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猫が美少女で実は俺?  作者: もこ
月光の夜、猫は旅立つ。
1/53

月の子

「詰んだな、

《マルバス》の魔格者まかくしゃよ。」


目の前の男性が俺にそう言い放つ。


畜生…どこで狂いやがった。


……奴は滅茶苦茶強え。

どんな剣技もどんな魔法も猫の様にかい潜り、無傷で俺の前に立っている。

例え奴が《ディアナ》の神格者しんかくしゃだとしても俺は《マルバス》の魔格者だぞ!?

こんなにも力の差があるのか?

既に俺の身体はズタズタになっており、有用な《リング》は残ってない。



「……。」



「命乞いは良いのか魔格者?

ならば消えて貰うぞ。」


闇夜、木々が蠢く森の中。

部下も殺された俺に逃げ道は無い。

ダメだーー

俺はここで奴に殺されて生涯を閉じる。

どうやってもその運命さだめを辿る…。

ならば、

どうせ死ぬのなら引っかき傷をつけて死んでやろう。

それが俺なりのプライドだ。


「《リング》

天地反転てんちはんてんの呪い』」


俺の声に従って右の人差し指にはめていた金色の指輪が光り輝く。これは俺の最後の足掻き。

それに選んだのは、使わないと決めていた呪いのリングだ。

このリングを使用すると使用者は死ぬ。

その代わりに使われた相手は、超低確率で自然の摂理を超えた《何か》が起きると言われている。

それは《失明》かも知れない。

《死》かも知れない。

俺の魔格である《マルバス》は人間を変身させる悪魔である。そこから考えるに《変貌》も面白い。


「……!!」


光が奴を包み込み俺のリングは壊れる。

リングは魔力を引き出す代わりに一度で壊れてしまう物が殆どだ。光が消散していくと共に奴の姿が現れる。姿形、様子などは特に何も変わっていない。


……つまり失敗したのだ。


眩しそうに目を細めた奴は

俺を睨みつけるてくる。


「目くらましか?

つまらん男だな。」


「…クソったれっ!!

失敗しやがった!!」


俺の怒りが頂点に達した時には既に指先が塵になっていた。

使用者は死ぬ。

成功、失敗に関わらずこの事実は絶対に適用されるのだ。


「くそぉっ!!

覚えておけよ!!

次の後継者がお前を必ずーー」



※ ※ ※





自滅した?


俺は突然塵になった敵を見て首を傾げる。


んー。


でも死に際にリングを使っていたな、それが気になるぐらいか…。確か名前は《天地反転の呪い》。

物騒だけど特に身体に異常は無いし、ステータスを見る限り状態異常も付いて無い。

……。

まぁいいか、深く考えなくても。

今すべき事は早く家に帰ることだ。家には師匠がお腹を空かして待ってる。俺は左手の小指にはめている黒い指輪をなぞる。すると目の前の空間が歪み始め、その空間に手を入れて、目的の物を探す。


「…ん。これかな?」


金色の指輪を取り出し、黒い指輪をもう一度なぞると歪みが元の空間に戻っていく。


「少し高価な奴だけど…。

師匠に怒られるよりマシだな。」


「《リング》

『黄金の翼』」


金色の指輪を人差し指にはめ込みながら掛け声をかけると、俺の身体は金色の羽に包まれる。


羽が消えると見覚えのある街の

見覚えのある家の前に立っていた。瞬間移動みたいなものだ。もちろん金の指輪は壊れて消える。

旧ヨーロッパ風の煉瓦造りの家々が並ぶ綺麗な街。

その中にひっそりと佇む和風の家。

場違いな門をくぐり抜けて玄関の扉を開ける。


「戻りましたー。」


俺がそう言うと、

タタタタッと足音が聞こえてきて、和服美人が小走りで奥から出てくる。彼女は腰まで伸ばした黒髪を揺らしつつ俺を指差した。


「遅いぞセドナ!

晩飯には戻ると言うておったろう!」


「すいません師匠。

これでも急いだ方です。」


「罰として女装の刑じゃ。」


「急いで夕飯を作るので勘弁して下さい。」


俺はそう言いつつ家に上がり込む。

戦いの疲れを癒すことなく、早速夕飯を作る事となった。


※ ※ ※


夕飯を食べ終え、風呂も入った後。

俺は居間で師匠と何気ない会話を繰り広げていた。


「気持ちいいのじゃ〜。」


師匠は猫の様にごろごろ転がりながら、満面の笑みを俺に向けてくる。美人なのに笑うと少女の様なあどけなさが伺える。正直かわいいです。


「最初お主に家の設計を頼んだ時は度肝を抜かれたがこの家も案外良いのう。セドナの出身の《ニホン》とやらに行ってみたくなったわい。」


「この世界からすれば異世界ですよ?

それに行って楽しい世界ではありません。」


「そうなのか…。」


師匠は残念そうに呟く。

俺は微妙な空気になったので、すかさず話を変える。


「そう言えば最近修行をする事が

めっきり無くなりましたね。」


「既に《ディアナ》の神格者はお主に引き継いだ。

元神格者は口出しせんよ、それにお主は強い。」


「ありがとうございます、師匠。」


「あとは神格者の責務を全うする事じゃな。」


「はい。」


「そういえばずっと追っていた魔格者はどうじゃった?」


「特に問題なく倒せました。しかし…。」


「?」


「死ぬ間際にリングを使われました。まぁそのリングは何の効果も発揮されず消えましたけど。」


「…そのリングの名前は何と言うか分かるか?」


「確か《天地反転の呪い》。

だったと思います。」


師匠は俺の言葉にふーむと考え込む。

そして思い立った様に古びた本を書庫から取ってきた。ペラペラとページをめくると《天地反転の呪い》という見出しの記事が載っていた。


「これじゃな。

なになに……。

『このリングは使用者の命を持って、相手に超低確率で何かを起こすものです。効果は定められておらず、そもそも過去に成功例がありません。』じゃと。」


「なるほど。僕にそのリングを使ったものの失敗して自滅した。そういう解釈で良いですかね。」


「そうじゃな。

でもつまらんのう。

何か面白い事が起これば良かったものの……。」


「やめて下さいよ師匠…。」


「冗談じゃよ。」


そう言ってケラケラ笑う師匠。昔から性格は変わらないなぁ。まぁ竜族の血が混ざってるから見た目も変わらないけど。


「まぁこの事はひと段落着きましたし、

次の魔格者でも探すつもりです。」


「流石史上最年少で《12神格者》になった男じゃな。」


師匠、貴方の所為ですよ。俺はそう言おうとしたが心に仕舞ってありがとうございます、とだけ言っておいた。


「明日も朝から家を出たいので

今日はもう寝たいと思います。」


俺がそう言うと師匠はプクーと頬を膨らませて無言の抗議をしてくる。


「もうちょっと話しても良かろうに!」


「ダメです。

僕が朝に弱い事、良くご存知でしょう?」


「なっ…ならば今夜はセドナの布団にお邪魔するとしよう。」


師匠が顔を赤くしてそう言うので俺は良いですよと答える。相変わらず師匠はかわいいなぁ。


※ ※ ※



街が静まり返る深夜。俺は眠れずにいた。

隣にいる師匠は、すーすーと可愛らしい寝息を立てて熟睡している。そっと起こさない様に布団から抜け出す。


「夜風に当たろうかな。」


独り言を口にして縁側へと足を運ぶ。

縁側から見る夜空の月は、儚くそして美しく街を照らしている。日本で見る月なんかより数倍綺麗に見えるなぁ。


……日本かぁ。


久しぶりにそんな言葉を思い出すと、昔の記憶も蘇ってくる。何処にでも居る男子高校生だった俺は、毎日変わらない日々に飽き飽きしていた。何か面白い事は起きないか。

血眼になって日常に潜む非日常を探し続けていた。そんな性格が祟ったのかもしれない。ある日、何時ものように目をさますと俺は突然この世界に転生していた。

それも赤ん坊の姿で。

普通の人ならば受け止められないだろう、元の世界に戻してくれと嘆くだろう。けれど俺は違った。

突然の非日常に驚き歓喜した。人生をもう一度やり直せると思い野心に燃えた。


※ ※ ※


両親から『セドナ・フルムーン』と言う名前を貰った俺はすくすくと成長していき、次第に考えている事を話せる様にもなっていった。両親はあまり裕福でなかったが、2人の愛情を全身に受けて俺は育ち、それに報いるよう両親が喜ぶ天才を演じた。喜ぶ2人を見て俺も嬉しくなった。と同時にこの世界の事も調べた。

ツールは本。これが一番分かりやすく手っ取り早い。

俺は家に有るありとあらゆる本を読み漁り、知識を身につけていった。


この世界の名は『フラットフリット』

まさにゲームの様な世界だ。

中世ヨーロッパの様な街々や、モンスターが闊歩するダンジョン。それを狩る冒険者達。魔法の指輪に剣技に防具。人にはステータスがあり、そこにはレベル、代表的な3つのスキルなどが記載されている。RPGの様なこの世界の全てが俺の心を震わせた。

その中でも一際心に残ったのは12の神格者と72の魔格者だ。この世界には生まれながらに、神の力や魔の力をスキルとして持っている人々がいる。その人は『神格者』と呼ばれ人々に崇拝されたり、『魔格者』と呼ばれ人々に忌み嫌われる。

そしてその2つは対立関係にある。

生まれながらに残忍で残酷な心を持つ72の『魔格者』は、裏から世界を乗っ取ろうとしている。

それを良しとしない心を持つ『神格者』は、表から世界の平和を守っているのだ。


『神格者』


とても憧れる。

けれど俺には関係のない事だ。

そう思っていた7歳児に転機は訪れる。


「セドナ。君は月の子だ。

父さんも母さんも悲しいけど、君と離れなければならない。」


俺は突然父であった人にそう言われる。

訳が分からず彼に話を聞くと、答えは直ぐに分かった。

俺の7歳の時の簡単なステータスは、


【セドナ・フルムーン】

シンボル 猫

レベル12

スキル

『新月の加護』

『知力+10』

『 』


であり、


12の神格者とは

ユピテル

ユノ

ネプトゥヌス

セレス

ミネルヴァ

ディアナ

アポロ

ウゥルカヌス

ヴェヌス

メリクリウス

マルス

バッカス

が挙げられる。


『新月の加護』は《ディアナ》の神格者のみに与えられる固有スキルなのだ。


そして神格者の固有スキルを持った子供は、7歳の時に現在の神格者の元へと送らなければならないのだ。

いずれ自分の座を継がせる様、修行をする為に。

そして2度と親とは会ってはいけない、神格者に恨みを持った魔格者サイドの人間が親を殺しに来る可能性があるからである。


そうして俺は親元を離れ師匠の元に転がり込んだ。


「お主が私の後継者か。

手加減せずに鍛え上げるから覚悟したほうが良いぞ。

後、スキルの1つやレベルは任意で見せない事も出来る。特に『新月の加護』を見られたらお主は魔格者に狙われてしまう。隠しておくのじゃ。」


最初に発せられた言葉通り師匠は死んでも可笑しくない修行を毎日毎日俺に課した。何体も何体もモンスターを倒し、何回も死にかけた。そうしていくうちに師匠との間には強固な絆が生まれた。誰にも話すまいと思っていた自分が異世界からの転生者だという事や、前の世界の事を師匠には一通り話をした。


そして10年。その甲斐あって俺は、神格者として恥じないレベルまで成長を遂げた。

レベルは219。

常人が生涯で80に届けば凄いとされる世の中で、200越えは半端ない。それでも師匠のレベルは321なので、最強とは言い難いけれど。17の時に正式に《ディアナ》の神格者として師匠から座を継承し、数々の功績を残して今に至る。


これがこの世界での俺の人生。なんだかんだで楽しんでいる。《ディアナ》の神格者として人々に頼られるのは何とも言えない喜びがある。明日からも俺は人々を助ける為に戦っていく。

そう心に誓う。


「さむっ。」


夜風が寒くなり始めたので、俺は師匠の待つ布団に戻った。
























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