今の俺はレベル20の女の子なんだけど…。


※ ※ ※



準備は整った。レベルが低くても扱えるリングや、師匠に内緒で貯めていたお金は、全て黒色の指輪に入っている。一番重要な《メインリング》は左手の中指につけているし、これ以上は何も用意できない。


「セドナ準備は良いか?」


「大丈夫です師匠。」


「旅に出たら自分が女や猫である事を隠すのじゃぞ?

《ディアナ》の神格者が呪いにかかっていると知れ渡ったらどうなる事か。」


「承知してます。」


「ふむ。」


師匠は満足そうに頷く。


「では早速問題が発生したので聞いて貰いたいのじゃが。」


「え?」


「移動用の金指輪が底を尽きた。」


まじですか?


移動用指輪はとても高級で、それも金ともなると直ぐには用意出来ない。


「でも安心しても良いぞ弟子。この白色の指輪がある。」


「……。」


白色。

指輪のランクで一番低い色だ。魔法なら威力の弱いもの、剣なら貧弱なもの、移動用なら……精度が低いのだろうか。


「コレ…ちゃんと飛べますかね?」


「付近には行けるじゃろう。

まぁ大丈夫じゃ男なら当たって砕けるのじゃ!」


そう言って師匠は俺の指に指輪をはめてくる。


砕けちゃダメじゃないですか師匠…。


「……それじゃあ行ってきます。

師匠、任せましたよ。」


「うむ。」


「《リング》

『純白の翼』!」


俺がそう叫ぶとリングが光り、白い羽根が俺を包み込む。不意に寒気が身体を駆け抜け、俺の身体が光を帯びる。


「あ、光ったぞセドナ。」


「ヤバイです!このリング止めてぇ!!」


「1度使ったら無理じゃ。」


「えぇぇぇー!!」



このタイミングで変身するの!?それはヤバくないか!?今は女だからせめて男に!猫はやめて!!


羽根が俺の身体を完璧に包み込み、移動の準備が終わったらしい。


「なんとも愉快な弟子じゃな。最後まで楽しませてくれるとは……にしても……。

お主の飯が食べれなくなるのは悲しいのぅ。

ん?飯?

ぬぁぁぁ!!

明日から私の飯は誰が作るのじゃ!待て!待つのじゃセドナ!」



「待ちたいですぅ!!止めて!誰が偉い人止めてぇぇぇーー!!」


もふもふした自分の腕を触り、落胆する。

最悪だ……。一番なってはならない姿になってしまった。


「このタイミングで猫かよぉ!!」


そして目の前には黒色の指輪と金色の指輪が落ちている。

!?おい嘘だろ?

人から猫になったせいで俺の指輪が落ちてるじゃないか!!必死に尻尾で金色の指輪を拾い上げる。後黒色っ!!頼む間に合ってくれ!

俺の思い儚く、視界は真っ白に包まれる。ビューンと言う音が一瞬耳を掠めると、知らない街が、目の前にはひろがっていた。


……。


「俺、一文無しじゃん……。」






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