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一時間目が終了し、休み時間となると同時に、莉子はまた椅子を後ろに向けて座った。
「昨日も黒騎士さんに会ったよ」
開口一番、真紀に言う。
「会ったんじゃなくて、どうせ会いに行ったんでしょ」
真紀はため息をついた。
すっかり悪いイメージを持っているのか、黒騎士の名前が出ただけで、心配そうに声のトーンをいくらか下げた。
「えへへ、バレたか」
莉子はそんな真紀の様子にまるで気付かない様子で、軽く舌を出して微笑む。
「で、どんな話したの?」
「えっと、学校とか、服の話とかかな」
「また莉子が一方的に話てたんじゃない?」
「そ……そんなことない、よ?」
莉子が眼を泳がせて言うと、真紀は「どうだか」とまるで信じていない様子を見せた。
だって、黒騎士さんが私のこと聞きたいって言ってきたんだもん。しょうがないじゃない。
「じゃあ、黒騎士さんは莉子に何言ってきたの?」
「えーっと」
そういえば、ひとつだけ訊かれたことがあったっけ。
莉子は昨日のやりとりを思い出した。
「『彼氏とかいる?』って訊かれた。いないって言ったら、驚かれたけど」
「何かそれって、下心丸出しじゃない?」
非道い! 何でそんなこと言うの!
莉子はむきになって迫った。
「黒騎士さんのこと悪く言わないで!」
「はいはい、ごめんごめん――これだから男と付き合ったことのない子は」
後の部分は聞こえないように言った独り言だったらしいが、莉子はしっかりと聞き取ってしまったようで。
「しょうがないじゃん。良い出会いがないんだからさ」
「確かにうちの学年の男って、パッとしないからね」
真紀は苦々しく笑った。
「あ、でも、黒騎士さんはいい感じかなぁ。何か、格好良い人のような気がする」
「気をつけなよ。男は上半身と下半身が、別々の生き物なんだから」
「もうっ!!」
莉子は真っ赤になって怒ったが、真紀に対しては柳に風。まるで相手にされず、軽くあしらわれた。
あ、そうだ。これを聞けば、真紀も思い直すかも……。
「ねえ、聞いてよ真紀。黒騎士さんって、N大学の人なんだって」
「え、N大学?」
真紀は驚いた表情を見せたが、すぐにそれは猜疑の色を濃くしていった。
「ね、いい感じでしょ」
「それってさ、何か嘘っぽくない? ゲームばっかしてる、それもレベル611の人が、勉強なんかできるのかって話じゃない?」
「うーん、どうかなぁ」
頭の良い人って、勉強しなくてもできちゃったり?
莉子は頭には、そんなことが浮かんだ。
「きっと勉強できる人って、勉強してるからできるんじゃない?」
莉子の心の声に答えるように、真紀が言った。
「そうだよねぇ。私もそう思う」
じゃあ、どういうこと……?
莉子は真面目に考えた結果、一つの結論に行き当たった。
ゲームもできて、勉強もできる。世の中には、そんなすごい人がいるんだ! 莉子は満面の笑顔で言う。
「きっと黒騎士さんは、現実でもレベル611なんだよ!」